「まち むら」76号掲載
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ふるさとの自然に親しみたくましい吉田っ子を育てる
広島県吉田町 「子どもふるさと探検隊」
 広島県吉田町は、戦国武将毛利元就の生誕地として全国的に知られている。広島県のほぼ真ん中に位置し人口約1万2000の静かな町だ。町内の美しい山や川に親しみ、子どもたちがたくましく生きる力を身につけることを目的とした「子どもふるさと探検隊」を紹介する。
 子どもふるさと探検隊は1995年、グループ活動の中から協調性やルールを守ること、リーダーシップを養うことを学ぶために発足。町内の四つの小学校の3年から6年生が対象で、16人でスタート。現在隊員は40人。各小学校単位で毎月1回第4土曜日を活動日にしている。小学校教諭OBやサラリーマンら6人がボランティアで、それぞれメニューを決め、指導に当たっている。年2、3回、4小学校合同のキャンプや町の中心部に近い毛利氏の本拠城があった郡山城跡の探検を行っている。この時は、町の教育委員会職員も助っ人として参加している。


「ヘビをつかまえたよ」

 新年度最初の行事は、5月の郡山探検だ。郡山(標高約390メートル)は、町内30数か所に及ぶ山城の一つ。元就が居城を構えた所。城跡に向けた山道は自然にあふれ、散策や歴史学習をする格好のポイント。この行事は、新隊員や指導者の顔合わせの場でもある。元就墓所近くの百万一心碑の前では「郡山築城の際に元就が、日を一にし、心を一にするという共同一致の精神を示している」という説明に、真剣に聞き入る。毎年参加する隊員も、久々に集うので最初はおとなしくなっているが、山を登るにつれだんだん子どもらしく活発になってくる。「ヘビをつかまえたよ」「この木の実って食べられるん?」どの子も、はつらつとした表情で、山野の楽しみ方を知らない間に身に付けていく。そんな子どもたちをサポートするのが指導者の役割。元小学校教諭の広瀬正三さん(72)は山野草に詳しい。植物を前にして、子どもたちは興味深く聞き入る。「ともに黄色いヒメジオンとハルジオンの違いは、茎を析って中を見ると分かります」。ちょっと説明することから、興味は広がっていく。一行は、建武3(1336)年に毛利時親が築城した旧本城跡まで足を延ばした。馬の背のような尾根を上下したどり着いた先から見える吉田町の風景は格別だった。山を降り、子どもたちを解散させた後、足をさすりながら指導者会が開かれた。自分たちが子どものころ、日が暮れるのも忘れて山や川で遊んだ思い出話に花を咲かせた後、1年間どのように指導していくかをビール片手に熱っぽく語り合っていた。


川の怖さも体験する

「うまくこげるようになったよ」。可愛小学校3年の岩田あゆみちゃんは、自慢げに微笑む。8月4日に、町内を南北に流れる江の川で行われたカヌー教室での1コマ。ほとんどがカヌーに乗ったことがない子どもたちで、25人が参加。河原でパドルの持ち方、こぎ方を教わった後、川岸でカヌーがひっくり返らないよう乗るのが一苫労。川の中に入るのが初めての子は、ぎこちなくパドルを操っているが30分もすると漕げるようになる。それまで怖さでこわばっていた顔に笑顔が戻る。理屈でなく体で覚えていく子たちの上達は早い。1時間もすると歓声を上げ、競争したりターンの練習を始める。何回か参加したことのある子は、2、3キロの川下りを楽しむ。急流にさしかかると体を硬直させる。ライフジャケットを着ていてもカヌーから落ちるのは皆怖い。上級生や友だちが下っていくのにつられて、ためらっている子も勇気を出して急流に突入。恐怖を乗り切った子どもたちの顔は得意満面だ。川の流れがゆるやかになるとパドルを止めて川の中の鰹やナマズの泳ぐ姿を観察したり、水鳥が目の前を横切っていくのを見て思わず歓声を上げた。土手から川面を見るのと川の中から見る景色の違いに気づくのもこのときである。カヌーに乗ったら自分だけが頼り。人からの助けを借りずゴールした子どもたちに笑顔がはじける。カヌーから降りて泳ぐ子もいる。プールでしか泳いだことのない子どもたちは大はしゃぎ。しかし、ヌルヌルの石に滑って転んだり、急流に流されることも…。川は楽しいだけでなく怖さも潜んでいることを体で覚えることはとても大切だ。最後に、川に棲む生物や虫を観察して川の汚れを訓べたり、自分かちが遊ばせてもらった川を大切にするため、河原に落ちている空き缶やゴミを拾って帰った。


ゲーム機を持って来なくなった子どもたち

 自然の中で遊ぶだけでなく、モノ作りを体験させることにも力を注いでいる。バブルが崩壊し大量生産、大量消費がもたらした自然環境の悪化を修復することは21世紀の大きな課題だ。限りある資源を有効に使い環境を守っていくため、かつてこの地にあった自給自足を「生きていくための暮らしの知恵」として、お年寄りから学び伝承していかなくてはならない。おばあちゃんに豆腐やコンニャクづくりを習い、おじいちゃんから竹トンボや炭焼きを教わっている。廃油でせっけんを作ったり、牛乳パックやダンボールでいすを作る指導をしてもらう子どもらは、お年寄りを尊敬のまなざしで見つめる。ノコや小刀、包丁がうまく使えなくても、回を重ねるうちに上達していく。いろんなモノ作りに挑戦しながら暮らしの知恵を着実に学んでいる。
 探検隊では、@元気なあいさつA全力でチャレンジBルールを守るC仲間を大切にする。以上四つのことを守ることが決められている。活動を続けていくうちに子どもたちは自然にこれらを身に付けている。とくに隊員同士の協調性が出てきたことと、リーダーシップがとれるたくましい子が育っている。最初はお母さんが心配そうに送ってきた子も、今では活動日に友だちと会えるのを楽しみにして一番に来るようになったり、手に負えなかったわんぱくな子も、いつの間にかグループのまとめ役になっている。なにより変わったことはだれもゲーム機をもってこなくなったことだ。
 子どもふるさと探検隊の隊長芦田宏冶さん(49)は「指導力よりまず愛情を持って接することの大切さを痛切に感じた」と話す。来年から学校も週休2日制になる。子どもたちとの関わりを現在よりもっと深めるため、遊びの名人やモノ作りの達人など地域のボランティア活動をしてくれる仲間の輪をもっと広げていくのが課題だ。これから、地域と連携し子どもたちをどのようにして育成していくかが問われる中で、子どもふるさと探検隊の取り組みを今後も見守っていきたい。