「まち むら」88号掲載
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主婦の力で商店街に活力を
岐阜県土岐市・土岐市生活学校
 こげ茶色にさび付いたシャッター、人通りの少ないメインストリート。そんな地元商店街の活性化に貢献しようと岐阜県土岐市泉町久尻のJR土岐市駅前商店街で、市内の女性有志でつくる土岐市生活学校(金山富士子代表)が行政や商工会議所などと連携し、空き店舗や空きスペースを有効に利用する試みが始まっている。空き店舗を市民の休憩所や展示ギャラリーに、空きスペースを朝市の開催場所として活用することで商店街に集客力を取り戻し、街全体の活性化につなげるのが狙い。各地域の商店街が空洞化に悩む中で、全国的にも珍しい取り組みとして注目を集めている。
 JR土岐市駅前商店街は駅周辺に位置する市の中心地で、土岐市駅前商店街振興組合、共栄会、中央商店街振興組合の3組合で構成されている。以前は同駅から南に続くメインストリートなとを中心に、多くの地元買い物客でにぎわったが、近年の大型ショッピングセンターの進出や自動車所有の増加などに伴い、店舗数は急速に減少。25年前に約200店あった店舗は、2年前に約半数まで減少し、シャッターを降ろしたままや、ベニヤ板を打ちつけたままの空き店舗が相次いだ。地元関係者は「店舗経営者の多くは高齢者で、跡継ぎがないために閉店するケースが多い。今後もこの流れは続くとみられる」と分析する。市民からは「シャッター商店」「幽霊商店街」などと呼ばれ、景観を損なうなどの苦情が出ていた。


女性の立場から活性化への提言

 こうした状況を受け、土岐市生活学校は2000(平成12)年2月、「さびれている商店街」などをテーマに商工会議所関係者らと意見交換を実施。商店街の活性化対策をはじめ、駅前のバリアフリー化やレジ袋の削減など女性の立場からまちづくりに対する提案を出した。この対話集会をきっかけに、地元商店街や市、土岐商工会議所などが立ち上がった。2002年4月には中心市街地活性化推進協議会を立ち上げ、商店街活性化に向けて大きな一歩を踏み出した。現在、商店街活性化事業は「中心市街地活性化推進協議会」が最上部の組織として意思決定を行い、その下に「中心市街地運営委員会」「ゆのみの里建設運営委員会」、さらに中心市街地運営委員会には「空き店活用事業プロジェクト」などの3プロジェクト、ゆのみの里建設運営委員会には「商業施設運営チーム」「美濃焼施設運営チーム」「ふれあい情報施設運営チーム」の3チームが組織されている。同協議会は、行政、商工会議所、地元商店街の代表者他有識者などで構成され、土岐市生活学校も各委員などに5人のメンバーが加わっている。


毎週地元商店が朝市を開催

 取り組みの一つとして11月から始まったのが、商店街の空きスペース「ゆのみの里広場」を利用した朝の「青空市」。駅の南にある土岐市商工会館跡地の空きスペース約1300平方メートルを利用し、地元商店街の10数店舗が毎週土曜日午前8時半からそれぞれブースを出店。野菜、電化製品、衣類など生鮮品や日用品までお値打ち価格で販売する。スーパーマーケットにも引けをとらない品揃えに、近所のお年寄りらでにぎわっている。通常の開催日には約800から900人が集まり、記念イベントなどには来場者が1000人を超えるという。商店街関係者も「これだけ人が集まる朝市は全国でも珍しい。歩いて来る買い物客が予想以上に多く、商店街の必要性を強く感じている」と自信を深める。また節目を祝うイベントには、土岐市生活学校のメンバーがもちつき大会を開き、来場者に無料でもちを振る舞うなどして人集めに一役買っている。


高校生を講師にパソコン教室を開催

 空き店舗対策では、3年前から空き店舗を利用し、市民の無料休憩スペース「はいって小屋」を設置。この施設は絵画などを気軽に展示するギャラリーとして活用できるほか、市民のふれあいの場としても利用されている。2004年4月からは「高校生にもまちづくりに参加してもらおう」と、地元の高校生を講師とするパソコン教室がスタート。現在は5台のパソコンが設置され、ワード、エクセル、年賀状の作成などパソコンに悩む中高齢者をボランティア高校生が親切に指導。若者と地域住民との交流の場としても注目されている。
 また一昨年には、駅前の空き店舗でチャレンジショップ「ゆめの小箱」を立ち上げた。室内の30ほどの展示ボックスを市民に貸し出し、売り上げの一部を管理費として収めるシステム。料金はボックスの位置や大きさによってさまざまだが、月額1200円から1万円程度と低価格に設定されており、日ごろから陶芸作品やパッチワーク、ビーズ作品などの手芸品を趣味にする市民から多くの応募が寄せられた。土岐市生活学校も積極的に出店し、廃食油を利用した石鹸や洗剤などを販売している。


子どもからお年寄りまでみんなが一緒に触れ合える場を

 今年には、市街地活性化の活動拠点として期待されている「ゆのみの里」が完成する予定。この施設の全体イメージは▽市民のニーズにあった日常的な商業サービスや生活支援サービスの提供、市民活動の場の提供▽商業・生活・交流機能を分散的に配置することで回遊性を高め、歩いて買い物しやすい歩行者空間を整備する▽空き店舗や空き地を活用して、新たな起業化を促進し、段階的に商店街の機能をステップアップしていく▽道路や駅前広場の拡幅に合わせて、統一的なデザインによる街並みづくりやオリジナルの商品を扱う商店街づくりを進める―など。具体的には、土岐市の各観光スポットをつなぐ情報プラザや市民が手軽に活用できるイベント広場、お年寄りから子どもまでが気軽に休憩し、会話できる交流スペース、会議なとで使用するための多目的ルームなどを整備する。またインターネットカフェや市民の展示ギャラリーをけじめ、ボックスショップやチャレンジショップなどの施設も盛り込む。金山代表は「子どもからお年寄りまでみんなが一緒に触れ合える場をつくることが大切。この場所を拠点として、人が集まるきっかけとなってほしい」と期待を込める。
 これらの活動のほかにも、土岐市生活学校は子どもが触れ合う場として、ゆのみの里広場で「子ども縁日」を年に1回開催。懐かしい遊びやお菓子などを集め、子どもの遊ぶ場所を提供している。またフリーマーケットなど低コストで人の集まるイベントも土岐市生活学校の提案で実現。金山代表は「これからお年寄りが増える社会で、車を使わないで通うことのできる商店街は必ず必要になる。活性化には金銭面で負担になることも多いが、採算が合うから続ける、採算が合わないからやめるでは今後につながらない。独自のアイデアを大切にして、続けるにはどうしたらいいのか知恵を出し合って考えていくべきだ」と提言する。商店街の活性化には、行政や商店街だけではなく、地元の消費者の視点を取り入れた街づくりが強く望まれている。