「まち むら」96号掲載 |
ル ポ |
地域防犯の拠点「市民交番サルビア」 |
東京都町田市・町田市民間交番運営委員会 |
「バラバラ遺体発見!」といった物騒な事件が多発し治安が悪化する中、地域の防犯活動が活発化、その拠点となる「民間交番」が各地に誕生している。JR町田駅北口から350メートル余り、繁華街の角に建つ町田市の市民交番「セーフティボックス・サルビア」は、開設して今年で3年目を迎えた。広さ12平方メートル、八角形の建物に緑色のひさし。そこに、市のシルバー人材センターの2名が常駐し、外来者や地元の人々の道案内などの対応に当たっている。この交番開設と併せて、住民らによる市内の夜間パトロールなどが続けられており、地域防犯の拠点として、全国から注目を集めている。 「西の歌舞伎町」と呼ばれていた町田 今から4年程前、町田駅周辺は、キャバクラなど風俗営業店による、客引きやいかがわしい看板が目立つ街と化していた。バブル崩壊後、貸しビルに風俗店が乱立、駅近くを走る都道の開通も、街の環境を一変させる要因ともなり、治安が悪化していた町田は、マスコミから「西の歌舞伎町」と呼ばれていた。民間交番運営委員会の柳澤秀秋会長(町田一番街会長)は、当時をこう振り返る。「それは、ひどいもんでしたよ。電柱には、いかがわしい看板が貼られ、路上はキャバクラの棄て看板、ポイ捨てのタバコの吸殻で一杯。客引きも、後を絶たず、西の歌舞伎町と言われても仕方ない状態でした」 当初、その繁華街に、警察の交番を設置するよう打診したこともあったが、小田急線町田駅北口前やJR町田駅北口という最寄りの場所に2箇所も交番があったため、実現しなかった。それなら、市民に親しまれる民間交番を開設して、安心で安全な街を自分たちの手で築こうということになった。その頃、都内の明大前に、民間交番が開設され評判を得ていたため、柳澤さんは商店主らと連れ立って見学。あわせて商店会や市民の要望として、民間交番設置の署名運動を実施し、市長へ提出、その成果として町田市から補助金として200万円、個人や団体から40万円の寄付を得た。さらに、町田サルビアロータリークラブが100周年を迎え、その記念事業として、市民交番のボックス(建設資金330万円)を市に寄贈し、最も人目に触れる、繁華街の一角に、町田市民交番「サルビア」が誕生したのである。 街の守護神「市民交番サルビア」 「サルビア」は、平成16年11月に開設された。交番を設立したのは、民間交番運営委員会。構成メンバーは、駅周辺の11商店街をはじめ、百貨店、町内会、商工会議所、青年会議所、地元中学校PTA、青少年育成協議会、市役所、警察署、NPO、地域通貨の会など多彩な顔ぶれである。交番の業務は、シルバー人材センターから派遣されたスタッフが行なっている。毎週火、金、土曜の午後3時から6時、6時から9時までの2班に分かれ、2名ずつ担当している。時給760円。その費用は、市からの補助金、300万円余りで賄っている。「まちの駅ぽっぽ町田に行きたいんですが?」。スタッフの池永さんは、てきぱきと道案内を済ますと、業務日誌に「まちの駅」と記す。相棒の大津さんは、路上に、吸殻を見つけ素早く片付けていく。業務のほとんどが、道案内で、その数は、月当たり2000件、週末には、1日当たり120件を超えることもある、と言う。その他、迷子の世話、違反看板や違法駐車の取り締まり、徘徊者などの保護、救急車などの手配や各関係機関への通報などを行なう。振込詐欺の電話に駆け込んできた女性に、適切な対処で被害を防いだというケースもある。「サルビア」は、「地域の駆け込み寺」を目指している。 