「まち むら」91号掲載 |
ル ポ |
うんことなかよく |
岡山県倉敷市・倉敷市立沙美小学校 |
規則正しい排便習慣のない子どもたち 岡山県倉敷市立沙美小学校(明楽節夫校長)の養護教諭、芝勢(しばせ)朋子先生は「なにかがおかしい」と感じていた。給食が終わってしばらくすると、「お腹が痛い」といって保健室にやって来る子どもが増えている。「うんこに行ってごらん」というとトイレから「なおった!」とすっきりした顔をして帰ってくる。「朝、家でうんこしてきた?」と尋ねるとみんな首を振る。もう何日も出ていない子どももいた。子どもたちに規則正しい排便習慣ができていないことに気がついた。 沙美小学校は、瀬戸内海の海岸沿いにある。目の前には、日本で初めて海水浴場になったという美しい白浜の沙美海岸が広がり、後ろには緑深い山がそびえるというきわめて風光明媚な場所である。現在、児童数70名、児童の家庭数は50。一学年は8人から14人という少人数クラスである。くだものや花の栽培が盛んで、三世代同居の家庭が多い。都市部ではほとんどなくなっている「地域の教育力」もまだまだ健在である。 バナナ型うんこを出そう! 平成15年度、「うんことなかよく」という食育の取り組みが始まった。このユニークな、思わずウフフと笑ってしまうようなキャッチコピーを考えたのは芝勢先生。中低学年の子どもたちには大うけ、高学年にはちょっと抵抗があったが、何度も何度も言っているうちに「うんこ」という言葉に次第に抵抗感がなくなっていった。職員間でも連呼しているうちに、「うんこ」は普通の言葉になったという。ある意味、これが芝勢先生のねらいの一つであったようだ。まさに「うんこ」と仲良くなっていったのだ。 まず、子どもたちへのアンケートを行なった。この結果から、夜うんこをする子どもも多く、出た後のすっきり感も感じたことのない子どももいた。1日1回出る子どもが半数近くいる一方で、4分の1の子どもが何日おきに出るか、いつごろ出るかわからないと答え、自分のうんこに感心がない子どもが多いことがわかった。このことから平成15年度のねらいを「自分のうんこに関心を持ち、いいうんこをするために規則正しい生活リズムを作っていく」ことにした。 最初の取り組みは「バナナうんこはいいうんこ」という学級活動。まず、「動物のうんこクイズ」で子どもたちの心をつかんだ。動物とそれぞれのうんこの写真を並べ、どのうんこがどの動物のものかクイズにした。そして、自分たちの体の中でどうやってうんこができるのか、どのようにすると元気なバナナうんこが出るのかを学んだ。 チェックカードで自分のうんこを点検 そして「うんこチェックカード」登場。出た時間、うんこの色、形、体の様子、感想、保護者のコメントを書くカードを作った。チェックカードを家に持ち帰ることによって、保護者も巻き込もうと考えた。子どもの生活環境、食環境を変えるのは保護者の協力が不可欠である。また、学年ごとに排便習慣作りの目標を決めた。例えば1年生は「すききらいをなくして なんでもたべて すっきりだそう」、2、3年生は「トイレタイムをつくろう」、4年生「早寝早起きをして、朝ご飯をしっかりたべよう」など。 チェックカードは4回行なった。1回目、3回目は生活リズムのある学期内に、2回目は夏休み中、4回目は冬休み明けというリズムが乱れる時期にそれの修正も兼ねて、それぞれ1週間チェックをした。その結果、回を重ねるたびに、健康的なバナナうんこが増えてきた。「うんこチェックカード」を書くことでうんこに意識がむき、結果的に排便リズムが整うことにもつながったようである。 また、運動量が排便リズムに関係があるのではないかと考え、3回目の調査では5年生に万歩計をつけてもらった。運動量が極端に少なくなる土・日曜日よりも、学校がある日のほうが、うんこが出る時間のリズムができているということもわかった。 「食べてすっきり―食物せんいのひみつ―」というテーマで開催した健康展は、「給食かるたの展示」、「学校給食の歴史について」、「給食献立内容の変遷」、「好きな給食などのアンケート」、「食物繊維について」取り組んだ。「食物繊維について」は、そのはたらき、多く含む食品、それを使ったおからドーナツや切干大根の天ぷらの試食を行なった。 1年の取り組みを終えて、保護者の感想は「子どもが、自分で自分の体に気をつけられた」「野菜を多く食べるなど気を配るようになった」「朝、トイレに行く時間を作るように親子で声掛けをした」「うんこについて、家庭や学校で自然な感じで会話ができるようになった」と好評だった。なかには「チェックカードがあるときはうんこが出るようになった」「高学年になると他人には知られたくないという気持ちもあった」というものもあった。 平成16年度も、ひきつづき「うんこチェックカード」、「万歩計で運動量調査」、「エアロビ運動」、「食との関わり」、「健康展」を行なった。4月には、学校栄養職員、田淵満子先生が赴任し、芝勢先生との強力な二人三脚の取り組みが始まった。 「うんこチェックカード」は前年度の反省を生かし、より簡単に書けるよう工夫をした。 母親の食に対する意識にも変化 「食との関わり」では、学級担任と栄養職員田淵先生のTT(ティームティーチング)で授業をし、5月と翌年2月に親子で調理実習をした。学校給食は食物繊維の多い食材を使っていることから、5月は「家庭に生かそう学校給食メニューー」とし、メニューは大豆、黒豆、しらす干しを入れた瀬戸内ご飯とにらたま汁、切り干し大根のかき揚げ、新ごぼうのかき揚げ、豆腐ボール、ひじきサラダ、ごませんべい、パンナコッタ風ヨーグルトゼリー、チーズツイストパンという豪華版。2月は「畑のお肉、豆の力再発見!」。五穀おこわ、三色豆と豚肉の洋風煮込み、豆のチリ揚げ、五目なます、いもぜんざい。調理実習では、母親の食に対する意識に変化が出た。いつも、子どもが好きなメニューになってしまうことを反省し、おじいちゃん、おばあちゃんが食べる伝統食を見直したという。 「健康展」のテーマは昨年と同じ。「食物繊維の多い食べ物を選んでみよう」は、食べ物カードを黒板に貼り、その中から食物繊維の多い食べ物を選んで自分で献立を立てるという楽しくて役に立つ一石二鳥のものだった。 2年間の取り組みを通して、子どもも親も排便リズムをつかむことができたようだ。子どもたちからは、「〜したら調子がよかった」「〜を続けたい」という前向きな感想が多かった。子どもだけでなく家族も巻き込んで自分の体、食べ物に関心を持てたことは、食育の取り組みとして成功したといえる。この取り組みは、明楽校長はじめ食育に関心の高い沙美小学校の先生方の大きな協力の賜であった。 「しつこく、ねっちりと取り組みました」という芝勢先生の言葉どおり、「うんこ」をキーワードに徹底した食育の取り組みが行なわれていた。これは、タブーとなっていた「うんこ」という言葉に市民権を与えた点でも素晴らしい取り組みといえよう。 平成17年度の食育の目標は、「豊かな食生活を切り拓いていく沙美の食育は、学校給食を出発点として〜」。そのなかで、保健のキャッチコピーは、「いただきます 朝ごはん」。今度は「朝ごはん」をキーワードに早寝、早起きの「睡眠」と、もちろん「うんこ」にも取り組んでいる。 |