「私たちの生活学校」125号掲載
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駅前周辺の環境整備求めて対話集会で要望―「歩行者地獄」道路の改善を目指して―
奈良県・奈良市 あやめ池生活学校
 車の往来の激しい駅前。車を歩道に止めてコンビニや銀行、郵便局に行く人も多く、車を避けながら歩く歩行者は通行時に危険にさらされている。それはさながら歩行者天国ならぬ歩行者地獄。――奈良県奈良市のあやめ池生活学校(代表・福山美智さん)では、歩行者の安全確保のため、近鉄あやめ池駅周辺の交通問題を中心に、商店街の活性化などを含め住みよい町への改善を目指して2年続けて対話集会を開催した。

 あやめ池のまちは、昭和元年に開園した菖蒲池遊園地があることなどから、古くから開けた町であったが、古かったことが災いし、都市計画もないまま家々が建ち並び、曲がりくねった狭い道がそのまま残るまちだ。若者も開けた都市に次々流出し、商店街では慢性的な後継者不足に頭を痛めている。


車は歩道に止まり人が車道を歩く!?

 あやめ池駅前南側の道路は、狭い割に、乗用車や路線バス、商店への搬入車が往来する交通量の多い道だ。しかも違法駐車も多い。車が歩道に駐車し人は車道を歩くことになる。同校が勉強会に呼んだ講師の奈良交通の人に「あやめ池は人と車が逆ですね」と言われたそうだが、まさにその通り。自転車に乗る人も高齢者も歩道に違法駐車する車を避けて、車道を歩くしかない有様だ。その前と後ろから路線バスや乗用車がひっきりなしにやってくる。
 ところが不思議なことにこれまで事故が起きたことはないという。メンバーの1人下北みさをさんはこの状況を自嘲気味にこう言う。「みんな緊張して歩いているからネ」。確かに、前や後ろから次々にやってくる車を気にしながら車道を歩くことが、事故防止の抑止力として作用しているのかもしれない。しかしそれが交通安全対策として本来あるべき姿でないことは言うまでもない。
 かつて同校では、駅前を占領し、電車の乗降やバスの運行、子どもたちの通学にまで影響を及ぼしていた駅前の放置自転車問題を解決した。昭和58年のことだ。同校の働きかけによって、駐輪場が設置され、それまで通勤・通学で使われる自転車が雑然と置かれ、狭い道にまではみ出し、歩行者にとっても危ない状態だった駅前を安心して歩ける場所にした実績がある。
 しかし、最近では車の大型化と町を通り抜ける車の数の増加などにより再び駅前の交通問題がクローズアップされるようになったわけだ。そこで同校では安全な歩道を確保するために、再度、駅前周辺を考え直す対話集会を開くことになった。
 一昨年の事前活動は、メンバーが駅前周辺を歩き、違法駐車や駐輪、道路の様子などを写真におさめ、対話集会時に資料として掲示し危険な現状を訴えた。
 しかし対話集会では、@開発計画もないままできた町であるため、駅前の道路は狭く、商店街に来た買い物客用の駐車場もない、A商店街も空洞化しつつある、など交通問題や駅前の活性化についての問題点が出されたが、話し合いを継続することが示され終了した。
 昨年の事前活動では、自治会と協力して住民アンケート調査を実施した。しかし、「この調査では若い人の意見が聞けないのでは?」とメンバーから意見が出された。そこで、より多くの住民の声を集めるためにメンバーたちは、朝晩駅頭に立ち、若い男性を中心に聞き取り調査を実施した。
 ほとんどのアンケートで、道路の危険性が指摘されていた。事故が起きてからでは遅すぎるので、早急な対策を望むとの声が大半を占めた。中には、歩行者天国ならぬ「歩行者地獄」といった悲痛な叫びや高齢者、障害者の歩行が危険にさらされている窮状を訴える声もあった。


高齢者・障害者に配慮した改善を要望

 迎えた2回目の対話集会では、前回より具体的に要望事項を示した。
 交通問題では、交通量の多い駅前では大きな事故が起きかねないことを主張し、違法駐車の取り締まりと道路の補修を要望した。さらに、違法駐車追放の策として、少スペースであっても駐車場の設置の必要性を訴えた。
 駅の改善については、遊園地側の出口ということで、スロープと障害者用トイレが設置されている北側に対し、南側の改善を要求した。とくに高齢者、障害者に配慮したバリアフリー化などについての要望が出された。
 さらに、アンケートで要望のあった駅前公衆トイレ設置と学童保育所の開設等を求めた。また、コンビニ前のゴミの散乱も指摘した。
 これに対し近鉄大和西大寺駅総括助役からは、少スペース駐車場も検討しているが、財政難等を理由に芳しい回答は得られなかった。また、駅の改善については本社に伝えるとの回答にとどまった。対話集会前に要望していた、駅周辺の信号機設置については、対話集会当日に設置されたとの報告があった。
 まちの活性化については今後も市、自治会、商店街等各団体と対話を続けていくことになった。
 同校が開いた2回の対話集会で、駅周辺の改善について解決を見たわけではないが、福山さんは次のように言う。「この問題は生活学校だけで活動しては成果は上がらない。他団体と連携して、大きなうねりを作り出す必要がある。地域と連携して要望の達成に向けて取り組んでいきたい」
 今年4月からは、駅前清掃に取り組み始めた。対話集会の反省会として12年度の締めくくりの会を開いたときに、メンバーから「対話集会をやったけど、その後放置したままでよい問題ではない」との意見が出され、清掃活動を始めることになったものだ。メンバーが自主的に駅前の清掃をすることで、住民のゴミ問題の意識啓発になればとの思いがある。いわば、デモンストレーションだ。


生活学校ならば対話集会を

 前委員長の西岡美佐子さんから5年前に委員長を引き継いだ福山美智さん。西岡さんからの引き継ぎの言葉は「対話集会をやらなければ生活学校ではない」だった。これまでにもスーパーや商店街と町の活性化をテーマに幾度となく対話集会を開いてきた同校。引き継いだ福山さんは、「あやめ池の駅前周辺を考えよう」をテーマに、一昨年と昨年、2回にわたり対話集会を開くことで前委員長の言葉を具体化してきた。「お楽しみ会的な活動もやっているが、消費生活の勉強をするだけではなく、対話集会をすることが生活学校の特徴だと思っている」と福山さんは語っている。