延べ1万5000人が防犯活動に携わる 町田市内には、国道16号線、東名高速などで都心部と直結している幹線道路が存在する。そのため、都心で犯罪を犯した犯罪者の多くが、逃走経路として、これらの道路を使うため治安が悪い地域である。家宅侵入の空き巣や路上での引ったくりが絶えない。そのため、安心出来る、安全な街を築こうと、近年防犯活動が盛んな地域でもある。町田市の人口は40万人余り。防犯活動に参加している団体は、150ほどで、都内最大の規模だ。町田市の生活安全担当参事兼安全対策課の長岡彰課長は、「町田市の防災活動に携わる延べ人数は、現在およそ1万5000人。この数は、都内で最も多い数です。その結果、この1年間で、1533件の犯罪を減少させることが出来た」と治安対策に手応えを感じている。 ワンワンパトロールの拠点として 毎週火曜と金曜の午後3時、「サルビア」には、町田4丁目と5丁目に住む町内会のご婦人方が愛犬を連れて集まって来る。ワンワンパトロールのメンバーたちだ。目的は、愛犬の散歩を計画的かつ組織的に実施することによって、学童の下校の安全に貢献すること。行程は、「サルビア」を起点とし、車両の少ない道路を通り町田第2小学校か、芹が谷公園付近で解散。時間にして15分から30分だが、町の防犯活動の取り組みのひとつだ。この日集まって来た愛犬は、サラ、ローリエ、チャコ、モグ、小雪などの9頭。町田5丁目に住む貸しビル経営の渋谷直明さんが、交番に保管されたワンワンパトロール用の腕章を犬や飼い主たちに配り、ノートに犬の出席簿を記載すると、パトロールに出発。婦人方に引かれた愛犬たちは、群れをなして町の中を歩き出す。犬の群れに、奇異な目を向ける住民もいる一方、微笑んで迎える人もいる。下校途中の小学生に渋谷さんたちが声をかけると、元気な声で挨拶する児童たち。こうした防犯に携わる犬は、町田市内全体で600頭余りが存在。町田は、市民だけなく犬たちも防犯に一役買っているのだ。このグループに登録している犬は、20頭程だと言う。渋谷さんは、「ひったくり、誘拐、放火など犯罪の抑止力になるので、ワンワンパトロールは、継続していきたい」と意欲満々である。 町の安心・安全拠点にも 毎週金、土、日曜の夜8時から9時にかけて町内会や商工会のメンバーによる町の夜間パトロールが行なわれている。ワンワンパトロールがあった金曜の夜8時、町内会や商店街の人たちが、7人ほど、「サルビア」に集合した。交番の中から、警告灯や防犯用の黄色い胴衣を取り出し、それぞれ着用。そして、ゴミ回収のビニール袋などを持つと、パトロールに出掛けていく。警告灯を持った町内会長たちを先頭に、町田二番街を回り、一番街を通り抜け、路上に散らばるタバコの吸殻を、金属棒でつまみ上げていく。客引きや違法看板や棄て看板の多かった中心街は、以前の平静さを取り戻したようだ。およそ1時間、2キロほど夜の町を巡回して、「サルビア」に戻り、ゴミや胴衣、警告灯などを交番内の所定の場所に納め解散となる。「サルビア」は、スタッフの集合や解散場所、さらに防犯用の備品や日誌の収納場所としても、重要な役割を果たしている。町田市町内会自治会連合会の副会長加藤俊夫さんは、「西の歌舞伎町と呼ばれたことで、発奮して防犯活動に力を注いでいる」と言う。一昨年、夜間パトロールに参加した市民ボランティアに、駅周辺の40店舗で、500円の買い物が出来る地域通貨の実験を試みるなど、夜間パトロール隊への参画者の広がりや、地元商店の売り上げ増などが期待されている。「サルビア」は、最も、人目に触れる場所を拠点とした活動ゆえに、地域の防犯活動の拠点となっているばかりでなく、安心で安全な街を築こうとする町田市民の顔として、欠かせぬ存在となっている。 |