「まち むら」99号掲載
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「助けて」といえる地域をめざし、助け合い起こしを推進
長野県須坂市・須坂市社会福祉協議会/助け合い推進会議
 「助け合い起こし」は人と人とのつながりをつくる活動です!――長野県須坂市社会福祉協議会(以下、社協)は、事務局玄関にこんなメッセージを掲げ、助け合い起こし活動を推進している。住み慣れた地域で生きがいを持って豊かに暮らせる地域社会の実現に向け、助け合いの輪を広げていくのがねらい。そのため、「助けてあげる」という従来の発想を180度転換し、「助けて」といえる地域づくりをめざしているのが特徴だ。市民組織が主体となり、地域の「世話焼きさん」とともに「助けられ上手」の発掘に取り組んでいる。


「住民の助け合いマップ」を作成

 助け合い起こしの発端となったのは、国の指定を受けて平成14年度から実施した「ふれあいのまちづくり事業」だった。誰もが住みやすい福祉のまちをめざし、社協をはじめ、地域の関係団体・機関や地域住民が連携して地域力を高めようという取り組みだ。関係団体代表や公募市民など40人で構成する「ふれあいのまちづくり推進会」(以下、推進会)を組織し、活動を開始した。
 手始めに取り組んだのが、「住民の助け合いマップ」づくりだった。
「地域の様子を知るきっかけにしようと、社協事務局が置かれた春木町のマップづくりから始めました。区長や雪かきのボランティア活動を行なっているメンバーを中心に、住民同士でどのような助け合いが行なわれているかなどを地図に落としていきました」と社協助け合い起こし推進係(当時・地域福祉係)係長の関佳代子さんは振り返る。
 マップづくりは、プライバシーなどに十分配慮しながら市内全域に広げていった。その結果、隣近所の助け合いが行なわれていたり、困っている人の手助けや見守りを行なっている「世話焼きさん」がいることなどが分かった。
 また、市民福祉アンケートを実施。
 「近所に困った人がいたら助けるか」との設問に対し、23%が「頼まれなくても助ける」と答え、72%が「頼まれれば助ける」と回答した。
「声をかけられれば行動する人がたくさんいることが分かりました。『助けて』『お願い』のひと言で助け合いの輪はどんどん広がっていくとの思いを強めました」と関さんは話す。
 困ったときに「助けて」といえる環境づくりが地域を豊かにすると考えた推進会は、「助け合い起こし」をキーワードに活動を展開していくことにした。


「地域福祉活動計画」を策定

 また社協は、平成5年度に策定した「須坂市祉会福祉協議会地域福祉活動計画」が計画期間を終えていたことから、見直しに着手。推進会委員に地域福祉活動計画策定委員会委員を委嘱し、平成16年度に「須坂市地域福祉活動計画」を策定した。策定に当たっては、マップづくりを通して得られた地域の情報や意見などを反映させていったという。
 同計画は、市民相互の助け合いの再興をめざし、市民主体と市民参加を軸にした全国初となる「助け合い起こし」をメインテーマにしたのが特徴だ。計画の実施者を「住民」に絞り、祉協は福祉の主体である住民による助け合いを支援していく内容とした。平成17年4月〜平成27年3月の10年間を計画期間とし、3年次ごとに実施計画を策定し、達成状況を把握しながら見直すとしている。
 策定委員会を務めた推進会が「助け合い推進会議」(以下、推進会議)となり、計画の実行役を務めている。
「目標をより明確にして計画を実行するために名称を変更しました。新たなメンバーも加わり、助け合い起こしの実践を開始しました」と推進会議会長の佐藤要さんは説明する。


「助け合い型サロン」の開設を促進

 助け合い起こしを進めていく中で注目されたのが、「ふれあいサロン」だった。近所の高齢者や主婦などが気軽に集まって趣味を楽しんだり、交流する場として全国展開されている事業だ。須坂市社協では平成14年度に導入し、地域住民によるサロンの立ち上げを支援している。
 現在、67サロンが開設されているが、高齢者の見守りや助け合いの拠点としての機能を担えることが分かってきた。だが、サロンに来るのは元気な高齢者で、要介護認定を受けた高齢者は姿を見せない。「介護サービスを受けているから」という理由で近隣との関係が断ち切られているのだ。「何かあったら対応できない」というサロン側の心配もあった。
 そこで、ケアマネジャーが仲介し、介護のプロも一緒にサロンヘ行くようにすれば、要介護者もサロンに通えるのではないかと考えた社協は、祉協全体で助け合い起こしを進めていくため平成18年度に地域福祉係を助け合い起こし推進係に改称したことと合わせ、介護サービス係のケアマネジャーを事務局次長・助け合い起こし推進担当に抜擢した。
「要介護者は介護サービスによって支援できますが、地域の人たちとの関係がなくなれば、豊かさ資源になっていきません。介護のプロが地域福祉の推進に協力することで、要介護になっても地域と切れずにすむのではないか。介護サービスと地域とのかかわりをどうマネジメントするかが、私たちに課せられた課題です」と事務局次長の高橋芳子さんは話す。サロンを「お茶飲み型」から「助け合い型」へ発展させる試みが進められている。


「助け合い推進大会」を開催

 今年2月24日には「助け合い推進大会」を開催した。毎年、社協主催で行なってきた「社会福祉大会」を一新し、「『助けて!』と言ってみよう!!」をテーマに、推進会議主催で実施したものだ。社協の支援を受けながら、推進会議メンバーが企画から運営までを担った。
 大会では、助け合い推進貢献者の表彰をはじめ、助け合いをテーマにした寸劇、助けられ上手の住民や助け合い実践者をシンポジストにしたシンポジウムなどを行ない、「助けて」と声に出すことの意義や環境づくりについて考えていった。
「約400人の参加者があり、助け合い起こしの取り組みをアピールできました。大会を経験したことで推進会議メンバーの意識は一段と高まり、行動を起こそうという機運が盛り上がっています」と佐藤さんは手応えを話す。
 地域福祉活動計画スタート後3年目を迎えた今年度は、これまでの取り組みの見直しを進めている。
「推進会議を六つの部会に分け、計画の内容をもう一度よく読み込んで、何が進み、何ができていないかを検証しています。その上で今年度中に次期3年間の実施計画を策定します」と佐藤さん。
「計画づくりを開始してからの3年間で、いろいろな動きが出てきました。しかし、市全体から見ればまだ一部の動きでしかありません。ようやく見えてきた姿を市内全域に広げていくことが今後の課題」と関さんは話す。その役割を果たすのが、助け合い推進大会といえる。「第2回助け合い推進大会」は、平成20年1月27日に開催する予定だ。