「まち むら」84号掲載
ル ポ

「自助・共助・公助」を柱に安全な地域づくりに取り組む
岩手県・水沢市 南地区
創ろう守ろう安心のまち

 岩手県水沢市南地区では、「創ろう守ろう安心のまち」を合言葉に、不時の災害に備え、近隣のコミュニティを大切にしながら、真の安全な地域づくりに実績を積み上げている。
 具体的な運動目標を掲げ、活動をスタートさせて間もなく20年。地区民挙げての結束力は「素晴らしいまとまり」の一言に象徴されるほどだ。その内容は岩手県内でも屈指の活動ぶりを誇るにふさわしい。
 同地区は、市街地の南西部に位置し、南公民館を中心に16町内会で構成されている。約4800世帯、人口約12,500人。水沢市の20パーセントの人たちが生活している。貸家やアパートも急増の新興住宅地。
 古くからの農村集落に道路網などの整備が進むにつれ、中心市街地と外郭市街地が混在する典型的なドーナツ現象の輪郭を形成する地域でもある。現在はニュータウン造成なども進み、ますます住宅急増による発展を遂げようとしている。
 地区内には、市立体育館、老人ホーム、県立病院、医院など医療福祉施設も多い。国立天文台をはじめ幕末の先覚者・高野長英記念館など社会教育施設、水沢公園、野球場、陸上競技場、テニスコートといった公共のスポーツ施設もあり文教福祉地区でもある。
 こうした恵まれた環境がかえって日常的な近隣関係の希薄化、「空き巣」「車上狙い」「自転車盗難」「交通事故」といった事件・事故の増加をまねく傾向にあり、当然ながら地区民挙げての安全対策とその充実策が常時、求められている。
 「犯罪のない明るいまちづくり」をめざし、1985(昭和60)年7月、水沢市南地区防犯協会が発足。組織強化への大きなきっかけは地区内にある市立南中学校の校内が荒れた事件だった。
 住み良いまちづくりの第一歩は、そこに住む人たちがみんな心を一つにして考え、行動をおこし、組織をつくり、活動することが「原点」。「この原点を忘れないように」のムードが活動の継続につながっている。


防犯広報車を購入し地区をパトロール

 防犯協会に次いで、岩手県内初の「防犯みなみ母の会」や「南地区貸家・アパート防犯協会」も組織。加えて「水沢署・南駐在所」の設置実現。民間管理としては、これまた県内初の「防犯広報車」を購入しての地区内パトロールや防犯パレード、防犯診断、交通安全運動啓発などにも機動力を発揮。こうした活動の質を高めるための資金援助組織「防犯賛助制度」も設け、地区民らからの資金協力も順調だ。
 防犯協発足以来、今も同協会会長を務める佐藤四郎さんは「安心・安全のまちづくりには地域社会の連帯意識の向上、家庭教育の強化、子どもたちを取り巻く社会環境の浄化などわれわれの手作りで根気強くやらなければ」と強調する。
 そして、「防犯パトロールの強化」「安全のまちづくりシンポジウム」「安全福祉のまちづくりフォーラムin南」。さらには「防災・安全福祉マップ」作成や「地域の安全・わが家の安全」を内容とする冊子の発行。日ごろの地域コミュニティを大切にしながら町内会、関係団体、事業所、行政など「自助・共助・公助」の意識を柱にして連携を深めている。
 「南地区は一見、比較的平穏な地域というイメージが強いのだが」と前置きしながら、他の地域にも共通する「安心・安全」の問題点の幅広い情報発信も怠らない。
 例えば、○タンク、ボンベ、ガス管、ホームタンクなどの「ガス、ガソリン、石油対策」○使用化学薬品は何か、安全対策は、といった「地域内工場施設対策」○水源地、水槽、水道管、自家水道施設の「水道施設対策」○信号機、横断歩道の「生活道路安全対策」○老人施設や独居老人、病弱者の現状への「高齢者対策」○安心して遊べる遊び場、その他の施設、指導者、といった「子ども対策」などその項目は多岐にわたる。
 こうした活動を積み重ねている中、昨年7月17日(木曜日)午前9時46分ごろ、同地区内にある市立水沢南小学校(児童880人)でショツクな“事件”があった。
 男の声で、一方的に「南小学校は、30人殺してやる」と言っただけで切れてしまう脅迫電話。応対には教頭先生が出た。
 翌日の午前、再び同校に17日の脅迫内容を撤回した上で「ごめんなさい」と謝罪する男からの電話がかかってきた。教頭先生が「だれ?」と尋ねると「高校生です」。学校名を聞くと「それは言えない」と言って電話が切れた。犯人はいまだ分かっていない。幸い具体的な被害は発生しなかった。
 この“事件”は、昨年4月から同地区が「憩いの場の不道徳行為に監視の目」をと、スタートした「水沢公園安全パトロール」活動関係者にとっても衝撃だった。
 サクラの公園・ツツジの公園・四季の公園などとして親しまれている「水沢公園」。ここ数年、花見シーーズンのボンボリの抜き取りや破壊、近くの体育館など建物への落書き、市営野球場内での花火の燃えかすや割れたビール瓶の散乱。さらに昼夜に関係なくの若者たちの「たむろ」、通りがかりの女性に対する「ひやかし」や「ストーカー行為」、女子生徒を含む中・高校生の「喫煙」など目にあまる行為が目立つ。
 こうした光景を目の当たりにする多くの市民からの「このままではいつ大きな事件が起きてもおかしくない」といった心配や改善策を望む声に応えてのパトロール開始である。
 水沢署の協力、支援を得て、同公園の管理詰め所に「警察官立寄所」(愛称・公園交番)を開設。4月から毎週週末、午後8時から9時まで、地区内各種団体役員らが中心になっての「巡回班」を編成、続けられている。


元警察署長も広報紙発行で活躍

 同地区の「安心・安全」活動の背景に、警察官OBの積極的なかかわりを見逃すことは出来ない。
 元警察署長で現南地区防犯協会副会長、高橋敏雄さんは手作りの月刊防犯広報紙「防犯みなみ」(B4判)を発行。往年の杵柄(きねづか)を発揮しての編集内容は、「さすが説得力にあふれている。助かります」と読者を引きつける。2002年4月から奥さん(リマさん)の「手伝うよ」の励ましもあって発刊を決断したという。取材、執筆、ワープロ打ち込み、レイアウト、印刷、配布まで万人の作業。表現や校正は奥さん担当の「夫唱婦随」の防犯広報紙だ。
「悪徳商法にご用心」「廃棄物(ごみ)の適正処理を」「車上狙いの予防について」「酒気帯び運転の罰則が廠しくなった道交法」――など、タイムリーでしかも元警察官ならではの鋭い視点でとらえた紙面構成。「おらが地域をはじめ多くの地域を優れた防犯地域へ導く手助けのつもりでやっています」と高橋さん。
 南地区防犯協会結成当時からの事務局長村上徳也さんは、「安全は福祉の原点」とした上で、家庭、地域が一体となり、声を掛け合い、助け合う環境をつくる
「自主防犯意識」に裏付けされた「地域ぐるみの運動」の大切さを説き、「今後とも『隣は何をする人ぞ』ではない連帯活動を継続していきたい」と力説する。