「まち むら」96号掲載 |
ル ポ |
先輩ママたちによる「子育て」そして「親育て」 |
千葉県松戸市・矢切地区社会福祉協議会/子育て支援サークル「みんなといっしょ」 |
50組の親子が集まる場 「おはようございまーす!」 朝10時を過ぎると、あいさつを交わす母親たちの声が響きわたる。ここは、千葉県松戸市矢切地区の社会福祉協議会ボランティアセンター。毎週水曜日10時から12時、子育てサークル「みんなといっしょ」の会場となっている。 「みんなといっしょ」は、平成11年、民生委員・主任児童委員の仲間数人で立ち上げた子育て支援のためのサークルだ。主に0〜3歳未満の子どもを持つ親が、子どもを遊ばせたり、親同士が交流したりするための場を提供している。子どもを連れてくるのは母親が主だが、父親や祖父母が来ることもある。 開始2年目には、矢切地区の社会福祉協議会の活動と位置づけられた。同じ頃、月1回の開催日を増やしてほしいとの要望が殺到したため、週1回に移行した。来場者は年々増え続け、20畳ほどのミーティングルームはいつも満員状態だ。そこで昨夏から、隔週で体育館の半分を使い始めた。多い日で50組前後の親子が集まるという。 スタッフは全員母親業のベテラン スタッフは、現在26人。1回の活動に7人前後を要するため、1人あたり月1、2回を担当する。全員、子育てが一段落した世代の女性である。 今日も、7人のスタッフが朝早くから準備に取りかかっていた。おそろいのエプロンを身に付けた彼女たちは、ミーティングルームに収納してあるおもちゃやマットを手際良く移動したり、受付の準備をしたりと忙しそうだ。その中で、大量のおもちゃを一つひとつ消毒用ウエットティッシュで拭いているスタッフたちがいた。何でもすぐ口に入れてしまう子どもたちのために、毎回すべて消毒しているのだという。 10時になると、親子連れがぞくぞくと集まってきた。「みんなといっしょ」は、入場無料で出入り自由、いつ来ていつ帰っても良いし、来なくても良い。受付では、来場者の名前を控え、名簿をつくっている。来場者一人ひとりの状況がわかることで、よりきめ細かい配慮ができるようになるのだとスタッフは言う。 「たとえば『初めて来た人だな』とわかったら、子どもの月齢を聞きます。同じくらいの子どもを持つ人を紹介して友だちになってもらうのです」 また、スタッフは子育てに関する相談を受けることが多い。代表の高橋さんは、それに応えることもスタッフの役割だと言う。 「今の家庭には教えてくれる人がいないことが多いから、若いお母さんたちは不安なのです。子育てが一段落した私たちが、子育て中の若いママたちの力になれたらいいと思っています。つまり『子育て』と言いながら、実は『親育て』をしているのですね」 笑顔で相談に応じるスタッフの周りに、いつのまにか輪ができていた。母親たちにとって、母親業の先輩であるスタッフたちは、親以上に頼りになる存在なのかもしれない。 母親同士の交流がストレス解消に 子どもたちは、走り回ったりおもちゃで遊んだり、と思い思いに遊んでいる。一方、母親は数人ずつ輪になっておしゃべりに興じている人が多いようだ。そんな一人に話を聞いてみた。 「ここに来るようになってから、友だちがいっぱいできました。友だちと話していれば、ストレスが溜まりません。特に同じ月齢の子がいる人とは、同じ悩みを話し合えるので助かっています」 乳幼児を抱える母親の多くは、一日中、子どもと一対一で向き合わなければならない。それがストレスになり、虐待や育児放棄につながってしまうこともある。スタッフの多くは、民生委員として活動する中、そのような悲劇を何度も目の当たりにしたという。そのため、母親がストレスを発散させる場の必要性を痛感したのだ。 「だから、『みんなといっしょ』はお母さんが中心。お母さん同士が話をすることで、子育ての悩みを解消してもらうことが一番大切な目的です」 他の子育てサークルでは、親子が一緒に何かをすることが多い。しかし、「みんなといっしょ」では、何もすることを決めていない。親子は、ただ自由に過ごすだけだ。そのほうが、お母さん同士が自由におしゃべりできるので、仲良くなれるのだという。 スタッフが2人目の子を預かる理由 2歳くらいの子と赤ちゃんを連れた母親がやってきた。来るなり、スタッフが彼女の背中から赤ちゃんを下ろしてあげた。その母親は、下の子をスタッフに預け、上の子と遊びに行ってしまった。しばらく見ていると、2人連れの人が来るたびにスタッフが下の子を預かっていることに気づいた。赤ちゃんをあやしているスタッフに、その理由を聞いてみた。 「お母さんは、家ではどうしても下の子にかかりっきりになってしまうから、上の子は寂しい思いをしているものです。だから、『ここにいるときだけは、私たちが下の子をみているから、思いきり上の子と遊んであげてね』と言っているのです」 たしかに、上の子とボール遊びに興じていた母親はこう言った。 「ここは、上の子だけにかまってあげられる貴重な場。毎週必ず来るようにしています」 スタッフたちは、2人目がお腹にいる人には、「産まれたら連れて来てね」と必ず声をかけている。しかしそれは、上の子のためばかりではないという。 子育て支援の輪が広がって 以前、こんなことがあった。ある2歳児の母親が、2人目の出産を控え、しばらく顔を見せなかった。高橋さんが、そろそろ産まれた頃だと思い、電話をかけてみたら、産まれた子は双子だったことがわかった。3人の幼児の世話に追われた母親は、パニック状態に陥っていた。 高橋さんは、すぐに彼女の異状に気づき、「みんなといっしょ」に来るよう誘った。その上で、スタッフが交代で彼女の家に行き、子どもをお風呂に入れるサポートを始めた。やがて彼女も落ち着きを取り戻したが、そのまま放置していたら、ノイローゼや虐待といった悲劇が起こっていたかもしれない。 このような配慮に救われた人は多い。転居などで来られなくなった人や、子どもが大きくなった人からのお礼状や年賀状は後を絶たない。 松戸市内では、今九つの子育てサークルが活動している。そのどれもが、「みんなといっしょ」以後、それを手本として、だんだんとつくられていったものである。声かけにより集まったスタッフたちは、前例のない計画をスタートさせるため、場所取り、おもちゃ集め、保育の勉強などの準備活動に半年間奔走したという。それが、「市民による子育て支援」という発想が浸透するきっかけになった。その功績は大きい。 現在、「みんなといっしょ」は開催場所をもっと増やしてほしいとの声が多く、検討しているところだ。子育て、そして「親育て」の輪は、ますます広がっていくことだろう。 |