「私たちの生活学校」135号掲載
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空き地を子どもたちの体験農園に活用
東京都・杉並区 遊新育生活学校
 自然体験の少ない子どもたちに身近なところで野菜づくりを体験させようと、東京都杉並区の遊新育(ゆにいく)生活学校(代表・能登山明美さん、メンバー数10人)は学校建設予定地の空き地に体験農園「わくわく畑」を開園した。子どもたちは「わくわく畑」での野菜づくりを通して、生命が育ち、日々成長していく自然の変化の楽しさを知り、実った野菜の美味しさを実感する。大人たちも畑づくりに協力し合い、子どもたちとともに植物を育てる楽しみを共感する。「わくわく畑」はそんな子どもたちの教室となり、大人たちの交流拠点になっている。


空き地を体験農園にできないか

 「草を取っていると無我の境地に入り込みますよ」と、趣味の釣りと一脈通じるものがあると笑いながら話してくれるのは、唯一の男性メンバーである能登山修さん。能登山修さんは、かつては土曜日になるとゴルフに出かけることが多かったが、今では毎週土曜日は「わくわく畑」に通う。畑づくりは雑草との戦いである。とくに夏場は草の成長が早い。1本1本草を取っていると、他のことを何も考えなくなり、草取りに無我夢中になるという。
 遊新育生活学校は同じ杉並区内にある汝の花生活学校(代表・熊代聖子さん、平成3年発足)から分校する形で平成14年4月にできた新しい生活学校である。
 汝の花生活学校のメンバーでもある能登山明美さんは3年間花づくりを本格的に勉強して、今では杉並区の「花咲かせ隊」に参加して駅前や公園の花壇の植栽や管理で活躍するボランティア活動を行なう一方、杉並区荻窪地区の主任児童委員の委嘱を受けて、孤独で子育てに悩む親を見たり、テレビゲームに夢中になり、あとは虚ろな表情になっている子どもの姿を見たりしていた。
 また学校評議員を務め、その会議でたまたま校舎建設予定地が6年もの間眠っている状態であり、その管理に学校が苦慮していることを知った。チャンス到来、能登山明美さんは早速、その土地を利用して子どもたちと花や野菜づくりをしたいと校長に申し入れた。能登山明美さんの体験農園の提案は受け入れられ、校長の仲介で教育委員会からその土地を借りることになった。


土を素手で触れるようになった

 発案から2か月半、平成14年3月30日に雑草茂る空き地を開墾するまでに漕ぎ着けた。生活学校として助成を受けるために急遽、母親クラブやPTAで知り合った知人を誘って遊新育生活学校を結成した。生活学校に男性の参加もOKになったことから、夫の修さんにも手伝ってもらうことにした。修さんは今や生活学校の大黒柱で、いなくてはならない戦力、作物の指導と畑の管理で大車輪の活躍である。
 遊新育生活学校の名前は英語の「ユニーク」に漢字を充てて付けた。「遊」という漢字には“子どもたち1人ひとりが主役になるように育てる活動を楽しむ姿勢”を込めて選んだ。
 子どもたちへの呼びかけは学校でチラシを配ってもらい、町会でも回覧してもらった。なかには口コミで集まってきた子どももいる。20人の子どもたちと保護者で「わくわく畑の会」を作った。
 しかし、堅く踏み固められた土地の開墾は生やさしいものではなかった。堅い土地は容易に鍬が入らない。地域のオヤジの会や「みどりのボランティア杉並」のメンバーの力を借りて、男たちがつるはしを入れたあと、ショベルカーで掘り起こした。その上に園芸用の土を盛って畑に整地したが、関係機関から提供を受けた土は石ころだらけ。石を取り除くのに今なお苦労している。
 畑づくりは毎週土曜日の10時30分からお昼まで行なわれる。雨の日は中止となる。昨年はトウモロコシ、サトイモ、サツマイモ、ナス、カボチャ、スイカ、オクラ、コンニャク、ニンジン、ネギ、シソなどの野菜を中心に、カンナ、アリーゴールドなどの花や、ケナフ、綿にお米も作った。今も畑にはキャベツ、ジャガイモ、はつか大根などが植わっている。春先にはみんなでイチゴを植えた。
 畑の土づくりは農業委員から指導を受け、肥料の3要素(窒素、リン酸、カリ)の話を聞き、土の酸性、アルカリ性を調べる実験をした。花や野菜の植え方や管理は援農ボランティアの指導を受けて行なっている。
 遊新育生活学校の呼びかけに、自然に慣れている子、慣れていない子、積極的な子、ボーとしている子、指示を待っている子など、さまざまな子どもたちが参加してきた。どの子どもも初めは土を素手で触ることを嫌っていたが、時間が経つにつれて平気で触るようになった。
 保護者も畑づくりを楽しみ、夏の日照りの時期には互いに連絡を取り合いながら当番で潅水を行なうなど、家族同士の交流も生まれた。余った苗を譲り受け、援農ボランティアの指導を受けて家庭菜園に挑戦する人もいる。


自然体験と社会体験をする教室になる

 子どもたちは水田から収穫したお米をごはんにして食べ、夏野菜のミニ収穫祭では取れたての野菜の味を味わった。畑で収穫したコンニャクイモを使ってコンニャクづくりにも挑戦した。
 わくわく畑を拠点にいろんな団体や人との連携が持たれている。そして、そうした人たちの支援を受けて数々のワークショップを行なっている。
 水田づくりはみどりのボランティア杉並ビオトープネットワークすぎなみの協力を得て作った。同ビオトープネットワークすぎなみの協力を得て、水草とクロメダカの繁殖を行なうための池づくりも今進めている。
 みどりのボランティア杉並の会員を講師に草木染めにも挑戦した。綿花を使って、畑で栽培したマリーゴールドの花で草木染めを体験した。今年は生ゴミからの堆肥づくりを計画している。
 区内に住む中学生もボランティアとして関わっている。中学生は子どもたちにとって格好の遊び相手。ジュニアボランティアを遊び仲間に子どもたちは木登りをしたり、畑の周りの空き地で遊んだりするようになってきた。苗を植えたばかりの畑の中に入り込み、踏み荒らして保護者を困らせていたが、今ではそれもなくなってきた。
 こうして子どもたちは畑にくると、普段接触のない異年齢の子どもとの交流があり、いろんな大人たちとの接触もある。集まった人たちとあいさつを交わし、声がかかる。空き地で見つけた生き物を見る子どもの目はキラキラと輝き、その表情は生き生きしている。あのテレビゲームに耽ったあとの虚ろな表情とは違う。
 子どもたちが「この畑に来るとワクワクする」ということから名が付けられた「わくわく畑」。「わくわく畑」は子どもたちが自然体験と社会体験をする教室になっている。「子どもたちがわくわくする拠点と活動を支援する制度が必要ですね」と能登山さんは話す。