「私たちの生活学校」137号掲載
ル ポ

子育て経験を活かし児童館で子どもと交流
東京都・大田区 あおば生活学校
 児童館での行事に参加して、日常的に子どもたちとのふれあいを持ちながら、地域の子どもを地域の大人があたたかく見守ってあげよう、子どもたちをのびのびと育ててあげようという活動に取り組んでいるのが、東京・大田区のあおば生活学校(代表・大木和子さん)だ。今では同校の自主行事も児童館の年間行事予定に組み込まれてもいる。


初めての親子参加企画

 あおば生活学校の児童館での活動は3年目に入った。6月のとある土曜日、活動拠点となる大森西児童館(館長・冨永福子さん)で「親子であそぼ 万華鏡づくり」教室を開いた。サランラップの芯を材料にした万華鏡づくりを子どもとお母さん、あるいはお父さん、おじいちゃんが楽しんだ。大抵先にできあがるのは子どもの方。「わっ! きれい」と万華鏡を覗き込んでいる子どもの隣で、眉間にしわを寄せて自分の作業に夢中になるお母さん。
 実は親子でのこうした企画は今回が初めてだ。「子育て支援というときに本当は親の教育が先」と大木さん。親がしっかりしていればその子どももしっかりする。そのためにもこれからは上手に情報提供をやっていきたい、と考えている。自分たち自身の子育ての経験を生かして。その初めの一歩が親を招いての万華鏡づくりだった。親とも仲良くなれれば、もう一歩先に進める、その先に何かが見えてくるはずだ。


日頃からの“存在”が大切

 大木さんたちは何か特別なときにだけ子どもたちと接触を持っているのではない。このことは、子どもたちとかかわった活動をするときに留意すべき点だ。常日頃から児童館に来て子どもたちと自然にふれあい、そういう時間の中から親密度が醸成されてゆく。「特別なときだけ子どもたちとふれあっても、だめです。あおば生活学校さんたちは、日頃から子どもたちに接している。そうすることでちょっとしたときにも声をかけられるようになってきた。そういう姿勢に感銘も受けています」と児童館の浅野さん。さらに「みなさんがこちらに来るようになって、少しずつ子どもたちに落ち着きが見られるようになった」とも。日頃からの何気ない取り組みが大事なのだ。
 例えば「ハレ」と「ケ」という。すでに子育てを終わった人たちが子育て支援に取り組もうとすると、ハレの部分でのかかわりになりがちではないだろうか。しかし、日常=ケの部分で子どもたちと接していなければ、信頼関係も築けない。大木さんはケの部分での活動を一番大事に考えている。「だけど、一緒にかけっこしよう、なんて言われて結構しんどいんですよ」と大木さんは笑った。それでも、階段を駆け昇ったあとで降りてきて手を引いてくれる気遣いをみせる子どももいる。そういう関係が今ようやくできあがってきた。


児童館の年間行事計画にも

 あおば生活学校が「子ども」を活動テーマに選んだのは3年前。年間計画を決める打ち合わせの中でメンバーから出された。当時子どもをめぐって悲惨な事件が相次いだ。そんなときだっただけに「私たち生活学校も、子どもたちのことで地域に役立つことをしたい」と誰ともなく声があがったという。その席では「子どもたちと仲良くなろう」「せめて子どもたちとあいさつくらいできるようにしよう」などの意見が出された。そして、「みんな子育て経験者、なにか生かせることがあるだろう」ということで、とりあえず児童館に話を聞きに行ってみようということになった。
 児童館では「たまに遊びに来てもいいですか?」「どうぞ、いらしてください」というやりとりがあり、その後月1回程度数名のメンバーが児童館にやって来るようになった。今のように月1回企画を携えて来るわけではない。ただ、自由に子どもたちと話しをしたり遊んだりするのだ。それが次第に月に2回になり3回になりと増えていき、子どもたちにもあおば生活学校の「おばちゃんたち」は浸透していった。今では万華鏡づくり以外にも、お茶会、マフラー編み、お手玉づくりなどあおば生活学校の企画が児童館の年間計画に組み込まれてもいる。冨永館長も「地域のおばちゃんがいることで、子どもたちが、自分に目を向けてくれている大人がいるんだということを実感するようになった。見守ってくれる大人がいると子どもが感じてくれることは、とても大切なこと」と話す。


肩肘張らずに一歩一歩

 大森西児童館では放課後学童クラブもやっているが、50人中10人が母子家庭だという。そういうこともあってか、子どもたちは大人から関心を持ってもらっていないと感じていると大木さんは言う。児童館にいると、子どもたちは話を聞いてもらいたがっているということが分かるし、遊んでいるとそっとメンバーの膝の上に乗ってくる子どももいるという。そしてメンバーが帰ろうとすると、「もう帰っちゃうの。もっといてぇ」と言われる。もちろん甘えるのと甘やかすのは違う。子どもは甘えたがっている。寂しいのだ。そんなとき「家庭でできないことをやっているんだ」と当初の目的だった「子どもたちのことで地域に役立つこと」ができたと生活学校のメンバーは実感する。
 あおば生活学校のモットーは、「私たちができる範囲で、できることをする」「私たちも楽しく活動できるように」。
 メンバーたちの姿には、気負いは感じられない。とにかく子どもが好きだから、地域の子どもたちと仲良くする。そんな思いが1本の筋となっている。
 冒頭の万華鏡づくりを、初めて親と一緒にやったというのも、3年目に入ってまた一歩次のステップに進もうとしていることの現れだ。今日取り組んだことは明日結果が出るわけではない。だからこそ大木さんは「できることを、できるときに、だきるだけやる」ということを強調する。

▲活動拠点となる大森西児童館

▲あおば生活学校のメンバー(万華鏡づくり担当グループ)

▲万華鏡づくりには15組、32名の親子が参加した

▲「ワッ! きれい」万華鏡には押し花を入れてある

▲平日にはメンバーと子どもが自由に遊んでいる
(中央、大木さん)

▲以前の子どもたちは荒っぽい雰囲気だったというが、
今はずいぶんおだやかになった