「私たちの生活学校」151号掲載
インタビュー

地域と学校のコーディネータ役を担う
東京都北区・あすか生活学校
 東京都北区のあすか生活学校(代表・田丸せつ子さん・メンバー数41人)では、地元の区立西ヶ原小学校(校長・野口繁子さん、児童数230人、7クラス)の家庭科や総合的な学習の時間の一部を受け持つなど、全学年の児童の指導や、さらに放課後の校庭開放を担ったりと、学校と密接な関わり合いを持っている。同生活学校が小学校との協力関係を作るにいたった経緯などを聞いた。


――あすか生活学校が西ヶ原小学校とかかわるようになったきっかけは、どのようなことからですか。

 私たちあすか生活学校は、PTAのOBをメンバーとして発足した生活学校です。そんな発足の経緯もあり、以前から子どもたちと関わり合いを持ちたいと考えていました。
 しかし、自分たちの子どもたちは学校を卒業してしまって、子どもたちに直接関わるチャンスはなかなかありませんでした。当時、テレビや新聞で子どもの荒れた姿が多く報道されていましたが、それが「本当にそうなのか」を確かめてみたい、という気持ちも持っていました。
 そんなときに、平成9年ですか、北区が教育ビジョンを策定しました。その教育ビジョンの内容を簡単に記したパンフレットが目に留まりました。このなかでは、「子どもの育成を支援する教育ボランティア団体」を求めていました。


校長先生との話し合い

 そこで、地元の西ヶ原小学校の当時の校長先生を訪ね、「区の方から、このような記事が出ていた。私たち生活学校としては、こういうことができるが、学校のなかでやらせていただくわけにはいかないか?」と申し上げました。1時間ほどの時間をかけてじっくりと説明しましたら、その場で校長先生が「やりましょう」と即断されました。
 ここでは何をしたかと言いますと、牛乳パックを素材にしての栞づくりと七夕の飾り付けをしました。飾り付けは、7メートルの竹2本を用意して、子どもたちと一緒にしました。これは、6月の第4土曜日に行なったのですが、校長先生に面談したのが、4月でしたので、準備期間がなく、大慌てで準備をした記憶があります。それが終わったとき、学校側は「1回だけで終わらせるのはもったいない、継続してやってほしい」ということでしたので、その行事は今でも続いています。
 その次に、子どもたちを老人ホームに連れて行きました。校長先生は、近くに老人ホームがあることもご存知ありませんでした。そこで、校長、教頭、生活指導の先生、児童の代表委員などと一緒に、老人ホームを訪れ、お年寄りたちとの交流を楽しみました。その年度は、ほかにも区主催のエコエコまつりにも子どもたちと一緒に参加しました。ここでは、給食の残菜をコンポストにしてリサイクルしていることを発表しました。
 さらに、校長先生から「1、2年生の生活科の授業で、何かできないか」というご希望がありましたので、牛乳パックを使っての紙漉きをしました。そんなことで、平成10年度から学校、子どもたちと関わり合いを持つことができました。


――その後、各学年の授業を受け持つなど広がりをもっていったわけですね。

 ええ。現在では、1年生から6年生まですべての学年にわたって、授業を受け持っています。
 3年生は、「絵手紙づくり」などを、4年生は、「干支カレンダーづくり」を、5、6年生では、家庭科の授業、6年生は茶道の体験学習も行なっています。ほかにも、放課後に、月1回、1、2年生を対象に「紙芝居」もしています。
 このように広がっていったのは、先生の方からのリクエストもありましたが、私たちのほうからも「こういうことをやらないか」と積極的に売り込んでいきました。当然、メンバーだけでは対応できないものもありますので、地域の人たちにも応援を頼んでいます。
 授業だけでなく、一昨年から、放課後の校庭開放も担っています。西ヶ原小学校では、月曜日から金曜日の3時から5時まで校庭を開放していて、この小学校の子どもだけでなく、近所の中学生なども来てサッカーなどに興じています。この校庭開放は、近くに遊び場がないこともあり、前々から実施が望まれていたのですが、校庭を見守る人を確保できなくて、実施が伸び伸びになっていました。そこで、生活学校が見守る人を探し出し、その人たちを校長先生が「指導員」に任命し、ようやく実施に踏み切ったものです。
 さらに昨年からは、プール指導補助もしています。プールの授業は、気温と水温の合計が50℃以上ないとできないので、直前にならないと実施するか、しないか決まりません。そういうわけで人を確保するのが大変なのですが、たしかに40人近くいる子どもを2、3人の先生だけで指導するには目が行き渡らないと思いますので、お手伝いしています。


