「まち むら」75号掲載 |
ル ポ |
山里の五集落が協力し合い住民主体の防災活動に取り組む |
新潟県新発田市 米倉小学校区コミュニティ |
今、新潟県内に安全なコミュニティづくりをめざして、民間企業を巻き込んだ五地域の連携と女性パワーを発揮した新しい風が吹き始めている。 新発田市中心部から加治川沿いに10キロメートル、右手に烏帽子に似た独特の山容をした臼ケ森山が現れる。当地を開発したと言われる豪族、米倉隼人之助の「金の臼」伝説のある山だ。この河岸段丘上南方8キロメートルにわたり、米倉、大槻、山内、中々山集落が点在し、さらに加治川左岸に行政区を異にする小戸集落がある。この五集落で結成したのが、“この風”の発生地、米倉小学校区コミュニティであり、同小学校区防災会(会長大倉政夫さん)である。(人口1900、世帯数451) 地域の将来への危機感から立ち上がる 日本経済の高度成長後、当地も県内の中山間地同様、少子・高齢化、過疎化の波が押し奇せ、住民の間で地域の将来について不安が高まった。この危機意識が根底となり、平成四年「米倉小学校区コミュニティづくり実行委員会」が発足した。 当地区は、これまでたびたび、住宅火災、山林火災、水害に悩まされてきた歴史がある。 今日、日中は、高齢者と子どもだけとなり、一旦災害が発生した場合、対応できない無防備な状態に置かれていた。その上、遠隔地であることから、緊急車両の到達に時間を要したり、加治川が近くにありながら、集落との間に「段差」があることから、消火用には容易に使えないという皮肉な問題も抱えていた。 地域の企業も加わる防災会立ち上げ コミュニティ活動を進める中で、実行委員会の実施したアンケートで、「自主防災を考える必要がある」という意見が多数あり、将来、地域の高齢化がさらに進み、1人暮し世帯の増加も予測されることから、自主防災の必要性の声が高まった。しかし、かつて、消防団OBの発意で自主防災会設立の話が途中挫折した経緯があり、話し合いの中では、「作っても、どうせだめ」という意見も出された。話し合いは難航しながらも、粘り強く続けられた。その結果、「今立ち上がって、この地域を自らの力で、自らが守らねば」という意見が大勢を占め、大倉会長のリーダーシップも相侯って五集落の住民意志で、コミュニティづくり実行委員会が主体となり、平成9年「米倉小 学校区防災会」が誕生した。 注目したいのは、一集落でなく五集落で防災会を結成したことである。 この防災会組織の特徴は、小学校区内の事業所(民間企業)も構成員となっていることである。これらの事業所は、ほとんど地元の人が勤務していることから、一員災害が発生した場合、すぐ駆け付けるということと、事業所が所有する重機や防災資材の提供にも協力してもらうことになっている。日中、災害に弱いと言われるこの地域に強力な“助っ人”を持つことになった。これも、五集落が協力して日頃のコミュニティ活動に励んだ成果の表れといえよう。 問題続出の初回防災訓練から学ぶ 組織ができ、計画案が練られ、第一回の防災訓練が大槻集落で始まった。 「役員集まれ」の号令がかけられた。集合したものの、誰が集まり、誰が集まらないのかよくわからない。自分の 集落はわかっても、他の集落の役員の名前と顔が一致しないからだ。消火訓練のバケツリレーが始まる。列に入らずバケツを持って火に向って走り出す人もいる。これではバケツリレーではなく火消し競争だ。また、バケツが一方的にいくだけで戻って来ない。戦時中バケツリレーを経験した人もいるのに…。笑うに笑えぬ光景が続出した。 バケツリレーのやり方などみんなわかっていると思って実施しだのに、誤算だった。 「これらの経験が大変いい勉強になった。五集落でやる意味もここから学んだ」と、女性リーダーの大倉真弓さんと渡辺和子さんは言う。その反省に立って、2回目以降は、開催地集落の役員が主体となって訓練を進め、他の集落参加者は、その指示に従うという体制をとり、開催集落の主体性と責任を明確にした。これは、また“顔の見え る組織づくり”への改善であった。その結果、初回の問題点は解決した。 こうして、大槻、米倉、山内、中々山と、これまで4回、毎年違う集落で訓練を実施してきた。各集落の立地条件の違いから、そのつど新しい問題が生まれ、新しい対応が求められ、思わぬ収穫を得てきた。一例をあげれば、中山間地であることから、水源から離れた火事の消火の際、消防ポンプ1台では足らず3台連結する必要が生じた。その際、各ポンプの圧力の調整という新たな問題が生じる。これは普段の訓練では全く行なわないものである。まして、低位置から高位置へ送水する場合は重力に桔抗する厄介な問題が生じ、消防団から「こんな経験は初めて」と感謝された。これは山林火災の消火に深く関係するからである。 地域防災に必須な女性の視点 当地区の防災会で女性の活躍は見逃せない。いや、女性がイニシアチブをとっているといっても過言でない。防災活動は、女性との関わりが深い。1人暮らしの高齢者は男性より女性が多い。病人や寝たきり老人と普段接しているのも女性。高齢者がどの部屋に住んでいるかを知っているのも女性。このように災害弱者と言われる人の情報をつかんでいるのは女性である。さらに防災時の炊き出しや給食に係わるのも女性だ。 防災活動で会長は、「大所高所」から全体を観る必要があるが、実際の場においては、女性の「小所低所」からの視点が重要になる。渡辺和子さんが家庭用の救急箱を、携帯に便利で収り扱い易い防災用救急箱に改良したのもそれである。これは特許ものである。また避難時、坂道をバックしながら下る車椅子の取り扱いや、1人暮らし老人宅に火災報知機設置の提言も女性の視点から生まれたものである。 ワークショップで防災マップを 地図とカメラを携え、危険の有無・安全確認の地域診断を住民参画のワークショップで行い、集落毎にグルービングでマップを作る。避難所、防水、消栓、鉄道、ブロック塀・山崩・浸水の災害履歴箇所等を簡潔に表したマップである。五集落の地図を掲載することから茶の間にぶら下げる刷子型に工夫した。 めざすこれからの夢 安全なコミュニティづくりは、その地で、住民一人ひとりが心理的、精神的に安心して暮らせることである。今、当地区の高齢者たちが自分たちの手で老人の「お茶の間づくり」を自主的に始めた。若い者の世話でなく、自分の休が動く間にお年寄りのお世話をし、交流の場を作ろうというもので、防災活動やコミュニティ活動の成果が浸透してきた証である。 これは高齢者がめざす“であい ふれあい わかちあいの夢づくり”である。 当地区には、温泉湧出の夢もあり、過去に探査した経緯がある。決して賑やかな温泉街を作るのでない。自然が豊なこの地で、地元の人も都会の人もどっぶり浸り、心癒す湯だ。「であい ふれあい わかちあいの里」の夢は、さらに膨らもうとしている。 |