「まち むら」96号掲載
ル ポ

「協働のまちづくり」―北海道のフロントランナー
北海道白老町・白老町町内会連合会
 住民と行政が力を合わせてまちづくりをすすめる協働。この方式は地方分権の今日、どの自治体でも至上命題となっている。ところがこの協働、いうは易く行なうは難しで、うまくいっているところは全国的にもそう多くはない。町政は町がやるもの、との固定意識がふっ切れないためだ。そんな中、北海道白老町の町内会連合会(以下町会連)が、町内にある全ての町民活動団体を取り込んでこの命題を見事にクリア、「元気まち白老」の旗印のもと協働のフロントランナーとして各地のまちづくりを引っ張っている。


きれいな公園、道路 住民の手で実現

 白老町は札幌から汽車で約2時間の海浜町。人口2万1000人。農・漁業、工業に加え、自然も温泉もたっぷり、アイヌコタン(集落)もある道央の中核町だ。
 まちに降り立って驚いた。公園はきれい、道路も清潔。雑草はきちんと刈られ街路樹の枝の剪定もあざやか。聞けば町内会の人たちが手分けして草刈りや遊具の安全点検を行なっているという。
 午後2時すぎ。小学生が下校してくる。その道々には、そろいの緑のジャンパーを着たお年寄りやお母さんが立ち、「お帰り。気をつけてね」とさりげなく声をかける。子どもたちを事故や犯罪から守る町民有志の安全パトロールだ。これも町民側の提案で実現した。
 折りしも中央公民館では、安全生活ネットワークのフォーラムが開かれていた。200人以上の町民が集い、もっといいまちにするために私たちは何をすべきか、の話し合いの真っ最中。参加していた老人クラブの婦人で、高橋さんは、「これまでこうした会合に出たことは一度もない。仲間に推められて出てみたらすごくためになった。私も人のお世話になるばかりではなく、何かでみんなのお役に立ちたいと思った」と、腰をしゃんと伸ばした。
 普通、これらの施設の維持、管理や安全への取り組み、会合への参加などは、行政が住民へ働きかけ、住民はそれに従うという形が一般的。ところがこのまちでは、町と町民ががっちりと手を組み、というよりは町民が考え、町民がすすんで参加、実行し、町がそれを支援するという協働の方式が、ごく普通に行なわれていることにまた感心。


協働の中核は町内会連合会

 こうした町民と町の力をあわせた協働の中核を担っているのが、全町3地区に109ある町内会を一つにまとめた「白老町町内会連合会」(河野広臣会長)。今はこの中に、「防犯協会」や「花と緑の会」など四つの町民活動団体と、文化や福祉、趣味などでつながる400以上の町民グループをまとめた「町民まちづくり活動センター」を設置し、その総合事務局も担当する。町内会という地域的広がりだけでは「協働のまちづくり」は覚つかないと、すべての町民活動団体を招じ入れて、立体的に一本化させたのだ。ここからは随時、町内会や各団体の活動状況が町内に発信され、志ある町民の参加や提言を促している。この仕組みが、冒頭の公園の管理や道路の環境整備、会合への多数参加に結びついている。
 長年、町会連の事務局長を務めてきた佐藤俊夫さんは、「町内の活動団体が一つになったことにより、町民のまちづくりに対する関心はぐんと高まり、事業への協力や催し、会合への参加も目に見えて増え、参加した人たちの目はキラキラ輝いています」とにっこり。


原点は20年前のコミュニティ・アイデンティティ

 この協働の原点は、今から20年ほど前、民間企業出身の先々代町長、見野全(けんのあきら)さんが、町政のすすめ方として、CI(コミュニティ・アイデンティティ)運動を提唱したことにある。これは「住んでいてよかったというまちを創るには、町と町民が心を一つにし、ともに考え、行動することが必要」という考え方。企業でいう“労使協調”である。
 当時の町政はどこの自治体でも「町におまかせ」の時代。当然町民の間から「なんでわれわれが町のお手伝いをしなければならないんだ」の、強い反発があった。しかし見野さんの信念はゆるがず「北海道にある元気まち」のスローガンを掲げ、町民と町職員が一緒になってまちの将来を考える「元気まち研修会」、公募した町民による「百人会議」、町職員が地域に出向いて町政を説明する「出前トーク」など、さまざまな会合、話し合いを通じて、町民と町が手をたずさえ、一緒に汗を流すことの必要性を訴えた。
 これに呼応したのが町内会のリーダーの人たち。早速、町内会を一つにまとめて連合会を作り、「元気まち運動」を展開。折りしも地方分権の大きなうねりが押し寄せ、町民の間に「自分たちのまちは自分たちでつくらなくては」の気運が盛り上がり、まとめ役を町会連が担うことになった。


取り組む事業は町政全般 力入る防災

 町会連の取り組む仕事は、公共施設の管理分担から防犯・防災、少子高齢化、環境整備、安全・安心、福祉、文化・スポーツ行事まで幅広く、町政全般におよぶ。
 これらの事業を基本で支えるのは年1回、町内3地区で開かれる「まちづくり懇談会」。地区側が、あらかじめ町民の意見をまとめた地域課題を町側にぶっつけ、町側も町政の課題や政策を披露するという、ざっくばらんで対等の話し合い。ここで大まかな事業や、どちらがどこまでやるのかの役割分担を決め実行に移す。昨年も9月に開かれ、その場で「安全・安心なまちづくり」や「自主防災組織の確立」などが決まった。
 また、これまで町役場内部だけで行なっていた行政評価に町民代表も加わり、生活者の視点も取り入れて次の施策に生かしている。
 この中で今最も力が入っているのは地震、津波、噴火に備える防災対策だ。まち全体が海に面して細長く、市街地を挟んだ反対側に活火山の樽前山、その間を中小河川が流れていて、過去に何度か噴火や洪水、津波の辛酸を砥めているからだ。とくに阪神・淡路大震災やスマトラ沖地震・津波の後は町民の防災意識は高まった。すでに避難場所や非常時持出品を明記した防災マップ「わが家の防災」が全戸に配られ、各家庭で避難場所やそこへ行く道筋などを朝夕、頭にたたき込んでいるほか、地区ごとの防災避難訓練も年1、2回行ない、「一人の命も失わない」を目指している。訓練自体、真剣そのもので、元気な人が弱者の手を引き、車いすに乗せて避難所へ運んだあと炊き出しをして一緒に食べるところまでを行なう徹底ぶり。もちろんこれには町も積極的にかかわり、協働の実を果たしている。
 こうした「協働のまちづくり」について、町の窓口の岩城達己企画課長は「正直、ここまでくるとは思っていませんでした。町民の協力はとても頼もしく、高く評価しています。町政運営はますます厳しくなっていますが、厳しくなればなるほど町と町民のパートナーシップは必要です。これからも今のシステムを充実させて、難しい時代をみんなの力で乗り切ってゆきたいと思います」と決意を語っている。