――一般的によくお聞きする話として、「最初の校長先生は理解があって良かったのだが、人事異動でその校長先生がかわられ、後任の校長先生はあまり理解をしめされなく、困る」という話があります。そのようなことはなかったのですか。

 残念ながら、そのようなことはなかったです(笑い)。これまで、3人の校長先生とお付き合いしましたが、それぞれ理解を示してくれました。


生活学校の実力を見せて

 実は、最初の校長先生は、翌年の4月には異動され、4月から新しい校長先生が来られました。その新任の校長先生に、「昨年度は、かくかくしかじかのことをやったのだが、今年度も引き続きできないか」という話をしました。そうしたら、校長先生は「計画書を持ってきてほしい。それを職員会議にかける」という話でした。早速、計画書を作り、その計画書は職員会議にかけられました。先生方は、昨年度の経験がありますので、「ぜひ今年もやってほしい」という意見を出され、実施しようということになりました。
 でも、最初、新しい校長先生は半信半疑だったようです。そこで、茶道の授業を見てもらいました。私たちのメンバーには茶道の師範が3人おります。その3人を中心に授業を持ちました。最初に、図工の先生の指導のもと、児童一人ひとりの茶碗を焼き、マイ茶碗を作りました。そして、授業では、単に作法を伝授するだけでなく、所作一つ一つが持つ意味、茶道の歴史、さらには、茶道が日本のみならず国際的にも受け入れられている文化であることなどを語っていきました。授業を参観した校長先生は、「これだけ奥深い授業ができるのか。地域でこれだけのものをもっているのか!」と感心され、「どんどんやってください」となりました。この校長先生の時代に学校側との信頼も深まったと思います。
 さらに3年後、その校長先生も異動の時期になりました。異動される直前に「異動してしまうのですか?」と不安を漏らしたとき、その校長先生は、「大丈夫です。次の校長には、あすか生活学校のことはすべて話しておきますから、大丈夫です」と、確約してくれました。
 事実、新任の校長先生は、私たちに「前任の校長から、あすか生活学校のことは聞いています。前任の校長同様よろしくお願いしますね」と、あいさつをされました。そして、引き続き関係を深めています。
 そして、小学校の学校案内やホームページにも、あすか生活学校の活動が大きく紹介されていますし、方々から来る視察の人たちにも、私たちの授業を見てもらっています。また、卒業式、入学式などの学校行事にはかならず招待状をいただき、出席しています。これまでの一連の活動が認められ、学校評議員にも生活学校の代表が就任しました。


