「まち むら」83号掲載
ル ポ

花と緑に囲まれた芸術の村づくり―まずは実践の“オジイパワー”―
沖縄県・北中城村 花咲爺会
 風に吹かれて、沿道を飾る可憐なランの花々が揺れている。花の間からは、沖縄の守り神であるシーサーの置き物がひょっこり顔を出し、訪れる人を歓迎するかのようだ―。沖縄県の中部に位置する北中城村の大城区(安里修区長)は、世界遺産に登録された中城城跡と国指定重要文化財の「中村家」が位置する、歴史ただよう閑静な集落だ。ランの花と緑にあふれ、通りのあちこちにユニークな顔をしたシーサーが鎮座。赤瓦が配された家並みは、“癒しの風景”として、訪れる人々の心に残る。この風景を創り上げ、守ってきたのが「花咲爺会」(外間裕会長)を中心とする大城区民のボランティアによる活動だ。


花咲爺会の発足

 県内の観光スポットでもある大城区の周辺には、「観光地修景緑化事業」として、1997年10月、県と村の補助を得て熱帯産のラン8千本植えられた。植え付けと管理はすべて区民のボランティア。3か月を要して植えられたランは、春から夏にかけて鮮やかな色で集落を彩り、訪れる人々の目を引いた。普段は家
の中でランを栽培している愛好家にとっても、道路沿いに生き生きと咲いているランの光景は印象的に写っただろう。
 地域づくりヘの気概が高まる中、ランの管理や古城周辺にふさわしい環境づくりを目的に、1999年10月、「大城花咲爺会」が発足。「枯れ木に花を咲かせよう」という昔話の現代版だ。発足のきっかけは、大城区の壮年ゴルフコンペで集まった中高年男性のまちまちづくり談義。「中村家だけではスケールが小さい。集落全体を中村家の庭にしよう」と故郷と花をこよなく愛する男性陣が結集した。
 会員資格は55歳以上の男性で、03年8月現在の会員数は約30人。平均年齢は70歳ほどだが、“予備軍”として40代の男性区民も自主的に活動に参加している。


住民率先の活動

 活動は、毎月第2第3日曜日。会費はなく、村や大城自治会などからの補助金18万円が毎月の固定した収入だ。それ以外にも、活動を支援する人々からの寄付金がある。
 活動の内容は、まず、植え付けたランの手入れ。花壇に生えた雑草や枯れた葉の除去、肥料の散布などを行なう。空き地には新たに花壇を作り、花の苗を植え付けた。当初は、村から提供してもらっていた苗も、会員が工夫しながら自らの手で造るまでになった。このほか、区内にあるミニ公園の管理も自主的に行なっ
ている。
 会のモットーの一つである「強制しないこと」も、活動の継続の秘訣かもしれない。自治体が整備、地元ボランティアが管理するという体制が地域住民の率先した活動で根付いている。
 雨のない暑い夏の日には区内中に咲くランの水やりもひと仕事だ。近くの湧き水から、会で購入したポンプを使って水をタンクにくみ上げ、車に積んで区内中を回るのが日課の砂川清文さんは、「水をかけないと、もう心配」と率先して水やりに出かける。タンクを積んだ車を運転するのも、区民のボランティアだ。


まちづくり構想

 中城城跡が世界文化遺産推薦を受けた99年には大城区と村が「古城周辺地区景観協定」を結び、赤瓦屋根の奨励や、建物の高さ制限などで景観を保存してきた。その後、「花咲爺会」の活動で機運が高まり、区は01年5月の区民総会で、地域自ら「大城の地域づくリ構想」を策定した。
「花と緑に囲まれた芸術の村づくリ」をテーマに掲げ、@区内に設置する芸術作品の人手A景観づくりのモデルとしての公民館建設B公共空き地整備C中村家を中心にした散策マップの作成D特産品づくりの運動の推進D樹木や草花の名札付け―などを推進する方針を決めた。
 03年4月には、待ち望んでいた大城区公民館が落成。琉球の赤瓦の屋根に、県内の陶芸家が作成したシーサーが配置され、古城周辺の面影にマッチした活動拠点として、新たなスタートを切った。


大城区喫茶店

 区民はもちろん、花咲爺会の面々のたまリ場が青空喫茶の「大城喫茶店」。大きなガジュマルの木の下に、石のテーブルと木で造られたイスが無造作に置かれた手作りの喫茶店は、高台に位置し、遠く、中城城跡の城壁も臨める。近くには、昔の地を再現したアガリヌカー公園もでき、地域の交流の場にもなっている。
 午前の花の手入れに汗を流した男性たちは、午後からは、この喫茶店でビールを飲みながらゆんたく(おしゃべり)に回し、まちづくりの夢を語る。頼むともなく、近くの往民がてんぷらの差し入れを特ってくると、日暮れを迎えても人の輪は途絶えない。
「こうして集まって話をすることで次の活動のアイデアが出てくる」と話すのは同会の外間会長。月を眺めながら思いついたアガリヌカー公園での「ムーンライトコンサート」は、同区の恒例行事になりつつある。


生きがいづくりへ

 外間会長はまた、活動が「花を中心にした生きがいづくり、健康づくりにもつながっている」と話す。会員には定年退職をした男性も多く、花咲爺会の活動は、女性と違い、家に引っ込みがちな男性が表に出るきっかけにもなっている。
 会員の一人の新垣秀昭さんも元は公務員。「男は評価されていないと、生きがいを感じないところがあるのかも。みなさんに花がきれいだとほめてもらって評価が高まることで、維持していこうと、いよいよやめられない」と茶目っ気たっぷりの笑顔を見せる。
 03年7月には、東京の高齢者グループを招いて、花咲爺会主催の「健康な地域づくりフォーラム」も開催した。東京の高齢者にランの植え付けやシーサー作りを楽しんでもらいながら、夕方からは、ムーンライトコンサートに招待し、交流を深めた。


尽きない夢

 02年には、花咲爺会が「沖縄ふるさと百選」に認定された。花の植栽から始まった取り組みは、次々と高まっている。
 今年11月には、大城区全体を美術館に見立てて、区民の作品を展示する「スウジグヮー(小路)美術館」を開催する。次の大きなイベントとしては、現在、「石の彫刻コンクール」の実施を計画中だ。中城城跡と同じ琉球石灰岩を素材にして作った造形作品を道路沿いに飾るこの計画も、花咲爺会が発案した。
 同会の有志で「ギャラリー喫茶オジイ」を開きたい、との粋な提案もあり、まさに沖縄の“オバアパワー”ならぬ“オジイパワー”を見る気がする。
「取り組みを通して、区民の間に少しずつ自治への自信ができてきた」と話す外間会長は、「地域づくりはまずは実践。やりながら考えるのが秘訣だ」と力強く語った。