「まち むら」80号掲載
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公園整備、特産品開発、温泉施設の建設と幅広い活動を展開
新潟県・栃尾市 とちお 夢しお21
 栃尾市は、新潟県のほぼ中央に位置し人口約2万5000。四方が山に囲まれた「水と緑と織物」の地方都市。基幹道路の整備と地場産業の振興など「自然と人が共生するうるおいのあるまちづくり」が進められている。
 村おこしグループ「とちお 夢しお21」のある上塩地区は、市の北東部塩谷川沿いにある天平、沖布、大野原の3集落で構成。65歳以上人口が全体の約3割を占めるなど年々高齢化が進展。「住む人が楽しく、ここを訪れる人たちも楽しい」を合い言葉に「住み良いふるさとづくり」を目指す活動を続けている。


村の活性化に立ち上がった3人の旗手

 村おこしグループの発足は1995年。当時、市役所や小学校を退職しUターンした葛綿慎市さん、葛綿弘義さん、葛綿一夫さんの3人が「過疎と高齢化が進み、活気が失われた農村を活性化する方策はないか。集落(地区)のために何かできないか」と話し合ったのが始まりだ。集落の区長宅で毎日のように集まって話し合った。3人は昭和30年代に一度就農した経験のある仲間だった。とくに、県内の各地を長い間転勤し、実家を留守にした元小学校長の弘義さんは「地区の人たちに恩返しをしたい」という気持ちが強かった。「みんなが思っていることを話し合おう。上塩の集落はどうあればよいか。みんなの知恵で将来の構想・夢を描いてみよう」と集落全戸に案内状を配布し会への参加を呼び掛けた。
 同年12月には、44世帯から52人が参加して勉強会がスタート。会の名称は「上塩地区の21世紀に向けた夢を描こう」との意味で「とちお 夢しお21」と決定。ここに念願のグループを結成した。


「夢しお21」の組織と多彩な活動への取り組み

 村おこしの会は町内会とは違って、自由な発想と行動を大切にした。代表に決まった葛綿弘義さん(68)は「組織という型にはめ込むと、一定の活動しか出来ない。会員の要望事項は町内会から市へ要請することもある」と集落の区長にも呼び掛け人に加わってもらった。
 組織としては総会と運営委員会を基本に、六つの部会を設置。会員はいずれか一つの部会に所属して活動に参加する。
 地名調査など歴史と文化を掘り起こす「文化部」、野菜の栽培加工品の製造販売などこれからの農業を考える「生産活動部」、公園の整備など地域資源の活用を考える「開発部」、花の里づくりなど健康な暮らしと環境を探る「生活環境部」、そば祭りなど各種のふれあいと交流を進める「イベント部」、地域奉仕などボランティア活動を推進する「日赤奉仕部」とそれぞれ多彩な活動計画を盛り込んだ。
 はじめに、地域の声を広く開くための「上塩診断」というアンケートを実施。小・中・高校生をも含め、世帯数の2倍以上の人から回答が寄せられた。そこには新しい会への期待と激励、郷土を愛する人々の熱い気持ちが込められていた。
 各部会では早速「将来の夢」に繋ながる計画の立案に取り掛かかり、翌年(1996)年8月から活動を開始した。


地区挙げて「上塩薬師公園」を整備

 まず、開発部は「夢しお探検隊」と称し地区内めぐりと峠の道の散策を開始。訪れた薬師の丘への山道が荒れ、頂上にある「薬師様」を祀った御堂が雨漏りしていることを発見。会の開発部が集落に整備案を示し、地域を挙げての「公園作り委員会」を結成。ボランティアで桜やモミジの苗木150本を植栽し、3年掛かりで「上塩薬師公園」を完成。「楽しい村の行事が出来る公園」が欲しいという願いが実現し、半世紀振りに薬師公園祭りが復活した。さらに、この公園を拠点に「ハイキングコースを整備しよう」との計画が進んでいる。


地域の特産加工品「金銀ちまき」と「笹だんご」作りをスタート

 生産活動部は、女性を中心に粟餅、草餅、笹だんご、三角ちまきなど昔農家の家庭で作っていた農産加工品を新しい特産品として販売しようと製造に着手。1998年には特産品開発の拠点として、食品加工施設「手づくり工房・夢しお21」(代表・葛綿キクイさん)を建設。現在、同工房では高齢女性たちが新製品の「金銀ちまき」と「笹だんご」づくりに励んでいる。銀ちまきは餅米を使った白色のもので、金ちまきは笹で包んだちまきを独特の製法で鮮やかな黄金色に仕上げた新製品。目出度い金と銀の二色ちまきを販売。お年寄りや子どものお祝いの品として好評。今年から、特産品として全国に向け販売を開始した。


「上塩炭工房」で資源を活用した竹炭と「竹工房」で伝統の技(わざ)を復活

 里山の山林に自生する孟宗(もうそう)竹を活用しようと6人の有志が「上塩炭工房」(組合長・葛綿正幸さん)を結成。40年前の炭焼き窯を再現して、「木炭」「竹炭」「竹酢液」の製造販売を開始した。最近は、新潟市内の料理店で使用済みの竹割り箸を引き取り「割箸炭」を作って資源のリサイクルに着手。炭が消臭に効果があることからお洒落なインテリア製品として販売、資源の再利用として注目されている。
 また、かつて、竹細工の里と呼ばれた同地区は竹細工品作りが盛んだった。竹工房「松兵衛」(代表・葛綿慎さん)は、竹製品の技術を継承、復活させ篭物や壁飾り、生け花用の竹筒など製品化して販売。最近はプラスチック製や外国製品が氾濫する中で、現代風にデザインした本物の竹細工品は静かなブームを呼んでいる。
 発足当初52人だった会員は、現在76人に拡大。会員が会の趣旨に合った幅広い活動として共同作業の他に個人起業を奨励。工房などの他に地域の消費ニーズのある花屋、油揚げ屋が育っている。発足当初のいくつかの目標を達成する中で、環境美化やボランテア活動が認められて、2000年度ふるさとづくり振興奨励賞、県異業種交流の地域活性化大賞を受賞した。


盛況な「地そばまつり」が新たな夢「湯のある“寄ったかり湯”」の建設に向う

 地元で穫れたソバを使った「上塩地そばまつり」が秋の行事として年々盛況。今年は75歳以上のお年寄りを無料招待した「寿そばパーティ」を開催、村の語り部から昔話を聞いた集いが好評。活動に弾みがついた同グループの次の大きな夢は、弘法大師が開いたという塩水の井戸「塩の井」を生かした温泉のある施設の建設だ。
 塩の宮「巣守神社」の境内脇に塩水が湧き出る井戸があり、これを活用してお年寄りが気楽に立ち寄れる施設「寄ったかり場(お茶の間)」が出来ないかと構想を練っている。
 会員のアンケートでもそんな夢を4人に1人が描いていることが判明。元気な高齢者がいつでも気軽に集まってお話しが出来る温泉施設の実現に向けた夢が大きく膨らむ。
 同会代表の葛綿弘義さんは「わたしたちは都会並みの開発を望んでいる訳ではない。地域の良さを生かしたグリーン・ツーリズムの考えで村づくり活動をしている」と話す。収穫作業が終了して冬を迎える静かな山村に今日も賑やかな会員たちの元気な声が響く。