「まち むら」74号掲載
ル ポ

街にコミュニティバスを走らせよう!
群馬県 前橋市のバス活性化の取り組み
 群馬県は、全国屈指のマイカー王国で、かねてから住民のバス利用の減少、いわゆるバス離れが進む地域でもある。そうした背景の中で、前橋市内の駅と駅を結び百円玉一枚で乗れる、いわゆるワンコインのシャトルバスを近年運行するなどバス利用促進の動きが活発である。その取組みや実情を現地に探ってみた。


シャトルバス運行とその背景

 JR前橋駅に降り立つと、ひときわ目を引く、レトロ調で気品に溢れ落ち着いた趣のある57人乗りのシャトルバス。座席はすべて木製。座るとぬくもりを感じ心地良い。若い女性運転手が、車体の上部から垂れ下がる細長い紐を元気よく引くと屋根の上の鈴が「ジャラン」と鳴り、出発。上毛電鉄前橋中央駅に向けたわずか1キロほどを、ノンストップであっという間に走り技けた。
 平成8年9月から運行を開始したシャトルバスは、上毛電鉄の前橋中央駅とJR前橋駅をわずか5分で結んでいる。運行時間は、上電前橋中央駅発午前7時20分からJR前橋駅着19時3分までの1日25.5往復(最終便は片道)。上電の利用客が、アクセスしやすいよう鉄道の発着時間に合わせてシャトルバスのダイヤが組まれている。運賃は片道大人100円。小児は50円。前橋市が日本中央バスに委託し、シャトルバスを運行している。中央バスの高橋悟副社長は、「県内のバス事業は、とにかく地域のために貢献しようとする姿勢が大切だ…」と述べている。
 上毛電鉄沿線住民の足をJR前橋駅まで確保するなど利便性を強化するために運行を開始したシャトルバス。バスと鉄道の共存に向けた動きについていて、上毛電鉄の古澤和秋取締役は次のように述べている。「当鉄道の昨年の年間利用客はおよそ230万人、ピーク時の4分の1です。シャトルバスは、JR前橋駅へのアクセスが便利かつ100円の割安料金で沿線住民にとても好評でシャトルバスと共存していきたい。鉄道利用の増加は無理にせよ、減少には歯止めをかけたい」。
 現在の年間利用者数は、およそ10万人。ワンコインで乗れるシャトルバスの波及効果は、いま全国守人気の高いワンコインバス導入の契機や、市内を走る路線バスの100円区間の新たな設置など、さまざまな形で影響を及ぼしている。


路線バスの近距離区間はワンコイン

 平成9年度に運輸省、建設省、警察庁などで構成する群馬県のバス活性化委員会が、関東地区のバス活性化の重点県に指定されたこともあり、その活性化の目玉として前橋市内を運行するバス事業者全社(代替バス事業者を含む7社)が参加して、市内の路線バス190円均一区間の中から100円で乗れる新たな区間を設定し、翌年の平成10年初めより試行的にスタートする事となった。新運賃適用のエリアは、JR前橋駅を起終点とする1キロ前
後の区間で、その後隣接する停留所などは、150円区間が適用されている。
 群馬県バス協会の小池裕専務理事は、バス利用促進の施策やその効果について次のように述べている。「シャトルバスの運行や路線バスの100円区間の設定、その後150円区間などを設定したり、共通バスカードの運用など、さまざまな方法でバス利用の促進を図ってきた。シャトルバスを運行開始した平成10年の調査によれば、100円区間では、前橋駅から3つ目に当たる『本町』のバス停では特に利用客が倍増している。昼間の時間帯の利用が多く、女性の買い物客が多いようだ。とにかくバス離れに歯止めをかけたい…」。
 駅や市中心部から各方面におよそ1キロ範囲に当たる近距離区間100円運賃の路線バスは、一定の成果を得て、今日に至っている。さらに追加策として適用された150円区間や初乗り運賃100円といった区間なども好評のようだ。ちなみに近距離区間100円や150円運賃は、平成11年初めから隣接する高崎市や伊勢崎市の路線バスでも実施されている。


シャトルバス運行からコミュニティバスの導入ヘ

 前橋市では、いま新たな目標に向けて市民や各関係機関と共に議論を重ね、新たなバス事業を検討中である。来年春に運行予定の中心市街地を循環するワンコインのコミュニティバスの導入である。市では、コミュニティバス事業を市民と共に進めていこうと、昨年春に一般公募。60人ほどの中から市民18人が選ばれ、「街にコミュニティバスを走らせよう!」をテーマに視察や討論などが繰り返し行われてきている。メンバーは、学生や会社員、主婦などの市民に加え、まとめ役に大学の先生や市のスタッフなど。参加者の1人である建設コンサルタントの川鍋正規さんは、参加の動機やコミュニティバスヘの想いについて次のように述べている。「前橋生まれの前橋育ち、だから自分も参加した形で、街に何かを創り出したいと思っていた。そのひとつがコミュニティバス。ちなみにわが家は7人家族で、高齢者もいて車が4台あるけど、それでも各々移動手段としてコミュニティバスが必要です。参加した多くの市民がその必要性を強く感じています…いつも10人位は乗っていて、各々の顔が見えるような和やかなバスが良い…併行して、街の魅力を再発見したり、街に新たなにぎわいを創り出していかなければ…」。
 駅と駅とを結ぶワンコインのシャトルバス運行から5年、その間に路線バスの近距離区間の100円運賃などを実現した前橋市では、さらなる街の活性化に向けて来春始動する、中心市街地を循環するコミュニティバスの準備が、着々と進行中である。