「まち むら」95号掲載
ル ポ

若者、市民、企業、行政などの幅広い支援で進む古着リサイクル運動
福島県いわき市・特定非営利活動法人ザ・ピープル
 福島県いわき市小名浜のNPO法人ザ・ピープル(理事長・吉田恵美子さん)は、「元気なまちには 元気な主張を続け 元気に行動する市民がいる」を合言葉に活動を続けている。
 1990(平成2)年にいわき市の主婦数人で設立され、2004年にNPO法人を取得。現在のボランティアスタッフは約80人で、ゴミ問題の解決に向け古着のリサイクル活動を中心に取り組んでいる。障害者も活動の輪に迎い入れようと小規模作業所を立ち上げ、古着を素材として利用する授産品作りも行なう。地元の中高校生たちとも連携を図る。活動の輪はいわき市だけでなく、県内にも広がりを見せ、先進的な取り組みが注目を集めている。


21か所の回収ボックスなどから月15トンの古着を回収

 古着のリサイクルは、天然素材のウールを燃やすことなく再利用する。ザ・ピープルは、03年度からエコウールリサイクル事業を開始した。ウール50%以上の背広やセーター、マフラーなどを集め、ゴミとして燃やさずに裁断や反毛工程を繰り返すことで、緑化資材や玄関マット、手袋、車の内装材などに生まれ変わらせる。集めたウール製品は、愛知県岡崎市の反毛工場に引き取ってもらうルートを開拓した。ザ・ピープルのリサイクル率は60%となっている。
 ザ・ピープルは、ボランティア研修の受入れにも積極的に取り組む。いわき市の中学3年生が古着リサイクルの工程を体験するというので、彼らの体験の様子を見せてもらった。
 古着リサイクルの第一の流れは回収作業。同市の銀行や市役所、スーパー、自治会館など21か所に古着回収用のリサイクルボックスが設置されている。吉田理事長は「古着リサイクルは回収ボックス設置という形で支援してくださる企業や行政機関に支えられているからこそ進められる」と話す。担当のボランティアスタッフはほぼ毎日、トラックでボックスから古着を回収している。最近はインターネットで古着の活用を知り、「ぜひ役立ててほしい」と事務所に送られてくることが増えたという。回収される古着の量は月約15トンにものぼる。
 生徒たちが初めに体験しだのは、回収されてきた古着の仕分け作業。市内には古着を仕分けする場所が2か所ある。何よりも驚くのは山積みされた古着の量。生徒たちは「こんなにたくさんの古着があるなんてすごい。これを仕分けるのは本当に苦労しそう」と目を白黒させる。トラックから古着を下ろす作業を手伝っていた女子生徒は「これは重い、重い」と腰に手をやる。
 仕分けは大変根気のいる作業だ。吉田理事長が生徒たちに仕分けの方法をてきぱきと指示していく。ボランティアスタッフも生徒たちの間に入り、丁寧にアドバイスする。自分たちにできるのか、生徒たちは仕分けが簡単でないことを感じた様子。ビニールの袋に入った古着を中から出し、仕分けの基準に沿って見よう見まねで古着を分けていく。吉田理事長は「最近、基準が細かくなり、ボランティアスタッフも覚えるのが難しいぐらい」と話す。


人びとが集い地域の核となるような店舗に

 次に生徒たちが体験したのは、「ドンタ袋」と呼ばれる麻袋に古着を詰め込む作業。エコウールリサイクルの基本は、型が古いなどで販売に適さない紳士物の背広やセーターなど天然繊維であるウール素材の古着を焼却処分しないこと。回収された古着のうち、ウール50%以上の素材のものは、ボタンやファスナーなどを切り取った後、古着が約100キロから110キロ入る麻袋に詰め込んでいく。この作業は、プレス機を持たないことから、人の力で行なっている。生徒たちは木の型枠に入れられた袋の中に次々と古着を詰め込む。袋に上がり足で押し込む。これも体力のいる作業で、「袋詰めがこんなに大変だとは思わなかった。ボランティアの人はすごい」と生徒たちは舌を巻く。ボランティアと□では簡単に言えるが、いざやってみると想像を超えたものなのだ。
 続いての体験は、ザ・ピープルが立ちあげた同市小名浜にある小規模作業所での活動。工業用ウエスづくりや雑巾づくりに取り組んでいる。ウエス材の原料は、回収された古着の中から出る木綿地、工業用雑巾(ウエス製品)は、同市内の印刷工場や自動車関連企業で使われている、甘雨備(かんなび)かほる事務局長は「製品は企業などから高い評価を得て、注文が相次ぎ定着している」と話す。生徒たちは裁断機でシャツなどを裁断する作業や古着のファスナーやボタンを取り外す作業を体験。作業所の通所者と一緒に和やかな雰囲気の中で作業を進める。女子生徒は「ボランティアに興味があったので体験できて良かった。社会には地道に活動している人がいることが分かった」と作業の手を休めず笑顔で話してくれた。
 最後は、回収した古着の中でも最も状態の良いものをザ・ピープルの直売店で販売する体験。同市の小名浜や湯本、植田には直営店の「ピープルコミュニティセンター」がある。店内のレイアウトやコーディネートなど商品管理もボランティアが取り組んでいる。甘南備事務局長は「どのような店舗が良いのか、そのあり方を真剣に考えるようになった。人びとが集い、地域のコミュニティの核になるような店を目指していきたい」と意気込む。女子生徒たちが3店のうち、小名訳の直営店で販売を体験した。生徒たちの表情も実に生き生きとしていた。


さまざまな団体・機関と提携しながら活動を広めたい

 生徒たちが体験した仕分け、袋詰め、小規模作業所での作業、直営店での販売とザ・ピープルの活動のすべてではないが、わずかな時間の中で貴重な経験をし、机の上では学べない多くのことを学んだようだ。吉田理事長は「こういう体験はボランティアの入り口に過ぎないが、そのことを体験するのは重要。自分たちに一体何ができるのか、日常生活を振り返るきっかけにしてもらいたい。ボランティアに少しでも興味を持ってくれたらうれいしい」と話す。さらに、「古着が燃やされてしまっている現状があることを市民に知ってほしい。いわきから循環型社会のあり方を発信したい。若い人たちには地域のリーダーになって頑張ってほしい」とエールを送る。
 ザ・ピープルの活動はこのほか、バザーの開催やエコバッグ作り、市民啓発活動として裂き布織りや布ぞうり作りなどのワークショップを開催している。若者たちに古着のリサイクルに関心を持ってもらおうと、環境省の「環境と経済の循環のまちづくり事業」の一環として、古着を素材にリメイクを競う「レッツ・体感リサイクル リメイク&ジーンズアートコンテスト」を開催している。イベントには中高校生ボランティアグループUGMが企画運営に携わる。UGMは「依存しない仲間たち」を意味する。この中高校生のグループのネットワークは県外にも広がっている。
「古着は必ずリサイクルされ、決して燃やしてしまわないという意識が高まってほしい。回収される古着のリサイクル率100%を目指して、さまざまな団体・機関と提携しながら活動したい」と吉田理事長。ザ・ピープルは地域で元気に活動を続け、その輪が広がり発展していく。