「まち むら」79号掲載
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公園の自主管理・運営を通して広がる住民の輪
埼玉県さいたま市 太田窪新生自治会
 さいたま市の南に位置し、近くに産業道路が走り一戸建て住宅が密集する「太田窪新生自治会」に、「ふれあい公園」が開園して今月で丸1年になる。昨年5月、3市合併で誕生したさいたま市にとって、第1号の自治会管理・運営の公園だ。
 敷地は約150平方メートル。公園入り口には、地元の彫刻家島田忠恵さんが制作した紙飛行機を飛ばす少年像がある。花壇にはいつも季節の花々が咲き、住民手作りの木製ベンチやテーブルではお年寄りたちがおしゃべりを楽しんでいる。ふじ棚の下には子どもらの成長が分かるようにと、かわいい絵が描かれた身長測定板もある。決して広くはない空間には地元の人たちのそれぞれの思いが託されている。
 自治会会長の小出孝次さん(68)は「今では公園をまち合い場所にしたり、子どもたちが遊んだりお年寄りが散歩する姿をよく見掛けます。1年たっても草が伸びたりゴミが散らかっていないのは、皆さんが自分たちの公園という意識があるからでしょう」と目を細める。


空き地を地主や市と交渉し公園に

 公園は、土地所有者の神奈川県相模原市に住む中野健夫さん(64)に、自治会が手紙を出したのがきっかけ。現在、自治会には240世帯、約560人が住んでいる。都内に通勤するサラリーマン家庭が多い一方、子どもが独立し高齢者夫婦世帯も増えている。自治会では「20年以上空き地の土地を生かし、高齢者や子どもらが交流できる公園を作りたい」と、中野さんに要望した。16年前、土地を相続した中野さんだが、自宅から遠く離れ、雑草が生えたまま放置されていた土地が気になっていただけに「有効に使っていただけるなら」との返事があり、とんとん拍子に話がまとまった。
 自治会では昨年5月に会員が集まり「公園をつくる会」を発足。相川宗一市長あてに公園建設の補助などを求める要望書を提出した。中野さんとの5年以上の無償契約などを条件に@公園整備に300万円の補助金A中野さんの固定資産税の免除B管理費として自治会に年間1万8000円を支給する―ことが決まった。その後、市からさいたま市初の自治会管理による公園になったとの連絡を受けた。
 公園建設の環境が整い、「公園ニュース」を発行。住民の意見を募ったところ「家にこもりがちなお年寄りが外に出て談笑できる場がほしい」との声が寄せられ、公園の青写真を描いていった。さらに自治会では「自分たちの公園を作ろう」と、広く住民に呼び掛け、6月上旬、朝から20年来伸びた草むしりとゴミ拾いを行った。この時は50人以上が参加。20〜40代男性の姿も見られた。作業後は「人の力ってすごい」「これこそ手作りの公園」だという声があちこちで聞かれた。公園の名前も5候補の中から住民に選んでもらい、「ふれあい公園」と決まった。


公園清掃は当番制で

 公園のフェンスは当初、子どもたちにけがの危険がないようにと、市で180センチ程度の高さを考えていたようだ。しかし自治会では「地域住民の目が届くように」と、ぎりぎりの高さ120センチに、網の目も大きくしてもらった。工事は8月下旬に始まり、9月上旬には完成。9日の開園式には中野さんも招かれ約350人が出席、盛大に行われた。
 開園後「公園を作る会」を解散、引き続き「公園管理委員会」が発足した。
 現在、公園清掃は各班(計13班)の持ち回りで、1週間交替で行っている。お盆、年末年始、ゴールデンウィークの特別期間については新たに各班からボランティアを募り、22人が登録している。
 当初、自治会の話し合いでは公園を「住民ボランティアで管理したらどうか」との意見も出た。「せっかく皆で協力して草むしりをし、開園式もできた。だから管理も全員で」との意見でまとまり、班ごとの当番制になった。毎朝、ときには夕方になると、丁寧にほうきで掃いたり花に水やりをする母親と小さな子どもの姿も見られる。公園管理委員会代表の坂本久雄さん(71)は「皆さん、きちんとルールを守ってきれいに清掃してくれていますよ」と笑顔見せる。
 うれしかったのは公園に面したアパートの家主が厚意で、1階の空き室を無料で提供してくれたことだ。公園用の電気、水道の問題が解決したと同時に、公園管理室兼自治会会議室としても使っている。
 9月の開園以来、園内ではさまざまなイベントを行ってきた。芋煮会、菊花展、12月にはクリスマスに合わせ園内をイルミネーションできれいに飾った。今年に入り新春餅つき大会、この夏には子ども会主催の「スイカ割り&ビンゴ大会」、3日間にわたるラジオ体操と、季節ごとのイベントには、毎回約40人から多い時で160人が参加。いつも予想以上の人数に自治会関係者も驚いているほどだ。


お年寄りを地域全体で支えたい

 自治会では、今後はとくに子どもとお年寄りとの交流の場を持つことができないかと考えている。例えばアパートの会議室では時々、お年寄りたちが集まり将棋を楽しんでいる。そこに子どもたちを参加させてみる。また、お年寄りが子どものころに体験した“遊び”を伝授することだってできる。「意識的にお年寄り、子どもの枠をはすすことが、お互いを理解する一歩になる」とみている。
 さらに公園管理委員会事務局長の大塚政夫さん(65)は困っているお年寄りを地域全体で支えることを考えている。「公園づくりに皆がかかわってきたことで、その後の清掃もかなり順調にいっています。その気になればできるということです」。大塚さん自身、週2回、お年寄りをマイカーで病院などに送迎するボランティアにかかわっている。
「身近にできることは多々あると思う。時間的、あるいは体力的にも余裕のある人がお手伝いする。将来、そんなことができれば」と話す。
 公園づくりを通して広がってきた地域住民の輪。それがさらに大きく、深くなることを自治会関係者は期待を持ってみている。