「まち むら」78号掲載
ル ポ

自治公民館建設をきっかけに広がる地域活動
富山県富山市・布目自治会
 富山市の市街地から、北西へと車を走らせる。郊外に抜けると、コシヒカリの産地として知られる田園地帯が広がった。左右に水田を見ながらしばらく走ると、布目地区に着く。
 およそ300世帯、約1000人が暮らす。兼業農家が多い。富山市は太平洋戦争終結直前の昭和20年8月2日未明、大空襲を受け、壊滅的な打撃を受けた。布目地区一帯も今でこそ静かな田園地帯だが、戦前は隣接する打出地区にまたがって富山飛行場があり、戦時中は軍事飛行場として使われていた。
「この辺も空襲の標的になるんじゃないか、と心配で仕方がありませんでした」。布目自治会長の岡崎愈(すすむ)さん(69)は振り返る。飛行場は公共施設や水田に変わり、かつての姿はない。
 岡崎さんの案内で住宅地を歩くと、一角に大きな青い瓦屋根が見えてきた。丸みを帯びた姿が、優しさを感じさせる。布目自治会が建設した自治公民館だ。愛称の「ブルードーム」は、地区住民から公募して決められた。
 建設の話が持ち上がったのは、既存の公民館の老朽化が発端だった。元は農協の施設だった木造平屋の建物で、室内は30坪ほど。岡崎さんは「どうにか集会に使える程度でした」と振り返る。
 新築するには敷地が狭く、新たに土地を購入するのは難しい。平成8年、自治会費約200万円をかけて修繕した。
 同じころ、布目自治会に朗報が舞い込んだ。布目から三重県へ移転した真言宗の寺院が、元の敷地を「有効に使ってください」と、自治会に寄付した。660平方メートル。公民館が十分に新築できる広さだ。
 従来の公民館を修繕はしたものの、手狭で使い勝手がよくない点は以前と変わらない。住民に、新しい公民館の建設を求める声が高まってきた。


誰もが気軽に利用できるコミュニティの拠点に

 11年1月の定期総会で、公民館新築検討委員会の設置を決定。現自治会副会長の針山治久さん(63)が委員長となった。
「住民の総意で決めよう」。岡崎さんらは単に自治会総会で諮るだけでなく、独自のアンケート調査で住民の考えをつかむことにした。
 同年8月に実施し、226戸から回答を得た。回収率は81パーセントだった。建設時期を(1)平成13年(2)15年(3)16〜19年(4)20年以降に分けて尋ねたところ、13年が56パーセントで最も多かった。建設費をどう賄うかも質問項目に入れ、月1500円程度の積立が適当、との答えが61パーセントで過半数を占めた。
 アンケートでは、複数回答の形で新しい公民館に対するニーズも調べた。「冠婚葬祭」が141人で最も多く、「各種懇談会」が136人、「趣味の集い」が127人、「教養の集い」が97人という結果が出た。針山さんは「地域で趣味や教養を広げる場や、気軽に立ち寄れるコミュニケーションの場を求めていることが分かりました」と言う。
 12年1月の総会で、新しい公民館の位置付けを「住民がだれでも気軽に利用できるコミュニティ形成の拠点」とし、13年3月に着工することを決めた。資金調達は従来からの積立金を生かし、借入金の長期返済を組むことで、アンケートの結果通り1戸当たり月1500円の負担に抑えた。
 13年10月、新しい布目公民館が完成した。延べ床面積約300平方メートル。全館バリアフリー構造で、100平方メートルの集会場と広いキッチン、談話室に、10畳の和室2部屋を備えた。


49人が申し出た管理ボランティア

 布目自治会の取り組みは、公民館建設だけで止まらない。「みんなの力でつくったんだから、しっかり利用しないと」。完成を前に、活用方法について協議を重ねた。
 前回のアンケートで「気軽に集まれるコミュニケーションの場」を求める声が多かったことから、自治会では、公民館の談話室を開放し、だれでも好きな時に立ち寄って会話が楽しめる場とする企画が持ち上がった。
 住民約1000人のうち、70歳以上の高齢者は125人。一人暮らしのお年寄りも多い。自治会は「遠出の難しいお年寄りのためにも、ぜひ実現させたい」と話し合った。岡崎さんらは、公民館の開放構想を「ふれあい広場」と名付け、実現に向けて動き出した。
 最大の問題は、公民館を管理する人間が必要なことだった。「ニーズは多いが、協力してくれる人はどのくらいいるんだろう」。この点を確かめるため、公民館管理ボランティアの募集を兼ね、活用方法について再びアンケート調査を行うことになった。
 岡崎さんたち執行部も驚く結果が出た。49人が、記名のうえで「協力する」との回答を寄せた。岡崎さんは「当番制で、十分に公民館が管理できる人数でした。あらためて、新しい公民館への期待がいかに大きいかを実感しました」と話す。
 13年11月下旬、「ふれあい広場」がスタートした。開放日を毎週月、水、金曜日とし、ボランティアが午前、午後それぞれ2人ずつ公民館に詰め、管理することにした。「自治会活動が盛ん」と言われる富山市内でも、例のない取り組みとなった。
 利用者はお年寄りが中心で、1日平均5、6人が談話室に集まり、思い思いに話の輪を広げた。12月末まで1か月間試行し、成果と反省点を話し合った。
 実行に移したことで、「ふれあい広場」のニーズが実際にあることははっきりしたが、平日の日中だけに、利用者のない日もあった。
「せっかくの企画だから、もっと活発にしよう」。立ち消えにせず、企画を練り直すことになった。「魅力を感じてもらえるように、集まった人が一緒に楽しめるミニイベントを企画したらいい」「自治会の催し物をビデオに収録し、上映してはどうか」。アイデアは尽きない。自治会はさらに内容を詰め、比較的外出しやすい夏場に向けて新しい「ふれあい広場」を実施することにしている。


住民の潜在需要を掘り起こした公民館建設

 公民館の建設計画はスピーディーにまとまり、運営で協力を求めれば住民がこぞって名乗りを上げる。布目自治会の団結力は、どこから生まれてくるのか。
「それはやはり、日常的なコミュニケーションの結果でしょうね」。岡崎さん、針山さんは声をそろえる。布目自治会は毎年5月に自治会独自の運動会を開くなど、住民手づくりの行事を盛んに行っている。今年の運動会には約270人が参加し、ともに汗を流した。
 新しい公民館の活用は、これだけにとどまらない。現在は住民の希望をもとに水墨画、将棋、気功、華道、新日本舞踊のクラブ活動が行われ、それぞれ10人から20人が参加している。ビデオ編集やパソコンを学びたい、といった希望も多く、クラブ活動に加える予定だ。
 今年4月の春祭りでは、獅子舞の練習に利用され、地域の伝統継承にも生かされている。このほか、広いキッチンを使い、お年寄りヘの食事サービス会を企画する団体も出てきた。
 公民館建設が地域活動の「潜在需要」を掘り起こし、より活発になった。活動を通じ、住民間の結びつきも強まっている。
 住民の力でつくられた「ブルードーム」。住民の力で、活用範囲はさらに広がりそうだ。