「まち むら」89号掲載
ル ポ

7割の住民が会員となり自然豊かな川の再生をめざす
岩手県前沢町・大曲の水辺に夢をつくろう会
川との共生で地域に活力を

 岩手県岩手町の御堂地区を源流とし、宮城県追波湾に流れ着く全長249キロの「北上川」。道路網が末整備だった藩制時代には、石巻・盛岡間の舟運流通がおおいに盛んで、北部を南部氏、両部を伊達氏が支配するなど、軍事的、経済的に重要な役割を果たしてきた。現在では、河川環境整備が進み、「安全」が強化される一方で、かつて子どもたちが水遊びや魚とりに夢中になっていた川の光景はすっかり失われている一面もある。
 自然豊かな北上川の再生を願い、河川環境整備を通して地域活性化に貢献しようと、岩手県前沢町白山の大曲橋周辺で、地元有志団体「大曲の水辺に夢をつくろう会」が活動をスタートしたのは2000(平成12)年1月。「ふるさと前沢」を足元から見直すため、野ざらし状熊だった河川敷の清掃から始まり、花壇造成、芝張りの多目的広場整備など、地域住民の協力を受けながら活動を展開している。会員は60、70歳代が中心。発足当初は10人程度の活動が現在では、白山地区世帯(427戸)の7割以上が会員となるまで拡大。地元小学生を巻き込んだ環境学習の場として、地域住民が集う憩いの場として、地域をにぎやかにしている。昨年8月には「川舟文化を後世に伝えていこう」と、手づくりの川舟2隻を完成。同会の活動が岸辺を離れ、本流にこぎ出し始めている。


環境学習の場を提供

 発足当初の司会の活動の中心は川辺のシンボルとなる花壇整備。「子どもからお年寄りまで多くの人が集まって安らいでほしい」と花壇は、専門家の指導を受けながら∞(無限大)マークの工夫を凝らしたデザインを取り入れた。ベゴニア、マリーゴ−ルド、百日草など約2,000株が配色を考えられながら等間隔に植えられている。
 植栽作業は、会員ばかりではない。地元の前沢町立白山小学校の児童たちも、地域の先輩たちに植え方を教わりながら世代間交流を楽しんでいる。
 同小学校では環境教育の一環として、総合的な学習の時間を活用し、同会と連携しながら水質調査、昆虫観察、そば栽培などを体験している。現在は「白山小エコクラブ」を組織し、4月から11月まで定期的に水質調査を実施、地元の環境問題を考える機会としている。同会の岩渕博会長は、「地域住民と子供とさか水辺と親しみながら自然の保全に関心を持ってもらえれば」と同会の果たす役割に手応えを感じている。
 現在は、水辺には花壇のほか、グラウンドゴルフなとが楽しめる芝張りの広場(約3,000平方メートル)もある。地元の在宅複合型介護施設、特別養護老人ホームの利用者らが車いすで訪れ「ミニピクニック」を楽しむなど、地域の「いやしゾーン」として浸透。北上川を軸とした同会の活動が評判を呼んでいる。


広がり続ける活動の輪行政の支援も

 北上川を「有効利用」する同会に、国土交通省(現・東北地方整備局岩手河川国道事務所)など関係機関の支援が自然と集まってきた。02(平成14)年4月には同省の協力で車いすの通行も可能な堤防スロープが完成したほか、04年に散策路、水際まで石積み階段で下りることができる「ガニ子学習広場」など次々と施設が充実。岩渕会長も「年々、水辺公園が立派になっていく」と積極的な支援に感謝する。
 散策路には木材チップが敷き詰められている。同チップは、岡谷が隣の胆沢町で進めている犬型工事「胆沢ダム」の工事に関連し、発生する伐採木のチップを同会が引き受け、工事現場から運搬したものを敷き詰めたもの。軽トラック数10台分のチップは、驚くほどの量で、踏み固められたチップは「ふわふわ」とした感覚が人気を集める。散歩コースに活用する人も多い。木材チップの再利用先を探す同省と、伐採木の再利用を積極的に進める同会の新たな相互関係も生まれてきている。


台風で広場全滅「思いは流されない」

 地域住民の協力、地元小学生の参加などで、水辺活動の輪を広げてきた同会。しかし、北上川は、自然の怖さも教えてくれた。02(平成14)年7月に東北地方を襲った台風6号。各地で大きなつめあとを残し、同町でも北上川沿いを中心に、増水による床上浸水、床下浸水、田畑冠水などが相次ぎ、日常生活が混乱した。大曲橋でも危険水位5.8メートル超える6.2メートルに到達。水辺がすっぽり飲み込まれた。
 一夜明け、うねるような濁流が引けた水辺広場は無残な姿に。小学生たちが植えたベゴニア、マリーゴールドなど見ごろを迎えていた花約1,900株がすべて流された。花の成長を楽しみにしていた児童もがっかり。秋の収穫を楽しみにしていたソバ畑も跡形もなくなった。
 芝生の広場は、増水時に運ばれた大量の小石が散乱。取り除いた量を後で調べると、軽トラック4台分。みんなで作り上げてきた「みんなの水辺」が一瞬にして消えた。
「流されてしまったことは残意だか、これも北上川の顔の1つ。私たちの水辺にかける思いまでは流されない」と岩渕会長。水辺復活に向けた同会の動きは速かった。翌月には、約100人がボランティア参加し、新たに1,300株の花を植栽。「今度は元気に育って」と1つひとつを丁寧に植えつけた。
 台風によって水辺の形は、少し変わったが、ふるさとの風景を守るうとする会員たちの気持ちは少しの変化もなかった。


夢を乗せて、手づくり川舟が完成

 かつて前沢町でも盛んだった川舟文化と技術を後世に残していこうと、川舟づくりに取り組み始めたのは、まだ東北に春が訪れるには少し早い00年3月。北上川周辺の環境整備から次の段階ヘ着実にステップアップした瞬間だった。川舟は材料となる原本の伐採からスタート。同町生母地内で確保した本は、樹齢100年以上、直径85センチの堂々たるスギ。当初、1隻だけつくる予定も原本の節が少なく使用できる部位が多いことから急きょ、2隻に変更。舟も昔ながらの技法にこだわり、地域の船大工・佐々木安夫さんが中心となリ大工4人で作業を進めた。
 完成した舟は全長約10メートルで船底から船首にかけて滑らかな反りを見せる「長部型」を採用。船底の両端前後には、水の流れをつかみ、安定させるための「水切り」が施されたほか、板と板の間口は、両面テープにシリコンを流し込み防水性を高めるなど職人の技が随所に生かされている。船大工の佐々木さんは「舟つくりの文化を廃れさせてはならない。引き受ける人がいたらバトンを渡したい」と次世代に期待を込める。


地域に根ざし始めた北上川への思い

 ことし2月に、地元・白山小学校で開かれた学習発表会に同会の岩渕会長ら3人が招待された。児童たちは、水質調査や川舟づくりの製作過程などテーマごとに研究成果を発表。「水辺のおじさんたち」とのふれあいに感謝しながら、発表後は同会に「とっても楽しい1年でした」と感謝状と手紙を手渡した。同会の「北上川の水辺をきれいにしたい」という願いが、地域の児童たちにもしっかりと伝わった。岩渕会長は「君たちが1年間、問題意識を待ちながら活動したことをうれしく思う。活動の思い出を宝に、心の中の北上川を育ててほしい」と地域の新しい芽に大きな期待を込める。同小学校の取り組みは今後も続けられる。
 同会の活動も留まることなく続きそうだ。