「まち むら」90号掲載
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子どもたちを守り、安全・安心のまちづくりをすすめる
滋賀県彦根市・健やか金城の会
 幕末の大老、井伊直弼(いいなおすけ)を輩出した旧彦根藩の城下町・滋賀県彦根市(人口109,950人)。その“ご城下”の中心部から南に少しはずれたところに世帯数約4,300戸、人口約12,000人の同市では最大規模の新興住宅地を抱える金城学区がある。11年前から子どもや青少年の健全育成を目指す「健やか金城の会」などの住民グループが「安全な地城づくり」を目指して危険箇所や避難場所などを書き込んだ防犯用のマップづくりや下校時の児童、生徒を守る防犯見廻り隊のパトワール、不法駐車一掃作戦などの幅広い活動を続けている。“故郷意識”が希薄でまとまりが難しいとされる新興住宅地の取り組みが注目されている。


2つの事件をきっかけに

 1993年秋の2つの事件が住民を動かすきっかけだった。1つは団地内を中心に100本以上の街路灯の電灯が投石で割られた。もう1つは市立金城小学校の校庭で児童たちが大切に育てていた菊の花の鉢植え約800個が無惨に壊されたのだ。テレビや新聞で全国に報道された。鉢植えを壊したのが地元の若者だったことが分かり、それまで静かな地域だっただけに住民のショックは一層大きかった。
 翌年の7月には、「地域が青少年や子どもたちに積極的にかかわり合っていこう」と、住民有志が立ち上がった。彦根署の支援を受け、趣旨に賛同する小、中学校や幼稚園、各PTA、自治会、公民館をはじめ各種団体が運動に加わった。
「みんなの力で活動を盛り上げよう」と、学区民から会の名前を公募し、「健やか金城の会」(伊富貴和雄会長)をスタートさせた。青少年を巻き込んだ催しを積極的に開いたり、明るい家庭づくり▽住みたい街づくり▽住んでよかった街づくり▽故郷づくり―を掲げて活動し、地道に続けている。


1年をかけマップを作成、全世帯に配布

 今年2月には、会員が手分けして地域の危険箇所や交通量が多い場所などを調べ、1年かけて作成した「健やか金城マップ」(縦60センチ、横42センチ)を地区内全戸に配布した。校区の地図に不審者に声を掛けられるなどした時に逃げ込む約100か所の「子ども110番の家」や子どもたちが安全に遊べる公園、安心して楽しめる散歩道、危険箇所、通学道路、自治会館、河川や琵琶湖岸の遊泳禁止場所から災害時の避難場所などを独自のマークを使って分かりやすく書き込んだ。
 彦祝箸や彦根市消防本部、市立病院などの電話番号も入れており、大人も活用できる。会では「最近、子どもたちを取り巻く環境は悪くなるばかり。商業地域もある金城学区ではとくに青少年へのいたずらをはじめ、青少年犯罪や車上狙い、自転車盗などの犯罪が多く、『安全な暮らし』への不安が高まっている」と強調。このため「地域の安全は地域で守って行くという観点に立ち、マップを1つの材料にして家族の中でも地域の安全について話し合ってもらいたい」と訴えている。


金城防犯見廻り隊を結成

 このマップづくりと連動したのが今年3月に発足した、通学路をボランティアでパトロールする「金城防犯見廻り隊」(柴田謙隊長)。最近、各地で登下校中の児童、生徒が危害を加えられたり不審者に声を掛けられるケースが増えているため、みんなで目を光らせようという活動だ。住民から隊員を募集し、定年退職者や自営業者、主婦ら75人と3匹のイヌが集まった。
 活動は下校時間帯の午後2時半から4時半が中心。黄色地に黒字で「防犯見廻り隊」と書いたタスキを掛けた隊員が通学路周辺に立ち、児童らに「気を付けて帰るんだよ」と呼び掛けたり、巡回して安全確認や不審者に目を光らせる活動をしている。
 4月からは大藪町の安原辰二六さんの愛犬で3歳のメスのゴールデンレトリバーの「モモ」など3匹の“見廻り犬”が加わり、子どもたちの人気者になっている。隊から黄色の厚地の布(縦30センチ、横20センチ)に黒字で「金城防犯見廻り隊」の刺しゅうを施したゼッケンが贈られ、背中に付けてパトロールしている。「モモ」は朝と夕方の散歩に合わせた活動で、児童が駆け寄って「おはよう」と声を掛けると「モモ」は尾を振って応えたり寝転がって甘える。児童と「モモ」の交流は地域の明るい光景として定着しつつある。
 安原さんは「愛犬の散歩の途中、2時間近く交差点に立っている。愛犬とともに子どもたちの安全を守るお役に立て、とても楽しくやり甲斐を感じている。『モモ』も子どもたちになつき、散歩の時間が近づくとないたりそわそわするほど。これからも見廻り隊の隊員として地域の安全、安心づくりに協力していく」という。
 柴田隊長は「『モモ』などの参加で児童が隊員に親しみを持ってくれたようだ。児童と話す機会も増え、危険箇所や不審者の情報収集などにも生かせる」と喜ぶ。
 同隊では、毎日15〜20人が活動できるよう、100人以上の隊員の確保を目指しており、柴田隊長は「朝夕の散歩者など多くの人に活動に参加してもらいたい。万一の時は警察や学校に通報する体制をとっており、不審者が入り込めない環境づくりをしていく」と話している。


3分の1に減らした迷惑違法駐車

 その一方で、99年末に起きた団地内を震撼させた連続放火事件をきっかけに、団地内の迷惑・不法駐車一掃活動も続けている。
 当時、団地内の路上駐車の車両があまりにも多く、消防車などがなかなか現場に入れず、消火作業が大幅に遅れるなどして住民の不安を一層かきたてたのだ。00年5月に金城学区交通安全会議(柴田謙議長)を設立。地元の自治会や消防団、自主防災会、PTA、子ども会や老人会、婦人会などあらゆる団体を取り込んだ組織にしたのが強味。その後は毎年夏と年末に新興住宅地を中心に「迷惑・違法駐車追放パトロール」を実施。
 彦根市や市消防本部、彦根署、彦根交通安全協会の協力も受け、約100人が出動して路上駐車車両に「迷惑駐車です」と書いた啓発・警告ステッカーを貼る地道な活動を繰り広げている。これまでに9回のパトロールを行なったが、最悪時には夜間を中心に600台以上もあった迷惑・違法駐車などを3分の1にまで減らす成果を上げている。柴田議長は「それでも常時200台前後の迷惑駐車が今もある」と嘆く。柴田議長は「自分の住む町は自分たちで守る活動。今後もパトロールを続けるが、呼び掛けや警告では限界があり、常習の青空駐車は徹底した取り締まりを彦根署に要請する。団地内から迷惑・違法駐車が皆無になるまで活動を続ける」と話している。
 新興住宅地から地域全体へと広がりを見せ始めた、「地域の安全は地域のみんなが協力して守ろう」という活動の輪。成果は徐々にだが出始め、これまで無関心だった地域の子どもたちに親同士がお互いに目を向け合い、時には厳しく注意することもあるという。この活動が地域からさらに他の地域へ、彦根市全体へと広がることを願ってこれからも地道だが息の長い運動として盛り上げるという。