「まち むら」95号掲載
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町会とボランティア団体が両輪でさわやかなまちづくり
神奈川県横浜市鶴見区・平安町町会/平安福祉賛助会
平安町会館を拠点として

 平安町会館は、京浜急行鶴見市場駅から歩いて10分ほどの住宅地にある。平安町町会の活動の拠点であり、新築されて6年目。この地域は戦前、運河を埋めて周辺を住宅地にしたところで、戦後は京浜工業地帯で働く人たちの住宅が建設された。今では落ち着いた住宅街になっている。
 大通りの信号機の「平安町会館入口」を目印に道を入ると、すぐに会館は見つかった。数人の男女が机を置いて受付を用意したり、ホールの床にカラーボードを並べたりして、へいあんキッズルーム(毎週木曜日の午前中)の準備をしていた。挨拶も早々に話しかけると、「自然体でやってますから」と沼田勝子さんが笑顔で応えてくれた。
 キッズルームは、未就園児のために、育児相談、自由遊び、人形劇、親子体操などのプログラムが用意されている。いずれも参加費は無料だ。その日は、保健師さんによる身長、体重測定が予定されていた。あとで会場を覗くと、身体測定は一段落した様子で、20組の母子が集まり、皆でゲームを楽しんでいた。チーフの沼田さんは元幼稚園長だから指導はお手のものだ。
 この地区では、このような「子育て支援活動」に力を入れている。隔週土曜日には、幼稚園児や小・中学生を対象に、へいあんビデオシアターを開催する。また、あとで紹介するように子どもや若者ボランティアの受け入れにも積極的だ。
 もう一つ、力を入れているのが「高齢者福祉活動」。高齢者や障害者を対象とした、ランチへいあん配食活動を毎週日曜日に行ない、会食活動も年3回程度行なっている。また、「植木屋さん」「電気屋さん」「お使い屋さん」といった愉快なネーミングの日常生活支援活動として、スタッフにできるお手伝いを行なっている。そのほかにも、なつかしのビデオシアターを年4回程度開催する。


注目される防犯・防災活動

 ボランティアを小学5年生から受け入れる「福祉ボランティア体験受け入れ活動」も行なっている。キッズルームで保育の援助や見習いを、配食活動でお弁当の調理や盛り付け、配達同伴助手を担当する。
 会館の2階で平安町町会長の河西英彦さんにお話をうかがった。「平安町セキュリティーネットワーク」の話になった。先に紹介した3つの活動と並ぶものだが、今とりわけ力を入れている活動のようだ。河西さんは「まちの安全を考えれば、防災へと展開する。まちの活動を始めると、そうなる」と語る。救助用ゴムボートが2艘、会館の床下に備えてあり、操作のために3つのチームが組まれている。1階建の木造家屋をチェックし、独居老人宅もリストアップしてある。頻発する大豪雨災害を思い起こせば、きわめて現実的な対応策といえるだろう。
 子どもを犯罪から守る活動もずっと続けている。電話連絡網と、徒歩や自転車で巡回する「愛 Eye パトロール」に続き、昨年12月から、小学生の下校時間に毎日、10人位が手分けをして通学路に立って、1人が自転車で路地を回るようになった。子どもに声をかけても返事をするのは3分の1だったが、今はほとんどの子どもが「ごくろうさまです」と返事をしてくれるという。


