「まち むら」97号掲載
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「防災」と「公園」に住民主体で挑む〜目指すは安全安心なまちづくり〜
兵庫県赤穂市・住みよい塩屋をつくる会
 兵庫県の西の端に位置する赤穂市。忠臣蔵のふるさととして全国的に有名だが、瀬戸内の温暖な気候を生かした塩の産地でもある。市南部の塩屋地区は、その名の通り江戸時代塩田に従事する人たちが住む「塩田集落」を中心に発展してきた地域。そのうち、旧集落の本村(ほんそん)地区は、今も古い家屋が密集し、細い路地が入り組んでいるため、防災面に多くの課題が残されていた。
 そこで、土地区画整理事業が完了した近隣地域の住民らも含め、塩屋地区の4自治会約2000世帯が一緒になって、自分たちの町を自分たちでつくっていこう―と、2003年5月に結成されたのが、「住みよい塩屋をつくる会」だ。


地域の安全に対する危機感から発足

 結成に至る背景には、住民たちの大きな危機感があった。1年前ほど前から、自治会やPTA役員らが中心となって準備会を立ち上げ、本村地区の現地調査を行なってきた。すると、道路の幅員が狭く緊急車両が中まで入れない、緊急時の避難場所にもなる公園がほとんどない、などの声が次々と上がった。「このままの状態では、阪神・淡路大震災のような災害が発生すれば大変なことになる」。そんな思いから、結成に合わせて「防災部会」と「公園部会」が設けられた。
 初めに活動を始めたのは、公園部会だった。本村地区のすぐそばに市の土地区画整理事業で約5500平方メートルの公園が確保されていたことから、子どもたちも参加して公園予定地を観察。3グループに分かれて、欲しい遊具や施設などを話し合った。「単なる避難場所に留まらず、どこにもない、個性や特徴がはっきりと見える公園をつくりたかった」と、公園部会長の松本尚志さんは振り返る。
 出てきたのは、自然豊かな公園、スポーツができる公園、噴水公園。それら3案の具体的なイメージを図や模型にして、2003年秋の「ふるさとまつり」で発表。来場者にアンケートした結果、テニスの壁打ちやボール投げができる壁や一輪車練習用の周回路、バスケットゴールなどを備えた「自由にのびのびとスポーツが楽しめる公園」を基本プランとして決定し、市に提案した。


安全にキャッチボールができる公園

 こうした住民主体の公園づくりは同市では他に例がなかったが、地元の熱意を受け、市は提案をできるだけ反映した設計を約束した。「つくる会は連携がしっかりして、実際に動ける組織なので、こちらも協力しやすかった」と、市の担当者は言う。だが、ユニークだったのは住民の参加がその時点で終わらなかったこと。業者による実施設計が始まってからもワークショップを毎月開催し、壁の材質や照明の位置、周りにはどんな樹木を植えればいいかを子どもたちも交えて一緒に考え、設計に生かした。また、園内の埋め込み照明に使うランプシェードづくりにも挑戦。子どもらが20センチ四方の粘土板に、漢字や星など思い思いの形をくりぬき、1か月ほど乾燥させ、同地区在住の備前焼陶工の指導で、作成した125枚の粘土板を焼き上げた。
 思いがけないうれしい出来事もあった。全国でボール遊びが禁止される公園が増えていることを危惧した社団法人公園緑地協会や日本野球機構などが、「キャッチボールのできる公園づくり事業」を2006年度に始め、助成先を募っていることを知った。「ダメ元で応募してみた」ところ、初年度助成対象の全国13団体に選ばれた。近畿では唯一だったことから新聞やテレビの取材も相次ぎ、地域の一公園はいつしか、大きな注目を集めるようになっていた。


家々をまわり、防災井戸マップづくり

 一方、防災部会も動き始めた。赤穂市は、江戸時代に日本三大上水道の一つにも数えられた赤穂旧上水道があり、現在も多くの井戸が眠っている。昨年、塩屋地区の小学5―8年生と同部会のメンバーらで、本村地区の約130軒を1軒ずつ回って地域に残る井戸を調査し、防災井戸マップづくりに取り組んだ。
 確認できた43か所の水質を調査したところ、ほとんどが無色・無臭でPH値もほぼ中性。畑や花の水やりに利用している家もあり、防火用水として十分使えることが分かった。
 マップには、災害用給水井戸として協力してくれる家の場所を写真入りで掲載。取り組みの経緯も紹介し、塩屋地区の全約2000戸に配布した。井戸の所有者には、「防災井戸協力の家」と表示したステッカーを配り、農家の玄関などに張り出してもらっている。
 続いて、井戸だけでなく、消火栓の位置や避難経路も記した第2弾のマップもこのほど作成。防災部会の山本建志代表は「地域全体の防災に対する意識向上に役立てたい」と話している。


公園管理の組織を立ち上げルールづくり

 2007年3月、待望の塩屋第4公園が完成した。愛称は「おららの公園」。地元の塩屋弁で「自分たちの公園」という意味だ。助成金で安全にキャッチボールができる移動式ネットも設置され、放課後や休みの日になるとたくさんの子どもたちや親子連れが集まり、楽しいひとときを過ごしている。
 完成記念のイベントは、あいにくの小雨模様のため、近くの赤穂市立塩屋小学校と塩屋公民館の体育館で行われた。
 「肩を回して投げて」「ボールを捕るときは驚かずに」。元阪神タイガースヘッドコーチの一枝修平さんと「ドカベン」の愛称で親しまれた元ダイエーホークスの香川伸行さんが、地元の子どもたちにキャッチボール教室を開催。ボール当てゲームなども楽しんだ後、締めくくりは、「100人の大キャッチボール大会」。一つのボールを2人ずつキャッチボールし、100人までつなげていった。それを後ろのほうで微笑ましく見つめていた、松本さんは「雨は残念だったけれど、ようやくここまで来れたと実感しました」と感慨深げにつぶやいた。
 構想から設計まで住民が関わり、完成させた珍しい公園だが、今後も独自の管理運営組織「おららのクラブ」を立ち上げ、公園を使う際のルールづくりなどに取り組んでいくという。松本さんは「せっかく立派な公園ができたのだから、みんなで大事にしていきたい」と話している。


景観と防災を両立させた将来像を描く

 設立以来、さまざまなことに住民たちが協力して挑戦し、着実に成果を出してきた「住みよい塩屋をつくる会」。その活動が認められ、西播磨地域でまちおこしや地域活性化などに取り組む団体や個人が集う「出る杭(くい)大会」(西播磨県民局主催)で、防災部会と公園部会が見事2006年の大賞に輝いた。
 だが、「つくる会の本当の真価が問われるのはこれから」と会の役員たちは気を引き締める。それは、本来の目的である、安全なまちづくりをどう実現していくか―。
 つくる会は昨年、「より良いまちづくりのための提案書」を市に提出した。そこには、幅の広い主要道路や車が回転できる広場の配置、防火水槽の設置、歴史的な街並みへの配慮など、景観と防災を両立させたまちの将来像が描かれている。
 「道路整備などは土地の所有者との関係もあり、長い時間がかかるかもしれないが、子どもから高齢者までが安心して住むことができるまちにしたい」と木村音彦会長は願っている。
 住民が行政にお願いするだけでなく、自ら行動し、むしろ行政を引っ張っていくまちづくり。地域活性化の一つのヒントが見えた気がした。