「まち むら」82号掲載
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住民の“ビジョン”着実に実現へ
山形県・山形市 滝山地区町内会連合会
 山形市の南東にそびえる「瀧山(りゅうざん)」(標高1,363メートル)の西側ふもとに世帯数約9,300、約24,000人が生活する「滝山地区」が広がる。樹氷で知られる蔵王の西方に位置することから、瀧山一帯は「西蔵王」とも称され、平安期に天台宗の高僧、慈覚大師円仁による開山説がある。周囲にはオオヤマザクラの巨木が群生し、開花どきは残雪の山並みに映えて美しい。鎌倉初期に歌人の西行も訪れ、その咲き訪るサクラを詠んだと伝える歌が「山家集」に記される。また古代は、滝山方面は「山方郷(やまがたごう)」と呼ばれ、地図上で人の顔にも似た「山形県」の広域名に反映した土地柄でもある。


住民主導のまちづくりめざして委員会発足

 こうした歴史と文化のある自然に恵まれた滝山地区は、時代の変遷の中で一大住宅地へと変ばうを遂げ、環境保全整備が叫ばれてきた。1998年当時、滝山地区町内会連合会会長の高内達雄さんを委員長に、行政に頼らず、住民主導のまちづくりを主眼とした「滝山ビジョン推進委員会」が発足した。有識者を招いて
の公開講座。地元小中学生から、ふるさとの未来像についての作文募集。青年たちの意見発表。さらに地区住民のアンケートなどを基に、10部門の構想を掲げた。その第1弾として「大山桜を育てる会」「ごみの減量を考える会」「歴史の散歩道案内」「子供たちの探索・体験を考える会」「瀧山川をきれいにする会」「ホタルを育てる会」の6部門を実行に移し、約240人のボランティアが各部門に分かれて活動している。


桜花咲き乱れるふるさとの再現を

「大山桜を育てる会」は、すでに滝山ビジョン推進委員会が発足する4年前に、各町内会長27人で運営されていた。当初、植木屋さんの指導の下、西行ゆかりのオオヤマザクラから実生を採取。西蔵王の畑を借りて植栽した。手塩にかけて育てた苗木700本を得ることができた。育樹に自信をつけた会員たちは、ビジョンの1部門を担い、現在80人のボランティアを数える。毎年11月、公共広場や施設を対象に順を追って植樹祭を開催。家族連れで参加する子どもたちも植栽の手ほどきを受け、やがて大人になり、サクラも大木を成して見事な花を咲かせるであろう、小さな苗木に期待を込めながら。育てる心を“養っている”初期に植えたサクラは高さ約5メートルにも成長した。春と秋に消毒散布や肥料を施し、下刈りの手入れ作業に励む。また、地区内に「桜田」という町名もある。かつては“桜”に覆われた土地とされ、文字通りの地名誕生説があり、会員たちは桜花咲き乱れるふるさと再現に胸を膨らませている。


地区内の史跡のガイドブックを作成し、全戸配布

 平安から江戸期かけ、瀧山信仰に由来する「石鳥居」(国指定重要文化財)のほか、数多くの史跡が点在。「歴史の散歩案内」は、これらの文化遺産の保護運動を、広く市民に知らせることを目的に、郷土史に詳しい28人が担当する。冬期間は地区公民館に集い、地域史の意見を交わして学習会を重ね、案内に備える。春から秋にかけ、いにしえのロマンを求めて各地から探訪するグループが相次ぐ。幾つかの現に分かれ、のどかな景観の中を引率しながら史跡を説明する声も弾む。さらに「子供たちの探索・体験を考える会」と連携を図り、小中学生を対象に、情操教育にも力を入れている。地区内の史跡を網羅したガイドブックやビデオ映画も完成した。全戸に配布され、地域住民も歴史のある尊い土地柄の認識を高めている。


郷土史の出版を

 また来年、滝山地区(旧滝山村)が山形市と合併して50年の節目の年。これを記念して連合会は「瀧山(たきやま)の郷土史」と題した本の出版を進めている。主に「歴史の散歩案内」のメンバーが執筆。内容は神仏信仰など8章で構成され、「滝山の仏教」では古代から培った名刹、万称寺、石行寺、平泉寺を中心に、伝説や開山当時の歴史を探る。「中世の滝山」は、瀧山(りゅうざん)の山岳信仰と西行の説話などを浮き彫りに紹介。「現代の滝山」では、太平洋戦争と西蔵王の開拓、新しい街の誕生となった区画整理事業、道路網の整備などを記し、古文書や絵図、写真、年表などを盛り込み、小学生からお年寄りまで分かりやすくまとめる努力をしている。散歩案内代表者で、出版の編集委員長を務める沼沢久さんは「先人が築いた豊かな遺産を確認することで、新たな文化を創造する手掛かりになる。歴史のある滝山を誇りに郷土史を完
成させ、次世代への貴重なメッセージとして贈りたい」と語る。


廃食油のステーション回収も実施

 都市化が進むに伴い、美化運動が高まる中で結成された「ごみ減量を考える会」は、大所帯の地区から出るゴミ処理の問題は大きな課題。とくに廃食油の場合、下水道に垂れ流しされては臭気に悩まされ、生ゴミと一緒では、ゴミ置き場はカラスの餌場になる。解決法が見い出せないまま頭を痛めていたある日、朗報が飛び込んだ。山形市の推薦によって、農林省の外郭団体、財団法人食品産業センター・全国油脂事業協同組合連合会が主催する「廃食油回収処理」のモデル地区に選ばれた。その処理法とは、各家庭で廃食油を空パックやペットボトルに保存。毎月第3土曜日の午前6時から9時までの間に指定場所に出す。それを業者が回収し、家畜の飼料に加工、販売する仕組み。2001年から開始した28人のボランティアは、23町内の全戸に徹底した指導を行ない、順調な成果を上げている。代表の奥野弘さんは「地区内59か所に回収場所を設け、詳細に説明文を記した看板を掲げた。当初はあまり協力は得られなかったが、執拗に回覧やチラシを配り説得し続けた結果、回収率も高くなった。環境問題の解決は、発案側の真剣な姿勢と、地区住民への呼びかけが肝心」と言明。さらに今年7月から月1回、各町内を巡回し、新聞、雑誌、ビン、衣類など、8品目の回収作戦を展開する。地区小学校の回収と競合しないよう日程が組まれ、もし学校側が、例年より回収率が低かった場合は、収益金の一部を還元することも考慮している。
 目前にそびえる瀧山に源流を発する「瀧山川」流域を清掃する会は、横山健さんを代表に100人体制。毎年2回、地区民に参加を呼びかけ、上流から下流まで一斉清掃に当たる。こうして美しい河川が保たれた瀧山川や近くの恥川を対象に、35人による「ホタルを育てる会」も活躍。餌になるカワニナを繁殖させた。そしてホタルは年々増え続け、夏の夜の風物詩として楽しませている。推進委員会会長の高内さんは「環境保全は、各部門ともチームの結束を図り、魅力あるアイデアを考えながら地域住民の賛同を得ることが勝負。気の長い大変な作業だが、丹念に活動を積み重ねてこそ良い結果が生まれる」と語る。
 毎年10月、滝山まつりを開催。各部門の成果を披露する展示会をはじめ、地区民が持ち寄った衣類や農作物の即売会も開かれる。そして20年の伝統を訪る勇壮な「瀧山太鼓」が奏でられ、融和を図りながら滝山ビジョンの輪がさらに広がりを見せている。