「まち むら」89号掲載 |
ル ポ |
古新聞回収で新しいシステムを生み出し運営する |
福岡県福岡市・特定非営利活動法人新聞環境システム研究所 |
リサイクル増進など一石二鳥の効果 福岡市から車で約2時間。福岡県北東部にある人□約9000人の豊津町で2003年5月、NPO法人新聞環境システム研究所(福岡市東区、川上義光所長)が新たな新聞回収システムを誕生きせた。新聞を回収に出すと、引き換えに地域通言「ペパ」がもらえ、公共交通機関の割引券や町の物産販売所の割引券として使えるシステムだ。リサイクル増進だけでなく、公共交通機関の利用促進やゴミ処理コスト削減にもつながる。“一石二鳥”の取り組みとして、全国の注目を集めている。 朝から冷え込み、山間部で雪が降った3月5日。午後0時半を過ぎた豊津町立図書館に、古新聞を手にした町民が続々と集まってきた。自転車で、乗用車で、徒歩で――。持参した新聞の束にはそれぞれ、組に印刷されたバーコードが張り付けられている。 待機していた川上所長が機械でバーコードをなぞると、パソコンの画面に、氏名、住所、そしてこれまでに“貯金”されたポイント数の合計が読み出された。新聞が載せられた体重計の針は、21キログラムを指している。 「○○さんですね。21キロ。30ペパたまりましだけど、地域通言と交換します?」 積まれていく新聞の束は、時間と共に増えていく。集まった新聞は、町シルバー人材センターの人がトラックで運んでいった。 交通機関の乗車券などに利用できる地域通貨と交換 ここでは1ペパ=新聞紙1キロ。ペパ(PEPA)は、“Paper Energy People Action”の略で、Paperの「の韻をもとにした造語。紙の潜在的な力が人々の価値観や行動を変えていくことを願ってつけられた。30ペパ貯まると地域通貨「30ペパ紙幣」(80円相当)と交換できる。 豊津町では「30ペパ紙幣」を2つの公共交通機関で利用することができる。 「公共交通機関の利用を促すことで、二重に環境保護へ貢献しよう」という狙いだ。 太陽交通(福岡県行橋市)の路線バスでは、バス乗車1回につき、30ペパ紙幣1枚を運賃80円分の乗車補助券として使い、残りを現金で支払う仕組み。同社は受け取った30ペパ紙幣を研究所に1枚80円で換金してもらう。平成筑豊鉄道(同県金田町)では、研究所が同社からあらかじめ乗車回数券を購入。住民は150ペパ貯まると400円分(100円券×4枚)の乗車回数券と交換できる。 公共交通機関以外でも、町の物産販売所「国府の郷」の商品券(80円分)として30ペパ紙幣を使ったり、30ペパで町指定ごみ袋5枚と引き換えてもらうことも可能だ。 ペパの原資は、集団回収された新聞1キロにつき、町が5円を助成する奨励金制度。30キロ回収すれば150円の収入があり、約半分の80円が住民に還元されることになる。残りが研究所の運営費だ。研究所の加来睦博理事は「ただで協力してもらうのではなく、その協力を評価し、何かを対価として還元することが重要。人は評価されれば『またやろう』という気になるんです」と話す。 同町では、ペパとの交換をスタートした03年5月時点で34世帯だった会員が、今年2月末には町内会世帯の6%にあたる211世帯に増加。収集量も月平均917キロ(03年度)から、2,525キロ(04年度)と大幅に増えた。 知人から勧められて昨年末に会員になったという会社員の富永勝敏さんは「これまでは子供会の集団回収に出していたが、回数が少ないためすぐにたまっていた。ここは第1、3土曜日と2回あるし、図書館に来るついでに出せるので便利。ペパはバスや鉄道でも使えるし、研究所にはこれからも頑張ってほしい」と話す。 最近では、研究所の趣旨に賛同した町内の2つの郵便局も収集に協力。第1,3土曜日は郵便局の駐車場を収集場所として開放してくれるようになった。平日は窓□で参加の申し込みも受け付けている。シルバー人材センターも、集まった古紙をボランティアで古紙問屋に運んでくれるようになった。代わりに、回収した新聞をセンターに譲渡。センターは古紙問屋に売って収入を得ている。 地域にあったやり方をすれば 川上さんは「最初は私たちだけが呼びかけていたが、今では住民やシルバー人材センターの人が積極的に呼びかけ周知してくれるようになった。地域にあったやリ方をすれば、住民には必ず伝わります」と話す。 今でこそ順調に運営されているが、滑り出しはそう順調ではなかった。最初の1年間で20自治体を回ったが、研究所への助成を認めてくれたのは最後に訪ねた豊津町のみ。「すでに集団回収している子供会や団体から苦情がくる」というのが理由だった。 豊津町も最初はあまり乗り気ではなかった。が、町では新聞の約7割(年間約340トン)が可燃ごみに出されていること、可燃ごみの焼却には1キロあたリ32円かかっており、5円の奨励金を出しても27円のコスト削減になること、年間では1千万円の焼却費用が削減できることを町長に直接説明。すると、財政難の折、少しでも行政コストを削減したい町長は、即座にゴーサインを出した。 これまで子供会なとがら町に苦情が寄せられたことは一度もない。町行政としては「従来の集団回収は集団回収として、NPOはNPOとしてやってもらい、それで全体の回収量が上がればそれがベスト」と考えている。 地域通貨と乗車券との交換システムの検討会も発足 昨年6月には、福岡市でも集団回収を開始。ペパを福岡市地下鉄の割引券として使用できるようになった。豊津町と比べ公共交通機関の利用度が高い都市部の福岡市では、公共交通の利用促進の期待がより高まる。 国土交通省九州運輸局(福岡市)もこの取り組みに注目。同局が市やほかの交通事業者、同研究所に呼びかけて「地域通貨とバス・鉄道乗車券との交換システムに関する検討会」を設置。利用できる公共交通機関の拡大や回収場所の拡大に向け検討を進めている。 「新聞などの資源を預けてペパを引き出すという、銀行のATMのような感覚でとらえてほしい。このシステムは、資源銀行なんです」と同研究所の加来理事。福岡市でも実績が上がれば、国や市を通じて全国へ広がることも期待される。 |