「まち むら」81号掲載
ル ポ

ドングリの森と緑の通船川づくりを支える
新潟県・新潟市 東山の下校区自治連合会
ドングリの森にトキを呼びたい

「ぼくらが育てるドングリの森に、いつか、野生に返ったトキを呼びたい!」こんな子どもの願いを込めた森づくりが今、始まっている。
 この森づくりは、21世紀百年かけて育て、22世紀に緑の遺産を残す壮大なドラマ、「緑の百年物語」の始まりである。
 また、ドングリの森の脇を流れる通船川に子どもや地域の人がともに参加し、これまで夢と思われた水に親しむことができる鴎島地区の「緑の川づくり」も動き出した。
 ここは、工場の煙突が林立する新潟市山の下工業地帯に隣接する東山の下地区。この地区は、海抜ゼロメートル地帯。東山の下小学校は、児童数942名、県内一の大規模校である。当校の沿革史をひもとくと、悪戦苦闘の50余年を刻んで来たことがわかる。これまで火災による校舎の焼失、地盤沈下による浸水。新潟地震による校舎の倒壊や溢水被害。工場の煤煙、粉塵、悪臭等の公害。大気汚染で校舎は黒く汚れ「カラス学校」の異名で呼ばれたこともあった。
 そして、学校脇には、一級河川でありながら、子どもが近寄ることのできない汚れの激しい通船川がよどんでいた。
 昭和40年代、時の佐藤嘉市校長は「公害から子どもを守ることは地域の願い、できるだけ自衛措置を講じよう」と訴え、地域や保護者は労力奉仕を惜しまず、この緑の育ちにくい地に植樹を続け、校地周囲に一大植樹帯を造成し続けた。
 こうして、緑化活動は同校の教育活動の中核をなす活動となった。この精神が今日、学校にも地域にも引き継がれ、ドングリの森へと発展した。


自ら汗を流して活動を支え、機関との橋渡しを果す校区自治連

「ドングリの森づくり」や鴎島地区「緑の川づくり参加」に汗を流して支え、県、市等諸機関との橋渡し役を果し、さらなる事業の充実に努めたのが、「東山の下小学校区自治連合会」および「通船川草刈り隊」などの団体である。とりわけ“行動”の自治連合会長三谷清さんの存在は大きい。
 ドングリの森づくりのきっかけは、平成11年創立50周年記念の発表会で、子どもたちの夢「ドングリの森を広げ、野生に戻った佐渡のトキを呼ぼう」という子どもの発表から始まる。平成13年、東山の下小学校と三川村谷花小学校の「ドングリ交流会」が行なわれ、三川村中ノ沢森林公園で、両校児童が森や木と遊び、ミズナラ、コナラの実を拾い、持ち帰って苗に育てた。東山の下校区自治連合会会長の三谷さんたちは、この子どもたちの夢を実現させたいと動き出した。
 ちょうどその年から、新潟県は、木を植える県民運動「緑の百年物語」を始めた。この情報をいち早く捉え、緑の百年物語新潟支部担当者と連絡をとり、何度も足を運び、運動をともに推進するよう尽力したのが、三谷さんである。これにより、ドングリの森づくりが、単に一校の活動でなく、県全体に裾野をもつ運動の一翼を担うものとなった。こうして、両校は交互の交流を重ね、県や専門家の指導を得ることで活動も充実していった。
 ドングリの森は、単にドングリの実がなる樹木だけでない。10種以上の果実林、ビオトープ、菜園と多彩である。これは地域の力なくして維持できない。


市民会議の設置を働きかける校区自治連

 一方、汚れの激しい通船川の再生運動は平成3年頃から市民活動として活発に行なわれ、流城以外の人々も参加するテーマコミュニティとして盛り上がり、市民が楽しめるぶ“市民親水公園”としての夢が膨らんでいた。
 このなかの鴎島地区「緑の川づくり」は、平成10年、通船川の河幅を一定にし、流れをよくする県の事業から始まり新しく生まれた土地をどのように有効利用するか、広く市民の声を聞く「市民会議」が、自治運の働きかけで設置された。
 三谷さんは、日頃「自治連の仕事に守備範囲を決めるな」と呼びかけてきた。したがってこの市民会議設置が決まると、自治連構成31町内はこぞって立ちあがった。


緑の川づくりに子どもも参画

 平成14年3月、市民会議などの主催で緑の川づくりワークショップが聞かれた。「整備イメージ」の議論が進められる中で、“学校の子どもの意見も取り入れるべきだ”という意見が多く出された。
 東山の下小学校でも、6年生の総合学習の一環として、通前川河川敷のデサイン計画に取り組みたいという要望も出された。
 9月、待望の子どもたちの声を取り入れるワークショップが開かれた。6年生が参加し、通船川の歴史を学び現地で河川敷を観察し実測を行なった。
 そして10月「私達が考える未来の通船川」の発表会がもたれた。子どもの通船川への想いを込めた38のプランが立体模型図を示しながら発表された。こうして、地元の人に支えられた子どものまちづくり参画が始まった。


「住んでよかった」と言われる月見町のまちづくり

 校区自治連合会長として広い視野から地域課題に果敢に取り組んでいる三谷さんの地元町内会である月見町の活動にふれたい。
 平成3年、人より少し早く退職し好きな8ミリ映画や趣味を楽しもうと思っていた矢先、待っていたのは月見町第1町内会長をやって欲しいという町内からの要請であった。
 やる以上は、新潟のモデルとなるような自治会にしようと決心した。
 ます1年毎に変わる役員の任期を改め、事業の継続と先の見通しが立てられるようにした。住んでよかったと言われる町をめざして特色ある活動を次々と実施した。

・高齢者対象の健康づくりとお楽しみ会も含めた「ふれあい給食会」
・独居高齢者訪問の「友愛訪問」
・町内みんなで楽しむ餅つき大会
・14種、123点も出品のある文化祭、秋の踊りの会など多彩である。各事業を通して、“世代間交流”ができる劣っ腐心しているという。
 また、「会報つきみ」を隔用に発行している。町内には隠れた人材もいる。周辺の動きも分かって欲しい。年々進む少子高齢化の実情などの情報を周知し、共有することこそ町内運営の基本と考えているからだ。
 この基本精神が、どんぐりの森づくりや緑の川づくりにも生かされている。


緑の川づくりに企業も巻き込む

 これまで通船川再生運動は、地域や市民団体が動き、行政(県・市)が動いた。今後は、川の流域に土地を所有する企業の協力が欠かせない。企業もまき込みたいと、三谷さんらは考えている。
 また、将来の緑づくりの担い手として、「小さい時から環境に関心をもつ子ども」を育てることこそが長年公害で苦しんできたこの地城に求められている。現在、校区周辺地区や八小中学校、草刈り隊などが参加して、総合学習の一環として「子ども環境会議」(仮称)を結成し活動を始めている。
 地域の願いである「緑、きれいで親しめる水、きれいな大気』を、校区自治連が互いに手を携え、しっかり支えようとしている。