「まち むら」87号掲載 |
ル ポ |
七人から始まったEM活性化大作戦 |
栃木県足利市・NPO法人足利水土里探偵団 |
栃木県の西南端に位置する足利市。十六万人余りの市民が暮らすこの地には、渡良瀬川などの河川が街の中を流れている。「渡良瀬川をきれいにしよう」を合言葉に、平成六年、七名の市民によって、生ごみを減らすため、家庭での堆肥化を普及しようとする活動が開始され、その翌年「足利EM普及探偵団」が発足した。そして、平成十四年には、法人十二社、個人八十名によるNPO法人足利水土里探偵団へと発展させ、今日に至っている。ちなみに、年間に生ごみ千トン余りの削減の効果が、推計されている。 EMとの出会い EMとは、Effective Micro−organismsの頭文字をとった「有用微生物群」の意味。EM菌は、環境汚染物貿を無毒化する働きや、腐敗、老化などの崩壊型進行を抑制し、健康的な蘇生型環境をつくる働きをして、農業、畜産、ごみ処理、水質浄化など幅広い分野で活用されている。足利市のEMの普及活動は、足利水土里探偵団事務局長の中庭三夫さんが、EM菌と出会うことから、始まっている。市内の三洋電気株式会社に勤める傍ら、ナスやキュウリ、トマトなどを栽培していた中庭さんは、メンバーの一人から、EM菌の働きについて伝え聞き、家庭菜園でのEM菌の利用を思いついた、と言う。「孫が出来ましてね。孫たちの世代に残す大切なものは何かと考えると、豊かな自然環境。家庭から出る生ごみを堆肥化して、野菜や花を作る、自然界の循環の大切さであり、環境問題へのアプローチとしては、とても身近な事」と考え、中庭さんたち環境問題に関心のある企業経営者ら七人が、「足利EM普及探偵団」を発足させた。 七人から始まった「EM普及探偵団」 「足利EM普及探偵団」は、足利商工会議所が、地域活性化とまちづくりに向けて、平成五年から始めた「地域パワーアップ支援事業」として認定されたもの。認定条件は、商工会議所の会員七人以上で組織すること。支援内容は、一団体二○万円を資金援助。期間は、二年以内と規定している。専務理事の中島灸雄さんは、EM探偵団の仕掛け人の一人である。「今から十年ほど前になりますが、中庭さんが突然訪ねて来て、EMによる環境浄化の可能性を熱心に訴えたんです。それなら七人の仲間を集めれば、と助言し、メンバーになりそうな仲間を、何人か紹介しました。EM普及探偵団は、家庭の生ごみから環境問題を考える身近なアプローチだし、市民にアピールすると思いました」と。 延べ八十回も実施したEMサロン EM普及探偵団には、地元の主婦たちや家庭菜園の愛好家が結集し、生ごみを中心とした台所からの普及が図られた。その普及活動は、足利市が平成八年からEMストッカー、つまり生ごみバケツの購入費の補助金制度(三分の二を市が負担)を設けてから、弾みがついていく。 EMストッカーは、今までに千三百三十七世帯で活用され、その数は二千五百五十三個にも及ぶ(平成十六年三月現在)。こうした一般市民への広がりの背景には、ストッカーの使い方などの説明会を、今までに延べ八十回実施する、といった地道な努力があったことを見逃すことは出来ない。 毎月第二土曜日の午後、JR足利駅近くの旧相生小学校において開催されているEMの講習会、いわゆるEMサロン。毎回、二十名から三十名余りの市民や市外から訪れた人たちを迎えて、EMストッカーを使った生ごみ堆肥の作り方や、米のとぎ汁発酵液の作り方などを教えている。足利水土里探偵団の理事、林幸枝さんは、自ら撮影したきめ細かな映像を用いて、わかり易く説明している。EMにのめりこんでいく事になった林さんは、ある失敗談を語ってくれた。「主人が商工会議所でEMストッカーを購入して家に持って帰って来たんです。それで、お友だちにもEMストッカー勧めたのですが、実際に自分でストッカーを使って生ごみから、堆肥を作ってみると、うまく出来なかったんです。仲間にも紹介したのに、これは大変だと思い、改めて正しい作り方を覚えたんです」。そう言いながら、EMを使って栽培したキュウリの漬物も勧めるので一口味わうと、確かに美味しかった。EMサロンのもうひとりの担当者、須藤弘子さんは、「最近、EMについての問い合わせが、増えている」と、EMサロンの市民への浸透ぶりに、自信をのぞかせる。 EMとケナフ こうしたEMサロンによる、市民への地道なPR活動は、平成九年商工会議所内に、リサイクル研究会の発足。そして、地元企業によるEM導入の試みの開始となって、実を結んでいく。さらに、平成十一年、渡良瀬川や市流域に広がる市内三十八のすべての小中学校の環境教育として、EMとケナフが取り上げられている。ケナフは、アフリカ原産の一年草の植物。一年に四メートルから五メートルも成長する。成長過程では、針葉樹と比べて、五〜六倍も多く二酸化炭素を吸収する、と言われている。 「目に見えて育つケナフの栽培と、目に見えないが環境に良い働きをするEMとを組み合わせて、自然の体験学習にどうか」と考えた中庭さんは、市内の毛野小学校大久保分校に話を持ち込むとスムースに受け入れられ、これが、EMとケナフの学校教育の始まりとなった。具体的な活動としては、給食の食べ残しを、堆肥化して、ケナフを栽培。残りは、飼料として学校で飼育している家畜に与え、さらに米のとぎ汁発酵液で、プールを活用して貴重な生物の生息空間、いわゆるビオトープづくりなどを実践している。こうした事例が、足利市内の小中学校の学習テーマに、取り上げられたのである。 足利まちづくりEM大作戦 NPO法人、足利水土里探偵団の活動を支えているのは、中庭事務局長ら企業を退職した六十五歳前後の男性たちである。そんな彼らが、近年、力を注いでいる活動は、河川の浄化事業である。平成十三年には、地域と学校と起業が協力して、矢場川の浄化作戦。翌年には、EMで発酵させた米のとぎ汁を流して浄化する、彦谷川のビオトープ作戦。園児から大学生までが参加している。こうした浄化活動は、第三回世界水フォーラムで実践発表されている。こうした動きに、他県からの視察など熱い眼差しが、向けられている。 中庭さんは、「渡良瀬川とその支流域の沿線には、小学校や中学校が数多く点在しています。身近な川を通して、EM菌を体験学習することは、未来の地球環境を考えていく上でも、とても大切なことです」と、足利まちづくりEM大作戦に、力を注いでいる。(フリーディレクター・福田 孝) |