「まち むら」74号掲載
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住民発意のまちづくりが始まった
宮城県名取市 リバイブ名取21
 宮城県仙台市に隣接する名取市は、古くから奥州街道の宿場町として栄えてきた人口約7万人の小都市である。仙台広域都市圈に位置し、仙台市のベッドタウンとして順調な発展を遂げてきた。
 しかし一方では、大型店の郊外出店などの影響を受け、「名取の玄関口」であるJR名取駅前はかつての賑わいが失われて、中心市街地活性化が叫ばれていた。10余年前に持ち上がった駅前土地区画整理事業の計画は住民の反対運動で頓挫し、しばらくの間、開発事業の話はタブーであった。
 そんな名取市で住民による自発的なまちづくりが始まった。住民運動組織「リバイブ名取21」。リバイブとは「再活性化する」という意味で、その名のとおり21世紀に向けてかつての賑わいを取り戻したい」という願いが込められている。その思いの実現を目指し、今、活動は大きな波にのっている。


若者の感性をまちづくりに

 駅前地区で写真スタジオを経営す高橋基さん(リバイブ名取21事務局長)は、以前からまちの活性化に取り組んでいたが、10余年前の苦い経験から、まちづくりの難しさを痛感していた。そんな析、市が設置した「まちづくり検討委員会」で国立宮城高等専門学校の本間教授と尚絹学院短期大学の阿留多伎助教授と同席
した高橋事務局長は、両校の学生さんからまちづくりの提案をもらえないだろうかと相談をもちかけた。同氏は快諾、早速「名取駅東地区まちづくりアイデア模擬コンペ」を同校の学生を対象に行うことが決まった。
「若い人たちの感性をまちづくりに生かせたらと思った」と高橋事務局長は話す。
 現地説明会を開催し学生に公募したところ、2枚から30点(15点は参考作品)の作品が提出された。応募作品はいずれも予想以上のすばらしい提案であった。このコンペの審査風景が後日、地元新聞に大きく取り上げられた。その日、高橋事務局長宅には、朝から電話のベルが鳴り続け、その反響の大きさに驚いたという。
 こうして、「まちづくりコンペ」を皮切りに「リバイブ名取21」の活動がスタートした。平成10年10月のことである。


試行錯誤のまちづくり

「まちづくりコンペ」が大きな反響を呼び、町づくりに参加する人たちの輪も大きく広がってきた。見切り発車的に開始した活動であったが、遅まきながら平成11年3月に設立総会を開催、名取市のまちづくりについて、住民レベルで考え、提言する組織として「リバイブ名取21」が正式に始動した。
 設立後、最初に取り組んだのが「まちづくりフォーラム」の開催である。やることなすこと初めてのことで、不安と期待が交錯する中での準備作業が続いた。メンバーのネットワークから、講師にはまちづくりに造詣の深い宮城大学の野田学長を招くことができた。
 当日は地元住民ら180余人の聴衆が集まった。野田学長のユーモアあふれる切れ味のよい話は、聴衆の心をとらえ、フォーラムは大成功を収めた。さらに、「まちづくりコンペ」の応募作品である「波のベンチ」が地元の大工さんの協力で製作され(まったくのボランティアで製作)、この席上でお披露目された。座り初めをいただいた野田学長はえらく御満悦であった。
 第2回フォーラムは「これでいいのか名取のまちは」、第3回は「市民と行政の新しい関係」を各テーマに開催された。いずれもさまざまな視点からまちづくりについての提言がなされた。今後も続けて開催する予定である。
 フォーラム開催と並行して取り組んだのが街の活性化イベント「ちっちやな光のアート展」である。これは、一万粒の発光ダイオードを使った畳三畳大のボードに、宮城国体のマスコット「ケヤッキー」とNHKアニメの「おじやる丸」を光の粒で描こうというもの。試作と失敗を繰り返しながらの作業と、多くのボランティアの協力があっての準備であった。クリスマスを目前にした師走の夕刻、会場には大勢の人たちが集まった。太鼓の演奏が花を添えた点灯の瞬間、集まってきた子供たちの間から「あっ、ケヤッキーだ、おじやる丸だ」という歓声が師走の町に響いた。そして「これからこの町も楽しくなるわ」という声も聞かれた。
 翌年は「光のストリートアート展」と趣向を変え、一般参加者を募り親子や友人同士で作った中型のピカボード50枚が歳末のまちを彩った。


住民によるまちづくりの提案

 現在、名取駅東整備事業は具体的計画が進み、平成16年には新駅舎と駅前広場が完成する予定だ。これを受けて「リバイブ名取21」の基本的な設立趣旨である、住民によるまちづくりの提案作成の活動も活発化している。年に10回を超える全体会では、名取市のマップづくりや駅前整備事業を中心テーマに話し合いを行なっている。また、住民から新駅舎のデザインを募集するなど市民提案型の整備事業を働きかけている。
 これまでに住民から出された意見は700件を超えた。これらの意見を集約して要望書を作成、近々関係当局に提出する予定だ。
 さらに、設立当初から6千部を発行している「リバイブ名取21だより」は、現在22号を数えた。行政区長さんの協力を得て配布し、これらの活動を広く市民に知らせるとともに名取市の身近な情報をも発信している。
 活動を開始してほぼ2年半。これまでの活動資金は会費収入と自治体からの助成金で賄ってきた。しかし、今後の活動資金の確保など解決しなければならない問題もある。
「継続することが一番大切ということをいつもメンバーが確認しながら活動している。“怒ったら負け”が合言葉」と高橋事務局長。「発足当初から活動にかかわってもらい活動のサポート役として本間、阿留多伎両先生の存在は欠かせない」とも。
「まちづくりへの提言」「イベントの実施」「まちづくりの啓蒙」を活動の3本柱に掲げ、これまで実施してきた活動はいずれも大きな手ごたえがあった。そして、市民の意識も少しずつではあるが変わってきた。と同時に行政の意識も変わってきた。
 そして、今新たに「情報交流の場」として「名取市まちづくり協議会」立ち上げの準備を進めているという。今後、さらに多くの市民を巻き込んだ住民主原型の「リバイブ名取21」の活動が、名取のまちの賑わいを再び取り戻すきっかけとなることを期待してやまない。