「私たちの生活学校」143号掲載
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学校給食に地場産物の活用を広める
福井県生活学校連絡協議会
 「子どもの食環境を考える」をテーマに活動を進めている福井県生活学校連絡協議会(会長・杉本桂子さん)は、平成15年度は学校給食に焦点を当て、子どもたちの安全な食環境を守るために、学校給食に地場産の安全な食材の活用を広めようと、学習会、研究集会の開催、先進地視察、実態調査に取り組み、このほど、これまでの活動を踏まえて「学校給食に地場産の食材を」をテーマに対話集会を開いた。


 学習会では行政と野菜生産者から話を聞いた。平成15年5月に開いた第1回の学習会では、福井県農林水産政策課の職員から食料の安全性を確保するための取り組みや、地産地消、食育の推進などを学んだ。地場産食材の活用を広めるための「福井食材の日」の制定や福井型食生活の推進、学校給食に地場産の食材の活用を図るためにモデル地区(7か所)を設け推進していることが紹介された。
 同じく5月に開いた学習会では福井県教育庁スポーツ保健課の職員から、学校給食の実施状況と学校給食の推進施策を学んだ。福井県では、単独校調理方式の学校が192校、共同調理場調理方式の学校が104校、民間委託をしている学校が8校あること。また食材の安全性の確保、郷土食・地場産物等を取り入れた献立や調理の工夫、学校栄養職員による食教育等が図られていることが分かった。
 6月の学習会では学校給食に食材を供給している南条地産地消の会(会員数58人)から話を聞いた。会ではタマネギ、トマト、ジャガイモなどを供給するとともに、食農教育の一翼をも担っている。供給量の拡大が課題であるということだった。
 12月にも保育所の給食に食材を供給している春江町の農業生産者から話を聞いた。JAを退職後、その経験を生かして地元の町役場に働きかけて実現した。集落の農家の協力を得て、ミディトマト、ホウレンソウ、キャベツの3種類を規格に沿って納入しているが、早朝4時からの収穫、選別、納入は生産者にとって相当ハードな作業であり、生産者の妻の理解と協力が不可欠なこと。収穫時に4割が規格外で捨てられていることが分かった。

地場産食材の活用方法 その課題解決策をKJ法で整理

 6月には研究集会を開き、学校給食に地場産の食材の活用を図るうえでの課題と、その解決策をKJ池を使って整理した。課題としては「年間を通しての安定供給」「市街地の学校は地場産の食材が得にくい」「有機農産物の生産者がいない」「有機農産物の価格が高い」「生産者の協力が得られない」「有機栽培が難しい」「生産者に負担がかかり過ぎる」「生産者の高齢化」「学校長に意識の差がある」「教育委員会に理解がない」「納入業者の協力が得られない」「納入業者の利益が優先される」「納入業者との結びつきが強くて農家の入り込む余地がない」「調理師の協力が得られない」「調理師の人数が少ない」「不揃いで調理に手間がかかる」「メニューの変更がしにくい」「保護者の関心がうすい」「地場産の活用を働きかける人がいない」などが出た。
 解決法としては「モデル地区を例にJAの理解を得る」「JAや農業改良普及所などの協力を求める」「食材の実態を把握する」「地産地消のグループを育成する」「集団でコスト削減を図る」「教育委員会、学校給食関係者との話し合いをする」「不揃いでも受け入れてもらう」「市街地と周辺の農村部との連携を作る」「センター方式から自校式にする」「保護者に理解を求める」などだった。
 研究協議の中で、学校給食に安全で安心な地場産の食材を活用していくには地域で生産体制を整えることと、生産者、流通業者、PTAを含めた学校給食関係者との話し合いが重要なことを確認した。

