「まち むら」74号掲載
ル ポ

「創られた商店街」を歩く
東京都江東区 サンストリート
 JR総武線の亀戸駅前に、「創られた」まちがあるという。大手企業と都市計画家が創ったまちで、だったらショッピングセンターかと思うと、大規模商業ビルとも違うらしい。商店街コミュニティが力を合わせて何かを成し遂げるという話ではないが、なにしろ全国の商店街関係者の視察が絶えないというくらい評判。いったいどんなまちなのか、アポなしで見に行った。


「ぶらぶら歩き」を楽しむまち

 亀戸駅の東口を出て、狭い通りを少し行くと、すぐに京葉道路(国道十四号)に出る。大型車が地響きを立てて行き交う向こうに、サンストリートが見える。低層式(二階建て)で、遊園地の人口みたいなファサードだ。
「SunStreet」の文字の上に、「RamblingMarket」と書いてある。ランプリングは「ぶらぶら歩き」という意味。何だか楽しそうなまちだ。
 国道を渡り、サンストリートというわりには暗くて挟いエントランスを入ると、左右に明るいおしゃれなお店がある。やや薄暗い通路はすぐ鉤の手に曲がり、路地みたいな細い通路を右に入ると、その先はT字路に突き当たる。そうか、「通路」と思っていたら、これは商店街の「通り」なのだ。それも狭く曲がりくねった下町の商店街通りが演出されているらしい。T字路を左へ行ってみる。太陽がさんさんと降り注ぐ広場に出た。ワッ、この人出は何なんだ。
 フリーマーケットだ。「マーケット広場」という広い空間はシートで埋めつくされ、服や靴やカバンや本、そして日用小物などのリサイクル品がびっしり並べられている。竹細工や竹炭を並べた福祉施設のお店もある。「福祉フリーマーケット」というイベントだ。
 このフリマ、“司会者”がいる。
 ワイヤレスマイクを手に出店者の間を飛び回り、それぞれの“お店”のPRをしゃべらせる。「お嬢ちゃん、自分のお洋服売ってるの? いっぱい売れるといいね」「おばあちゃん、この竹踏み自分でも使っているの? そうか、それで元気なんだ」。いや、そのにぎやかなこと。広場の一画にあるステージでは幼児向けのイベントも行われ、黄色い歓声もあがっていた。
 この広場では、ライブコンサートを中心に、毎日のようにイベントが繰り広げられているそうだ。サンストリートの名にちなんで、「3」のつく日(3日、13日、23日)には特製風船プレゼントも。「人前結婚式」などという、地域住民参加のイベントもある。


工場跡地を地域住民向けに開発

 サンストリートの敷地は、時計メーカーのセイコーインスツルメントの工場のあったところ。当初は地上36階建ての高層ビルが建設される計画だったが景気低迷の影響もあって見直され、商業施設が生まれた。事業の主体は同社の不動産部と都市計画設計会社である。
 このまちの特徴をひと言でいえば「近隣型」(「界隈型」ともいわれる)。玩具の外資「トイザらス」や、無印良品といった大手テナントも入っているが、大半は小型の店舗で、ブティックやドラッグストア、バラエティショップ、書籍・CD、パン屋さん、和菓子のお店、中規模の食品スーパー、それにお蕎麦屋さんや中華料理店、イタリアンレストラン、ファーストフード店もあればタコ焼き屋も今川焼き屋もあるという、ごくふつうの「まち」を出現させた。
 地元のお店の出店もある。食品スーパーの店頭では季節の野菜やくだものが、ドラッグストアでは衛生紙や各種洗浄剤が通りにはみだし、ワゴンセールも各お店が競って出している。サンマルシェというのは「ワゴン広場」。たとえば手芸などの仲間でワゴンを借りて出店できる地域に開かれたシステムだが、借り賃は月額十万円とお安くはない(週決めもある)。フリマよりももっと本気で売る姿勢が必要だろう。
 さて、このような商業施設のオープンは1997年11月。だから、もう4年近くになるが、事業は成功したようだ。当初まちに来る来街者を年間400万人と見込んでいたが、フタを開けてみると2倍以上の1000万人、売り上げは100億円の見込みが180億円に達した。3キロ圏の人口が40万人強という人口密集地での商業開発だから、こんな数字が出たのだろう。もちろん、それはやり方がうまかったからだが。
 この事業は、実は15年間の期限限定である。景気がよくなったら高層ビルをという思いもあるようで、だから建物は低層で地下もないという、高度利用が常識のようになっている都心一等地の開発としては、何とも贅沢な形になっている。建築も仮設に近い簡素なつくりだ。
 しかし、そのことが結果として、近隣型商業施設としての成功の一因になったとも考えられよう。低層だから空か広く、明るい。簡素なつくりだから、下駄履きでで気軽にぶらぶら歩きが楽しめる。
 そして、15年限定といっても、取り壊しと決まっているわけでこない、見直しを行うというもので、だから、ずっと亀戸の名所として残るかもしれないし、また残ってほしいものだ。
 なにしろ、1000万人来街者の半数は徒歩か自転車だという。取り壊すとなったら、地域住民が黙っていないだろう。だいいち、一度快適な商業空間を体験した近隣住民が、うっとうしい高層ビル計画に同意するだろうか。


商店街活性化のヒントがいっぱい

 敷地は約25,000方メートル。京葉道路側の間口が約130メートル、奥行きが220メートルほどだから、直線道路の商店街に換算すると「街長」500メートルほどで、中規模な商店街ということになる。
 しかし、この「まち」は冒頭書いたように薄暗い通りが曲がりくねり、中央には明るい広場がドンとある。お客は迷路のような路地歩きを楽しみ、広場では太陽の光をいっぱい浴びて、ゆっくりくつろげる。なにしろ、ベンチが1800人分あるというから、これはオドロキだ。
 隋円形のマーケット広場を囲んで二階はゆるくカーブするデッキで、長い庇とテントで雨の日の買物も楽しめる。路地とデッキを回遊すると、ぶらぶら歩きはほとんどエンドレス。
 男女トイレが5か所、女性トイレがプラス1か所。日本全国、トイレのない商店街がいっぱいあるが、このまちは十分用意されている。女性専用トイレの脇には授乳室まで用意されている。こういう心配りが在来の商店街にもほしい。ちなみに、四国・松山の銀天街や大街道商店街などで構成される中心市街地では、多くのお店が自害のトイレをお客に開放したそうだ。資金がなくても、やる気と工夫があれば、いいまちができる。
 バリアフリーは当たり前。そして、このまちには当然ながら、クルマは入ってこない。だれでも安心してぶらぶら歩きが楽しめ、車椅子でも往来自由自在だ。
 複数のガードマンが常時巡回していて、お巡りさんよろしく道案内もしてくれる。パリッとしたユニフォームの係員がゴミ容器・リサイクル容器を常時点検しているから、容器廻りも清潔だ。空き缶などをポイ捨て・置き捨てする者もいないわけではないが、そういう不心得者の後始末もすぐに行われる。
 設備などは大手百貨店やショョピングセンター並みで、雰囲気は下町の商店街。これからのまちのあり方を示すひとつのモデルとして全国から視察が絶えないというのも、十分うなづけた。こんな商店街を近隣に持ちたい。
「商店街が衰退すると、子どもたちが荒れる」は、「早稲田いのちのまちづくり」をリードする安井潤一郎さん(早稲田商店街会長)の指摘だ。昨今の殺伐とした世相を見ていると、商店街の活性化はどこのまちでも待ったなしの地域の課題だと思う。