「まち むら」86号掲載
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地域住民のボランティア組織が学校の教育環境整備を支援
千葉県船橋市・NBFクラブ「ESO」
 人口56万人の中核市・千葉県船橋市では、学校の教育環境整備などを支援する市民ボランティア組織「ESO」の活動が注目を集めている。リタイアした地域住民などをボランティアとして募集し、地域の小・中学校に派遣して定期的に活動していく全国初の試みだ。
 2003年5月に船橋市立御滝中学校でモデル実施されたのに続き、04年5月には同市立大穴小学校でも活動を開始し、広がりをみせている。
 ESOは「エデュケーション・サポーターズ・オーガニゼーション(教育環境サポーター組織)」の略で、広告会社を経営する柿沼次男さんが船橋市教育委員会に提案し実現した。


NBFクラブを発足

 柿沼さんは、地域のコミュニティリーダー育成を目的に船橋市が開催したスポーツ健康大学に参加したことをきっかけに、仲間に声をかけ、99年に「車椅子ウオーキングフェスティバル」を実施。その後、「NBF(ノン・バリア・イン・フナバシ)クラブ」を立ち上げ、障害者の支援活動に取り組んでいる。
 「単なるイベントで終わらせるのではなく、船橋からバリアをなくす継続的な活動につなげたいとの思いから、30人ぐらいの仲間とNBFをつくりました」と柿沼さんは振り返る。
 車椅子ウオーキングは参加者を増やしながら毎年開催し、03年には障害者と健常者のふれあいをより深めていく事業内容に発展させた「いきいき船橋チャリティフェスタ」を開催した。
 「車椅子ウオーキングは好評でしたが、介助ボランティアの確保が大きな課題でした。ボランティア活動をしたいという人は多いものの、一度体験するとそれで満足し、なかなか継続的な活動に結びつかない。拘束されることを嫌うわけです。一方で、障害者は毎日不便な生活を強いられています。スポット的な支援ではなく、継続的にサポートできないかと考えるようになりました」と柿沼さん。
 そこで企画したのが「NBFハンドレッド・サンクス委員会」だった。“週2時間、年間100(ハンドレッド)時間の無理なく続けられるボランティア活動”を理念に、市民にボランティア活動ができる時間帯を事前に登録してもらい、障害者の援助要請とマッチングさせて市民ボランティアを派遣していく活動だ。船橋市に提案し、市と協働した全国初のボランティアシステムとして02年度から実施している。現在、約80人の市民ボランティアが登録し、市障害福祉課に寄せられる障害者の援助要請に応えている。
 「ハンドレッド・サンクス委員会には、障害を持つ子どもからの援助要請が多かったことから、自然と学校に目が向くようになりました。地域は学校に対し、もう少しかかわり、お手伝いすべきではないかとの思いを強めたのです」と柿沼さん。それがESOの立ち上げにつながったという。ESOはハンドレッド・サンクス委員会と同様、NBFクラブの活動の一環として取り組むことになった。


学校の教育環境整備を推進

 ESOは、@校庭緑化と防犯・校舎内の環境整備、A教師の教室運営の助手、Bクラブ活動のサポート、C社会勉強などの課外授業の協力、D避難所機能整備と管理支援、E校内外のパトロールと地域防犯拠点づくり――を主な活動内容に掲げる。市教育委員会の後押しを受け、活動現場となる各学校長の裁量による要請に基づき、学校ごとにボランティアを募集し、ESOを組織して活動する。
 「学校にはPTAやおやじの会などがありますが、仕事を持った若い世代が主体なので活動時間は限られています。また、子どもが卒業すると学校とのかかわりはなくなってしまいます。自治会などの学校支援にも限界があります。ESOがめざしているのは、経験豊富な地域住民がボランティアとして主体的に学校にかかわっていく常駐型の支援活動なのです」と柿沼さんは話す。
 御滝中学校のESOでは現在、活動の趣旨に賛同した6人が参加し、毎週月曜、水曜、金曜の午前10時から午後3時頃まで、校庭の植栽や花壇の手入れ、畑づくり、校内美化、特殊学級の生徒たちの学習支援などに取り組んでいる。
 班長を務める吉田司さんは、定年後の生きがいづくりとして参加したという。
 「会社ではバスケットボールの監督の経験があるので、クラブ活動のお手伝いができればと思い応募しました」。
 ハンドレッド・サンクス委員会のメンバーとしてボランティア活動を行なっている保泉幸二さんや、小学校教師の子どもがいて、学校とのかかわりを持ちたかったという満田智恵子さんは、学区外から参加しており、「ボランティアだから仕方ないと言われないためにも、日々の活動では手を抜かないように心がけています」と笑顔で話す。


メンバーを増やすことが課題

 御滝中学校のESOの活動は、発足後1年を経てすっかり定着している。
 「船橋市では“地域に開かれた学校づくり”を教育方針の柱の一つとしていますが、地域の人材と教育力を生かしたESOの活動は、学校と地域の連携に大きな成果をもたらしています。生徒や教員も様々な刺激を受け、学校の活性化にもつながっています」と御滝中学校の皆川征夫校長はESOの意義を話す。
 ESOの窓口役を担う教務主任の大道寺正剛さんも、「校内が見違えるほどきれいになりました。ESOのメンバーが環境づくりを進めてくれるおかげで、教員が子どもの教育に専念できるようになったことが大きい」と評価する。
 「外部の人間が学校や教師といい関係を保って活動していくためには、“教育問題には口を出さない”ことが大切」と柿沼さんは活動を成功させる秘訣を明かすとともに、「図書室の図書の整理やパソコンルームの整備、クラブ活動の補助など、活動の幅をさらに広げていくためにも常駐化を図っていきたいと思っています。一人ひとりの負担を減らし、常駐のシステムを構築するには20人程度のメンバーが必要。いかに活動メンバーを増やしていくかが目下の最大の課題です。ESO発足2周年を機にキャンペーンを展開し、メンバー募集の挺子入れを図っていきたい」と意気込みを示す。
 5月には大穴小学校でもESOが立ち上がり、地域の実情に応じた独自の方式による活動が始まった。また、三つの小学校と一つの中学校でも発足準備が進められるなど、ESOの活動は広がりをみせている。
 柿沼さんが掲げている最終目標は、小・中学校はもとより、高校、養護学校も含めた市立全84校にESOを広げていくことだ。ボランティア活動に対する関心の高まりに加え、今後、団塊世代がリタイアして地域に戻ってくることを考え合わせると、その目標達成は決して難しいものではないだろう。