教育委員会にアンケート 20市町村が「増す」意識をもつ

 11月には、農業生産女性グループ「アグリウーマン中津川」(会員数180人)が学校給食に食材を供給している岐阜県中津川市の視察研修を行なった。中津川市では、地産地消に取り組む中で、農業改良普及センターの呼びかけで学校給食への食材供給が進んだ。当初は行政のバックアップが必要であったが、今は教育委員会、学校給食関係者、生産者の三者が一体となって取り組んでいる。アグリウーマンはサツマイモ、サトイモ、ナス、トマト、枝豆、カボチャ、カブ、ピーマン、大豆など、5000人分の食材を供給しており、中津川市においも女性の活動なしでは何も動かなかったということだった。
 アグリウーマンは小学校にゲストティーチャーとして招かれ食農教育にも活躍していた。
 11月に福井県下の教育委員会(35市町村)を対象に「学校給食に関するアンケート」を実施した。その結果、学校給食に県内産もしくは地場産の米を使用しており、米以外の農・水・畜産物についても、鯖江市では生産グループ農村主婦会議(会員数24人)が中心に22品目の野菜を提供している。三方町でも第3セクターが20品目の食材を提供している。宮崎村では地元産の牛肉を使用している。越前町、美浜町、大飯町でも地元水産物を使用していた。今後、地場産の農・水・畜産物の使用を積極的に増やす意思のある市町村が20市町村もあった。
 課題として「食材の安定供給」(28市町村)、「価格の安定」(21同)、「流通ルートの確立」(15同)をあげる市町村が多く、その解決策として、生産者による農産物グループ協議会の設置など安定供給のための生産体制の確立や、JAなどを中心にした流通機構の確立を求めていた。


「学校給食に地場産の食材を」をテーマに講演と対話集会を開く

 ここまでの取り組みを集約する形で、平成16年2月29日に福井市の「福井県生活学習館」で生活学校のメンバーを中心に約300人が参加して「第35回あすの地域社会を築く女性のつどい」を開いた。女性のつどいでは「学校給食に地場産の食材を」をテーマに講演と対話集会が行なわれた。
 「学校給食の可能性を考える」をテーマに講演した小倉行雄・福井県立大学大学院教授は、学校給食を教育の一環としてとらえるだけではなく、学校を生活の場としてとらえ、「学校給食を学校生活を豊かにするための重要な取り組みとして位置付けてはどうか」と提案した。そして「学校における子どもの生活をより豊かなものにすることは、楽しく豊かな内容がある学校にすることだ」として、生活の場として豊かな学校づくりを進めている事例として、地元産の有機農産物を給食の主な材料としている愛媛県今治市立鳥生小学校や福島県熱塩加納村立加納小学校などを紹介した。


学校、生産者、流通業者、保護者と話し合い、事業を起こそう

 対話集会は学校給食の食材と食育を柱に話し合った。みやざき村有機の会会長の井上幸子さんは「生ごみのリサイクルから家庭菜園が始まり、有機野菜を学校に納めるようになった」。鯖江市立進徳小学校栄養職員の塚田明美さんは「地元の高齢者が作る野菜を給食の食材にしている。食事のとき野菜の紹介と一緒に生産者を紹介している。生産者を学校に招いて交流も行ない、農作業を一緒にするなど、食教育においてもメリットが大きい」と話した。
 福井県教育委員会スポーツ保健課の山口照夫さんは「学校給食の米は県内産を100%使っているが、県内産野菜の使用率は低い。学校給食の食材は安全・安心できるものが前提で、安定供給も条件となる」。
 福井県農林水産振興課の松田勇二さんは学校給食に地場の食村を使用してもらう方法として「納入業者に優先的に地場産の食材を入れてくれるように要請する。三方町には第3セクターの『エコファーム三方』があり、食材の供給体制を作っている。市町村にこうした食材を供給してくれるグループを作る。県内に農産物の直売所が100か所ある。夕市、朝市を開いているところもある。こうした事業と学校給食と連携させることだ」と助言、7か所のモデル市町村で学校給食への地場産の食材の活用を進めているが、みなさんの町でも学校、生産者、流通業者、保護者で話し合い事業を起こしてほしいと勧めた。「センター方式だと量の確保が難しい」との会場からの意見に、「県内で量が確保できる品目ならできるのではないか」「できるロットに分割して調理してはどうか」と助言。
 また塚田さんからの「朝食を食べていない子どもが1割いる。家庭で野菜料理が少なく、野菜嫌いの子どもが多い。噛むことや、飲み込む機能が発達していない子どももいる」と指摘、学校での食農教育とともに食指導を家庭にも下ろしているとの紹介。
 会場から「子どもだちとモチ米を作っている」「子どもたちと畑を作っている」「PTAで料理教室を開いている」との地域での食農教育が報告され、家庭、学校、地域での食農教育の重要性を確認した。
 女性のつどいでの申し合わせ事項は次の通り。
 行政は、1.食農・食育教育を積極的に推進する。
1.学校給食の見直しを図ると共に、学校給食にかかわる担当者及び委員会などを市町村単位に位置づける。1.安全・安心な地場産の食材の生産体制確立の支援を図る。
 生産者は、1.安全・安心な食材提供を行うための生産体制を積極的に整える。1.食農・食育の場に積極的にかかわっていく。
消費者は、1.食農・食育の必要性を啓発していく。1.安全・安心な地場産食材の活用を積極的に求めていく。