「まち むら」84号掲載
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資源循環型社会のまちづくり
山形県・藤島町
 山形県の日本海側に広がる庄内平野。その東側に位置する人口約1万2千人の農業のまち、藤島町。昨年4月1日に「人と環境にやさしいまちづくリ条例」が施行され、新設した町エコタウン課を中心に農業を核とした資源循環型社会を目指す新たなまちづくりを始めた。学校給食やオリジナル酒づくりなどに代表される地産地消の推進、自治体としてJAS(日本農林規格)法に基づく有機農産物認定機関を目指すなど、独自のプロジェクトを進める。「地方発全国」を目指す同町の取り組みを紹介する。
 同町は昔から稲作地帯として栄え、明治時代には庄内平野東部一帯を指す東田川郡の郡役所が置かれるなど行政の中心地としてもにぎわった。しかし、時代の変遷とともに農業が低迷する中で、ほか
の多くの農村地帯と同じように産業の衰退、周辺市への若者の流出など課題を抱えていた。


エコタウンを目指し7つのプロジェクトを立ち上げる

 2002年1月に現在の阿部昇司町長が就任。公約に掲げた農業振興を実行に移すため、町内で農産物加工会社を経営する相馬一廣氏を助役に登用した。就任して間もなく、阿部町長と相馬助役の2
人で町民と懇談を重ねる中で、「国・県の補助を受けて事業を進めてきた他力依存の脱却を考えたとき、この地域は先人から受け継いだ農地がある。それを新しい形で形成していくことが大切」(阿部町長)と、2002年9月に農業を核とした資源循環型社会の構築を目指す「人と環境にやさしいまち(エコタウン)」を宣言。それに基づく条例として同名のまちづり条例が昨年4月に施行された。
 町がエコタウンプロジェクトと総称する具体的な実施計画では、@伝統行事などを生かした農村型生活スタイルの確立A生ごみのリサイクルや堆肥センターの建設などリサイクルシステムの構築B有機認証制度やトレーサビリティー(産地履歴)の導入Cテントウムシなど生態系防除技術の普及と利用D小・中学生の修学旅行受け入れなど農業交流事業の促進D学校給食での地元産農産物の利用拡大など地産地消の推進F農産物加工品の開発の7つの主要プロジェクトを掲げた。初年度の今年、こうした具体的な取り組みが現在進行形で進められている。
 その目玉の1つとして、町では農協や町商工会、町内にある県の庄内農業改良普及センターと県立農業試験場庄内支場、生産者らで有機認証について検討する委員会を立ち上げ、話し合いを進めた結果、JAS法に基づく有機農産物認定機関を目指すことを決めた。『町直営』の認定機関となることで、町内産農産物のブランド化を図ることが狙い。すでに10月に農林水産省に登録申請。年度内の登録を目指し、来年度から認証制度を運用させる予定だ。
 有機農産物については、JAS法の改正に伴い一昨年4月から、「完全無農薬・無化学肥料」などとする国のガイドラインに沿った栽培方法に適合した農作物でなければ「有機栽培」などの表示ができないことになっている。現在、町内で認定を受けて有機農業に取り組んでいる農家は水稲を中心に約20人。町エコタウン課の武田壮一係長は「少しでも多くの町内の農家が有機農業に挑戦することで、基幹産業の振興を図リ、『安心・安全』な食糧生産基地として全国にアピールしたい」と意気込みを話す。
 また、有機認証制度に併せ、町独自の認証制度も一緒にスタートさせる計画。町独自の基準として、減化学合成農薬の使用を一成分しか認めないという、ほぼ有機農産物に近い条件を設定する。町ではこうした取り組みを「人と環境にやさしい」農業と位置づけ、来年度から5年後をめどに、現在の町全体の水田作付面積約2,450ヘクタールのうち30%まで拡大させたいとする。
 一方、学校給食での地元産農産物の活用など地産地消の動きを早くから進めてきた同町だが、新たな取り組みとして原料からこだわったオリジナルの酒づくりも始まった。


地元の酒づくりに実行委員会を結成

 町内にはかつて、2軒の造り酒屋があったが、10年ほど前までに2軒とも廃業したという経緯かおる。稲作を中心とした米どころでありながら、地元の酒として定着している商品がないことなどから、町商工会や町観光協会などが中心となリ小売業者や消費者なども交え、酒づくりに向けた実行委員会を組織。行政だけでない広がりを持った実行委員会形式でスタートした。
 昨年5月に町内の水田約60アールで山形県産の週末品種「出羽燦々(さんさん)」を作付け。出羽燦々は酒造好適米品種の育成を目標に1985年、現在も町内にある県立農業試験場庄内支場で誕生したという町ゆかりの品種だが、町内での作付けは今回が初めて。水田を提供した生産者の草島孝男さんは田植え時、「良い酒米をつくり、自慢できるおいしい酒を造ってほしい」と期待を込めた。
 昨年は長雨による日照不足で全国的に不作となったが、10月の収穫では10アール当たりの収量は約480キロとまずまずの出来。等級審査でも全量一等米と評価され、原料づくりの第一段階は無事にクリアした。
 今後は、町内に酒造会社がないため、隣接町の酒造会社に委託することになるが、精米歩合45%程度の純米大吟醸酒に仕込み、近々新酒が完成する見込み。実行委員会では、限定2千本のみの販売など、「藤島でしか買えない」という付加価値を付けた販売戦略を描く。
 こうした一連の産業の活性化だけでなく、エコタウンプロジェクトを地域の子どもたちに認識してもらおうという試みも始まった。町が主要プロジェクトの一つに取り入れた天敵による害虫を駆除する「生態系防除」の仕組みを学んでもらおうと昨夏、町内の公民館施設にアブラムシとテントウムシを入れた観察コーナーを設置した。総合的な学習の一環として学校側でも活用、次代を担う子どもたちに環境問題や地域社会への関心を深めてもらう機会を作った。


田舎にある産業を見直し息の長い取り組みを

 このほかにも、かつて栽培されながら姿を消した在来野菜を発掘し、栽培方法の確立や新しい料理を考案しようという取り組みや、地元食材にこだわったアイスなどの加工品開発など、地域農業の再生に向けたさまざまな“種”がまかれた。これらが芽を出し、やがて花を咲かせるまで息の長い取り組みが望まれる。
 11月に町内で開かれた「エコタウン・フォーラム」では、循環型社会を構築した環境先進国・デンマーク在住のケンジ・ステファン・スズキ氏が風力発電やバイオマス産業を手掛けるデンマークの事例を説明しながら、「田舎にある産業を見直すことが大切」と説いた。藤島町が進めようとする循環型社会のまちづく
りが、いずれは全国の農村地域の再生につながる可能性は大きい。