「まち むら」91号掲載
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“大きな家族”の輪で五区楽の里づくり
岩手県一関市・舞川第五区自治会
「平成の大合併」の進展によって、伝統的な共同体的自治区の崩壊の危機が叫ばれている。しかし、一方では時代の流れを受け止め、その地域の歴史的・文化的な継承を大事にしながら自治区を守り育てている人々がいることもまた事実である。東北地方の一関市・舞川地区の「第五区自治会」もそのひとつである。この自治会では、極楽浄土をもじって、「五区楽の里づくり」をキャッチフレーズにした地域づくりを展開して注目を集めている。


歴史的特性を生かした地域づくり

 一関市は、岩手県の南端に位置し、南は宮城県、西は秋田県と接している。市街地に東北最大の大河・北上川が南北に流れ、地域の暮らしを支えてきた。
 平成の大合併によって今年9月20日、一関市を中核として、周辺の花泉町、大東町、千厩町、東山町、室根町、川崎町の1市6町が合併して、人口約13万人の新一関市が誕生した(旧一関市の人口は約6万3000人)。この合併によって、一関市の面積は岩手県で第一の規模となった。
 地域規模が大きくなれば、住民サービスの低下を招くおそれもある。住民ができることは住民自身で行なうことが重要課題となっている。
 一関市の市街地から東へ車で約20分の所に、舞川地区がある。舞川地区には18の自治区があるが、そのうち最も小さな集落が第五自治区である。市街地が一望できる山間の里で、全戸数が38戸、137人が暮らす。地区の3分の2が山林・原野で占められ、風光明媚な里ではあるが、耕地面積が少ないという厳しい条件にある。
 しかし、この地区は陸前高田市など太平洋沿岸地域とを結ぶ東西の「往還道」が通っているため、昔から交流拠点としての歴史的特性をもつ。この自治区の歴史は古く、明治35年に始まり、以来今日まで、自治区の区域が変更されず、伝統的に区民総参加による地域づくりが行なわれてきた。
 「昭和33年に岩手県農山漁村振興対策事業典型部落として指定されたことが転機になりました」と、前区長の岩淵成男さんはいう。この事業により、昭和35年に念願の公民館(地区集会所)が建設された。地区公民館の建設は、一関市では第2号である。それまでは、歴代の区長宅が集会所代わりになって、いろいろな相談事を行なってきたという。公民館が誕生したことによって、誰もが気軽に集うことができるようになり、地域づくりがより活発化した。
 「第二の転機は、一関市から里まちづくり推進事業地区の第1号の指定を受けたことです。50万円の補助事業が3年継続で受けられ、地域づくりが一気に進みました」と、佐藤繁雄さん(「五区楽だより」編集長)。
 この事業のスタート時から、第五自治区を、「五区楽の里」という愛称で呼ぶことになった。名付け親の佐藤さんは、「来世が極楽浄土ですから、この地区を現世のパラダイスにしようという思いを込めて、第五自治区をもじって五区楽の里と命名しました」という。
 平成5年に、五区楽の里の花・鳥・木を「山ゆり・山がら・山ぼうし」に制定。これを機に、私有林の提供を受け、地区民全員参加で「いこいの森」を整備した。
 翌年には、子どもたち(幼稚園児・小中学生)がいこいの森の57種の樹木に手作りのネームプレートを取り付けるとともに、小鳥の巣箱を設置した。東西交流の往還道に位置している地区として内外にアピールしようと、「五区楽の里PR看板」を地区内の要所に設置した。すべて手作りで、設置作業も区民の共同奉仕である。また、公民館敷地の市街地と栗駒山系を見通せる場所に、東屋を建設した。これも、区民の手作りである。
 実は、わずか38戸の第五自治区には、農業をはじめ、大工、建設、左官、造園、医療、教育、芸術など、さまざまな職業の人たちが暮らしているのである。これらの人々が一堂に会せば、手作りでなんでもできてしまうのである。言ってみれば、“地縁技術”の結集によって、五区楽の里づくりが実ってきているといえよう。


地区民の心をつなぐ「五区楽だより」

 こうした活動を陰で支えているのが、「五区楽だより」の発行である。年に数回の発行だが、写真やイラストなどを多用したわかりやすい編集は好評である。しかも、自治会報のイメージからかけ離れている。最新号の第31号(平成17年1月30日)は、何とB5判48ページである。昨年夏に発行された第30号は60ページのボリュームがある。これはもう、単なる会報ではなく、出版物である。平成8年には、公民館建設35周年記念事業として、655ページもの大作「五区楽の里づくり記念誌」を発刊した。
 これらはすべて佐藤編集長の手作りによる。取材・編集・印刷(佐藤編集長宅のコピー機を使用)のすべてがボランティアで、全戸に無料で配付されている。デザイン・イラストは、編集長の息子さんが担当。製本は、編集長の奥さんと自治会有志が行なう。配布は、回覧版形式である。
 「五区楽だより」による継続的な情報発信が、「五区楽の里づくり」活動を支えていることは間違いない。そのエネルギーには、脱帽するばかりである。


“小さな地区での大きな家族”をモットーとした活動を展開

 小さな集落である第五自治区では、全員参加をモットーに、総務部・営農部・納税部・景観部・文化部・体育部・青年部・女性部・老人部・販売促進部という10の組織体制をつくっている。全戸の4人に1人は部長職で、いわば全員参加でなければ何事も動かないという土地柄なのである。「五区楽の里づくり」は、伝統的に“小さな地区での大きな家族”といった雰囲気がある。家族ぐるみの近所付き合いが、地域づくりの大きな力になっているといえよう。
 平成13年に公民館を改築して、住民の土地の無償貸与を受け敷地を広げて、「五区楽の里コミュニティセンター」として生まれ変わった。センターの敷地内には、地域資源の活用を考え、竹炭釜(洋式炭窯)をつくり、特産品として売り出した。自治会に「販売促進部」が新たに発足し、地域の特産品である竹炭をはじめ、花弁・野菜・農産加工品などの販売を協働事業として展開するようになってきている。
 しかし、今後の課題も多い。「かつて47軒あったものが現在では38軒に減り、高齢独居世帯も3軒あります。高齢化率は40%に達しており、共同体としての自治区を今後、どのように維持していくのかが大きな課題です」と、佐藤時雄さん(舞川第五自治区会長)はいう。ただ、「高齢者が多いことはマイナスばかりではない。お年寄りには知恵がある。その知恵を次世代に伝えて、本当の極楽の里にしていきたい」(佐藤繁雄さん)と、意欲満々。身の丈に合った「五区楽の里づくり」活動は、今後の地域づくりのあり方に、多くの示唆を与えているといえよう。