平安町福祉賛助会という工夫

 平安町の住民活動のポイントは、ここで紹介した活動がいずれも平安町福祉賛助会(平成3年設立、会員40人、ボランティア約150人)というボランティア団体によって行なわれていることだろう。
 町会の活動では会員以外の住民は除外されてしまう。平安町町会の場合、約3,500戸のうち会員は2,730戸だ。また、両者の団体の性格のちがいもある。町会は地域を代表する団体としての制約を受けるが、賛助会は自主的な団体だから自由な活動ができる。じっさい、キッズルームの利用者の半数以上は地区の外の住民だ。また、賛助会が受け入れるボランティアの90%は地区外の人だという。「どこからでも受け入れるというのが、福祉の精神だと思っている」と、河西さんは語る。
 そうはいっても、町会と賛助会のスタッフは重なるという。つまり、地域の義務的な活動とボランタリーな活動を巧みに組み合わせる知恵がはたらいている。「活動しやすくするための2本立て」(河西さん)の仕組みだ。大規模マンションの住民も、長期間の協議を重ねた上でのことだが、町会に参加してくれるようになるという。
 それにしても、これだけの活動をこなそうとすれば、その負担は並大抵のものではないだろう。賛助会の会長でもある河西さんによれば、活動ごとにチーフを置き、会長といえどもチーフに批判されたら皆の前でも引っ込むそうだ。多くの人がリーダーシップを発揮するようにすれば、力が合わさって活動が活性化するということだろう。


平安町町会の活動

 河西さんが自治会の役員になったのは25年ほど前。そのときのエピソードが興味深い。酒店を経営する河西さんは、故郷の両親が地元の人の世話になっていることに感謝の気持ちを込めて、65歳以上の住民にバスタオルにお酒を付けて配っていた。5年続けるうちに当時の町会長から「勝乎にやってもらっては困る」といわれた。そこで、町会の役員になったという。こんな経過もあって、まず高齢者支援と青少年育成に努力した。それが、賛助会の活動へと引き継がれている。
 それでは、平安町町会の活動はどうか。以下のように数多くの活動が行なわれている。防犯活動では、毎週定期パトロール、年末特別警戒パトロール。防災活動では、防災訓練、備蓄品の充実、家庭防災員の充実。福祉活動では、祝長寿の会、日常訪問活動、友愛訪問、保健活動推進員の活動支援。これに加えて総合的町活動として、平安神社祭礼、さわやか運動、資源回収、連合大運動会、連合歩け歩け大会、連合少年少女球技大会。
 このような町会の活動と賛助会の活動が組み合わさって平安町の住民活動が成り立っているわけだ。平安町町会と平安福祉賛助会という2本立ての組織のあり方は、地域社会の実情に即した知恵が実を結んだものだから、行政のことばや研究のことばで説明しようとしても、どうしても言葉足らずになる。そこがなかなか刺激的だ。


役員は裏方として

 さて、昼になってその日の活動の反省会も終わったので、一緒に会館を退出することにした。地域を一回りするつもりで皆さんと歩くうちに、いつの間にか町会副会長の神保修治さんと2人だけになった。神保さんのご自宅の前まで来ると、道に面した庭のプレハブの建物のドアに「OFFICE」、その手前の構に「平安セキュリティネットワーク」のパネルがある。何と、神保さんの地域活動のための個人事務所だ。誘われるままにおしゃますると、室内にはパソコンやファックスが置かれており、周囲の壁や日程表には連絡のメモなどが所狭しと貼られている。
 神保さんは「役員は裏方です、街路灯を夜、役員とボランティアで直して回る。そういうことを何もやらなくても生活していけるのかもしれませんがー」と語る。新たに参加する若い世代には、定年までの会社勤めの経験を生かし、「地域活動は会社の営業とはちがう。みんなでやっていくものだよ」と、丁寧に話をして説得するという。
 すぐ近くの公園を案内してもらった。トイレは5、6人の決まった人たちが掃除しているという。樹木の名を記した小さな札は子どもたちと付けた。公園をぐるりと回ると、幹線道路に面してお洒落な花壇がある。平安町を象徴するモニュメントのようにみえる。これらの活動も賛助会の「環境ボランティア活動」によるものだ。
 毎年8月の平安神社大祭・平安ふるさと祭りでは、子ども神輿の4基が町内を練り歩き、納涼盆踊りが3夜にわたって続くという。その賑わいが目に浮かぶような気がする。