周到な準備を

――学校からの信頼をそれほどまでに得るには、ご苦労や工夫があったかと思いますが。

 たしかに。外部の人が学校に入り、すぐに授業ができるかというと、そう簡単ではないと思います。周到な準備が必要だと思います。
 授業を受け持つ場合、私たちは次の三つのことを基本においています。第一に、作品を作る授業であれば、授業の時間内に子どもたちが作品を完成させるようにすること、第二に、子どもたち全員に授業の内容を理解してもらうこと、第三に、先生は普段あまり子どもたちをほめません、そこで私たちができるだけ子どもをほめるようにすること、です。
 具体的に申し上げれば、家庭科のミシンの授業を担当しています。小学校の場合、専門の教師が配属される科目として、図工、音楽、家庭科の3教科があります。図工と音楽は1年生から6年生まで全学年に授業がありますので、専門の教師を確保できるのですが、家庭科は、5、6年生しか授業がありませんので、うちの学校では、その専門の先生がおられませんでした(現在はおられますが)。5、6年生の担任が男性の先生ですと、家庭科のミシンの授業は、悩みの種のようです。そんな話しを聞きましたので、それでは、私たちがその授業をやりましょうとなりました。
 もちろん、事前に先生とは綿密な打ち合わせをしました。学校が用意するもの、子どもに持ってきてもらうもの、私たちが提供できるもの、それを明確にしておきます。そして、授業の予行演習もしました。先ほど申し上げましたように、子どもたちに完成品を作ってもらうことが大事ですので、作業ごとの時間配分には気を配りました。授業当日は、子ども4、5人に対し、メンバー1人がついて、マンツーマンとまではいきませんけれど、指導にあたりました。
 終わったあとも反省会をひらきました。子どもたちは初めてミシンにふれるので、ミシンがかけやすい素材を使うこと、「自由な発想を伸ばすために創作を」などと言うけれど、基本が大切、ミシンが正確にかけられるようになってからの創作だ、などの意見が出され、次の年の授業に生かされています。
 この授業は、年度によって多少違いますが、5、6年生それぞれに90分授業を3回実施しています。わが小学校の子どもたちは、女の子も男の子もちゃんとミシンがかけられるようになって卒業していきます。
 それから、子どもたちを相手にするのだから、細心の注意は必要だと思います。茶道の授業で使う和菓子は、個人の商店ではなく、名のあるデパートで購入しています。なぜかといえば、もし万が一、食中毒などが生じた場合に、補償などを考えてのことです。


小学校が生活学校の活動拠点に

――このインタビューが始まるまえ、保健センターのお医者さんなどが講師となって「認知症予防講座」が開かれていました。メンバー以外の方も大勢参加されていたようですが、これも生活学校が主催されたのですか。

 ええ、そうです。講座だけでなく、生活学校の定例会なども学校で開催しています。小学校が、私たちの活動の拠点になっています。もちろん部屋を無料で貸してくれるし、備品類も借りています。今回、開いた講座の案内も学校が子どもを通じて、保護者に配布してもらっています。そんなわけで、メンバー以外の方も出席されています。
 このような講座を小学校で開く本当のねらいは、地域の人たちに学校に入ってもらいたいからです。学校開放といっても、普通、一人では、学校になかなか入りづらいし、理由がないと入りづらい。そのきっかけづくりになればと考えています。玄関からこの2階の会議室に来るまでに、子どもが描いた絵や活動の写真が飾ってあって、それを眼にしたり、あるいは子どもたちと会話することもあると思います。そういったことで学校、子どもたちに触れていただければと考えています。そういったことを積み重ねる中で、私たち生活学校は、地域と学校のコーディネータ役を担いたいと考えています。


――先ほどの放課後の校庭開放もそうなのですが、学校の開放というと、いろんな事件が相次いで起こり、むしろ閉ざす傾向にあるように見受けられますが。

 たしかにそうですね。最大限の注意を払うことが必要でしょう。しかし、恐れていたら何もできないと思います。チャレンジが必要だと思います。


――西ヶ原小学校がコミュニティスクール(学校運営協議会)に指定されましたね。その動きを紹介していただけますか。

 西ヶ原小学校では、私たちの参加もあって、特色のある活動をしているという実績を認められ、コミュニティスクールに指定されたものと思います。北区では、最初の指定になります。現在、平成18年4月の導入に向けて準備が進められています。
 校長先生が実施校の視察をしたり、この地区には、西ヶ原小学校のほか、滝野川小学校、飛鳥中学校の二小学校一中学校がありますが、中学校の先生が小学校の授業を参観したり、その逆のことをしたり、あるいは、生徒と児童の交流も進めたりしています。
 生活学校からも、コミュニティスクールの委員に参加して、発言をしていきたいと考えています。
 また、私たちも、子どもの食の問題について調査を計画しています。


