「まち むら」93号掲載
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人の心を動かす美しい街
埼玉県さいたま市大宮区・桜木二丁目第一地区自治会
 上越新幹線や在来線など13もの路線が乗り入れている東日本の表玄関、大宮駅。1日60万人余りの来降客でにぎわう全国屈指のターミナル駅だ。駅の改札を抜け、西口方面に歩き出すと、そごうやアーク、ダイエーなどのビルが見えてくる。こうした商業施設が集積し地元の商店が並ぶ西口駅界隈に広がる街が、桜木町である。ここはかつて、タバコの吸殻や空き缶などが散乱。夜には暴走族や泥棒まで出没する有様だった。そんな中で、この町の自治会員たちが立ち上がり「人の心を動かす美しい街づくり」を始めた。今からおよそ16年前のことである。


西口駅前区画整理事業で変貌した桜木町

 かつての大宮駅西口駅周辺は、戦後間もなく移り住んだバラックの家が並ぶ未整備な場所であった。街に変化の兆しが現れたのは、昭和38年の大宮駅西口駅前土地区画整理事業計画決定に始まる。対象区域は、桜木町一丁目と二丁目。そして、昭和57年秋、丸井やダイエーさらに専門店からなるDOMショッピングセンターの商業施設が完成しオープンする。その後上越新幹線も開通し、大宮駅西口周辺は、一躍活気のある街に生まれ変わった。しかし、静かだった街が一変する。多くの人々が押し寄せて来るようになり街のあちこちにゴミがあふれ、急激に荒廃していったのだ。桜木町二丁目で半世紀以上に渡って、電気製品の販売店を営む第一地区自治会長の高木茂二さんは、当時をこう振り返る。「それはひどいもんでしたよ。信号付近の道路がタバコの吸殻で埋まってしまって、アスファルトが全然見えなかったんですから。泥棒の被害も多くて、私の店では3回もやられたね」と。


5年間継続して、ようやく街に変化の兆し

 こうした現実に直面し、高木さんたち15名余りの第一地区自治会員たちが中心になって、清掃活動を実施する。そして、ゴミ拾いやポイ捨て禁止を街行く人に呼びかけた。当初、朝の8時過ぎから昼前までやっていたが、すぐに効果は現れなかった。そのためメンバーーが1人抜け2人抜けるという時期もあったという。やむを得ず積み立てていた自治会費で清掃のアルバイトを雇った時もあったがこれも効果なし。しかし、高木さんたちはあきらめなかった。その後、第3日曜日を清掃の日と決め、近隣の町内会と連携して、地元の鐘塚公園などの緑化や草むしりなど、広範囲な活動へと広げていく。その頃、街角に花壇のブロックを二20余り設置し、花の植え込みや手入れも行なった。こうした美化運動は、地元のダイエーや丸井など企業にも呼びかけ、社員が日曜日の清掃活動に積極的に参加するなどの協力も得られた。
 また、自治会では、町内の治安対策に、常に力を注いで来ている。近所で、「シャッターや鍵が壊された」と言う話を聞くと、高木さんたちは、自治会費を負担して夜警のスタッフを定期的に雇い、深夜から夜明けまで町内を巡回。夜警は、その日の出来事を日報に記載するという、警備体制を敷いた。しかし、夜警のスタッフは、諸経費のこともあり、一定の時期、短期間に限っている。常日頃は、高木さんが、夜の巡回を、日課として行なって来た、という。


人の心を動かした雨の日のゴミ拾い

 しかし、活動を開始して数年間、街は変わらなかった。変化が現れ始めたのは、5年余り経ってからのことだという。その辺のいきさつを高水さんはこう述べている。「2〜3年程度やっていたんでは、街はきれいにならなかったね。やっぱり5年以上、継続してやらないと駄目なんだね。それと、人の心を動かすことが大事だよ。例えば、雪の降った後、空き缶やタバコの吸殻を拾うんですよ。でも大変なのは、雪の日よりも雨の降る日だね。傘さして、片手にビニール袋を持って、ゴミを拾うんだから、大変でしょう。でも、そういうところを見せたいんですよ。通る人に。そんな姿を見ていれば、ポイ棄てしなくなるでしょう」。


再び街が生まれ変わる

 駅前DOMビルの別館で、名物重そば「河辺庵」を経営する河辺泰さんは、自治会の清掃活動に参加してきた。河辺さんは「いつも高本さんが率先してゴミ拾いをしているのを見かけると、わたしもやらなくちゃという気にさせられましたね」と高木会長を称えている。こうした活動は、桜木町をどのように変えたのか。この街に50年以上も暮らしている長島さんは、こう述べている。「自治会の皆さんが活動されるようになって、ゴミは減りました。町がきれいになったらカラスやハト、ホームレスも減って。きれいな町になるとゴミは棄てにくくなる。いい循環が出来ているではないかと感じています。」
 反物を扱う西陣屋のご主人、小海淳一さんは、「20年前、ビル荒らしが多発した。わたしのビルも盗難にあいました。この20年で変わったのは、街全体がクリーンになったこと。ゴミ出しに気をつけたり、街を情掃すると、ゴミをあさったりする人がいなくなる。そして街の治安や雰囲気がよくなったので、泥棒も暴走族もいなくなったのではないかな」と語っている。


御輿とサンバの「スパークカーニバル」

 大宮駅西口の商業施設は、東口に比べると、その規模において、いささか見劣りする。そうした背景もあって、自治会が生み出した祭りがある。御輿とサンバという異質なものを組み合わせた「スパーク・カーニバル」という夏のイベントだ。このカーニバルは18年来続いている。自治会が発案し、他の町にも呼びかけて広げていったもの。大宮駅西口を広く全国に発信、街にさらなる活力をもたらそうというねらいがある。このイベントには、数万人の人々が各地から押し寄せるという。祭りの後、街は、ゴミが山積していないのだろうか。DOM専務取締役の冨山徳一さんは、その変化についてこう述べている。「昔は、御輿が動いた場所に、お客さんが残したゴミが散らかっていましたね。最近では、あらかじめお客さんにゴミ袋を渡しておくと、そのまま持って帰るんでしょうか、祭りの後でも、街はきれいになっていますよ」。冨山さんは、さらに「西口駅周辺は、住む人がとても少ない区域にも関わらず、清掃活動が継続されている。そこが特筆される点ですね」と力説する。


街が美しくなれば街の価値も上がる

 桜木町の町内を、毎日、3回以上も巡回し、清掃活動や夜の巡回を日課としている自治会長の高木さん。その活動のこだわりについてこう述べている。「町が美しければ、美しくなるほど、町の価値が上がっていく。だから、ずっとやっているんだよ」。
 桜木町など大宮駅西口駅界隈に「人の心を動かす活力のある街」を築き上げるため、高本さんたちの活動は、今も雨の日にも続けられている。