「私たちの生活学校」135号掲載
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高齢者の健康づくり教室「ゆう遊」
宮城県・仙台市 カキクケコ生活学校
 カキクケコ生活学校(代表・山崎美代子さん)では、地域の高齢者が介護保険のお世話にならず、楽しく元気な暮らしができるよう支援する目的で、平成13年5月から健康づくり教室「ゆう遊」を地区のコミュニティセンターで開設・運営している。メンバーはもともとダンベル体操をやる健康づくり教室で集まった仲間たち。そこから生活学校を立ち上げ、「自分たちの元気を地域の高齢者に分けよう」(山崎さん)とゆう遊を始めた。


「特別なことはできないが…」

 ゆう遊の開所は、毎週火曜日の午前10時から午後2時まで。ダンベル体操やストレッチ、ゲーム、おしゃべり会などを通し、高齢者の“元気”を支えている。たまにはコミュニティセンターを飛び出してホテルで食事会などで気分転換もする。利用申込者は17名、常時12名ほどが訪れる。利用者の平均年齢は77.5歳。送迎ボランティアもこなしている。利用料は1回1000円(昼食代500円、教材費500円)。メンバーには指導手当として500円を支払い、市からは利用者1人につき1000円の補助を受けている。会場は無料で借りられる。市からの補助の条件として利用者数の3分の1のスタッフが必要とのことだが、同校では利用者と同数のメンバーが指導に当たっている。そうでなければこまやかな目配りができないからだ。
 デイホームというと何となく弱者というイメージがあるので、同校では高齢者健康づくり教室と呼んでいるそうだ。特別なことはできないが自分たちの健康づくりを高齢者バージョンに置き換えればいいのでは、がスタートのきっかけだった。
 利用者のほとんどが日中一人で過ごす高齢者なので、おしゃべりも大切にしている。例えば「はつらつ人生」という発表では結婚に至るまでの話、病院に行ったらお医者さんがとてもハンサムでドキドキした、そんな話が飛び出す。「こんな話、誰も聞いてくれないでしょ。私たちはそういうものを引き出すお手伝いでいいんです」と山崎さん。
 参加当初ご主人を亡くしたばかりで落ち込み少し痴呆の気味があった人も、今ではかなり治って元気になり、地域のゲートボール大会でも優勝するほどだという。確かにその人の笑顔には、そんな以前の雰囲気は微塵も感じられない。


メンバーの特技を生かした運営

 いつもは山崎さんが進行役を務めるが取材に訪れた日は副代表の佐藤多子さんが進行役。後継者育成を視野に入れている。佐藤さんは華道のお師匠さんというだけあって、「朝夕の散歩でも人の家の庭の花を感じよう。香りをかごう。そういう好奇心を持っていると、心も体も元気になりますよ」と話しかける。その中でメンバーと参加者の笑い声という花も咲いた。BGMには、メンバーの市川芳子さんが得意のハーモニカで心地よい音色を奏でている。
 この日は初参加の人が3人いた。3人ともゆう遊に来ている中村たつ子さんのカラオケ仲間で、ゆう遊についての中村さんの楽しそうな話しぶりに参加してみたとのことだ。
 月初めには誕生月の人をお祝いする。氷川きよしの「きよしのズンドコ節」にのせて簡単な体操をしながら誕生月の人の名前を呼ぶ。終始笑いが絶えない。この時のリーダーは「ゆう遊で人生変わりました」と言う斎藤冨美子さん。インストラクターの資格も取ったほど。メンバーの中には絵描きさんもいて絵手紙などもやる。ちなみに代表の山崎さんの特技はマジックだ。
 メンバーの趣味、得意分野を生かし担当を割り振る。これにより外部から講師を招く必要もない。メンバーの特技を生かし、みんながリーダー的にやれるように人材育成ができていると感じる。そして「こうでなければいけない」と完璧を目指さないのもコツのようだ。
 2月にはフィルムケースを使ったお雛様づくりをやった。このお雛様は500円玉の貯金箱になっている。「1万円貯まったらみんなで温泉旅行に行こうね」などと夢も膨らむ。「地域の家族」として絆がすっかりできあがっていることを感じさせる。


あなたも私もみんなが主役

 あっという間の午前中が終わり、昼食のあとは広い会議室に移動して、思い思いにおしゃべりをしたり昼寝をして時間を過ごす。そのあとは体を動かす。指の体操やストレッチなどを指導する斎藤は「こうやって、普段の生活の中ではやらない動きをすることは、脳に刺激を与えてとてもいいことなのよ」と利用者に話しかけている。
 参加者の姿勢も開設当初からはずいぶん変わってきたという。できなくてもとにかく一歩踏み出すという気構えになってきた。このように何かを仕掛ける組織がいろいろな地域にいっぱいあればいいね、とメンバーの一人は話してくれた。
 和やかに進めるだけでなく、みんなが競い合うゲーム性のあるものも取り入れている。競い合うことでみんなが元気になるということだ。「お茶を飲んで何となく過ごすデイホームとは違う。心を刺激するのがゆう遊」と山崎さんは言う。
 とくに高齢者にはスポットが当たることが少ない。だからとにかくスポットを当てて主役にしてあげる、その気にさせるということを心がけている。「あら、私にもできるじゃない」と思ってもらうことが大切なのだ。みんなが主役になることで利用者もメンバーも全員が楽しめるように工夫していることがうかがえる。メンバーの当番はシフト制になっているが、みんな毎回やりたいようで、「何回手伝える?」「毎回!」「えっ!?」というほどメンバーも楽しんでいる。
 山崎さんにはある言葉が今でも耳に残っている。ある年のあしたの日本を創る運動全国大会でのことだった。「学習だけで終わってはいけない。実践が伴わなければ」。山崎さんは言う。「学習、学習と言っても、その成果を生かす場面がなきゃね」
 気をつけていることは、素人集団だから気負わないでやる、自分の生きがいが感じられるようにということ。それが生涯学習だと思うと山崎さんは言う。そして、「こういうふうにメンバーの個性を生かせば、どんな生活学校でもやれると思う。あと一つは、『ヤル気』と『必要性』を実感することではないか」とも。