大人が大人の役割を果たしていない

――冒頭、学校に入るとき、「子どもが荒れているという報道があるが、本当にそうなのかを確かめたかった」と言われました。学校に入って7年。当時1年生だった子どもが、今年の4月に卒業したとのことですが、7年間子どもとお付き合いして、みなさん方の子ども時代、あるいは娘さん息子さんと比べて、今の子どもはどうですか。

 たしかに、学力や体力は低下していると思います。そして、我慢ができなくなってきている。興味のあることは夢中になってやるが、そうでないとしない。しかし、そう決め付けることはどうでしょうか?
 やはり、大人側の責任があると思います。大人が子どもともっと積極的に接していこうという姿勢がないのではないか、自分たちが生きてきたものを次の世代に伝えようという意欲がないのではないか、大人が大人の役割を果たしていないと思います。大人がもっと子どもに眼を向け、語りかけて欲しい。そして一緒に学び教え支えあうことが必要なのではないか。そのなかで、一つのことを成し遂げる楽しさを伝えていきたいと思っています。
 逆に、子どもと接することで学ぶことも多いことも事実です。たとえば、かつて人前でしゃべるとき、ドキドキしましたが、子どもと接するようになってから、それがなくなりました。なぜドキドキしたかというと、自分を良く見せたいという気持ちがあったからだと思います。でも、子どもは鋭く見ているから、真剣にしないと負けちゃう。見抜かれてしまう。
 茶道の授業で、説明するとき子どもたちはじっと聞いています。あとで、「あの静けさはなんなのだ」と、子ども自身がびっくりしています。私たちの真剣さが子どもたちにも伝わったのだと思います。たしかにいろんな子どもがいることは事実ですが、大人が真剣に向き合うことで、子どもを変えることができると思います。


企画書を作って

――多くの生活学校では、総合的な学習で先生役になったり、登下校時に見回り活動をしたりと、学校と関わるケースが増えていると思います。反面、「敷居が高い」ということで学校に入ることを躊躇するケースもあるやに聞きます。その点について、これまでのご経験からアドバイスを。

 最初に申し上げたいのが、生活学校で何ができるのかを明確にすることだと思います。最初に、校長先生に面談をしたときも、できることを書き上げて面談しました。やはり、具体的にあげていかないとお話しにならない。企画書を作っていかないとだめだと思います。
 それから、最初に学校に入るとき、学校側が受け入れてくれた理由の一つに、生活学校の所管が区の生涯学習課であることや全国的な組織に参加しているということ、つまりは信頼のおける団体であるということがあったと思います。それはやはり生活学校という強みであったと思っています。


――躊躇する理由の一つとして、どうも先生方の対応のしかたで齟齬をきたしているという話をお聞きします。つまりは、「先生方は地域の大人たちと付き合う機会が少ない」というわけです。もちろん、先生方は、日常の雑務に追われ忙しすぎるという点もあるかとは思いますが。

 たしかに、そのようなことを耳にすることは間々あります。しかし、それを乗り越えないと始まらない。それには、事前に学校側と徹底的に話し合うことが大事だと思います。そして、お互いが「できること」「できないこと」をはっきりさせておく必要があると思います。そのなかで、先生方との関係も良くなっていくのではないでしょうか。
 最近では、先生方とフランクに話すことができるようになりました。なかには先生ご自身も、ご自分の子育てで悩んでおられる方もおられます。そんな時、私たちは、人生の先輩として話し相手になれる関係も生まれています。
 生活学校には組織力もあるし、普段から学習会をしていて知識もあります。経験もあります。任せられればできるのですから、どんどん学校に入っていって欲しい。
 学校としても、生活学校に言えば、必要な人材までも手配してくれるのですから、やりやすいと思います。
 学校に関わることにより、子育て支援はもちろんのこと、伝統文化の伝承、安全な居場所づくり、環境、世代交流などなど実にさまざまな取り組みができます。そのなかで、生活学校の活動を生かせることができます。もちろん、先ほど申し上げましたように、生活学校のメンバーだけでなく、人脈を活かし、地域の人材を発掘し、活用して、学校に入っていただきたい。

――まさに、学校を拠点とした地域づくりですね。ありがとうございました。