「まち むら」72号掲載
ル ポ

自然を生かし住民参加による町づくり
新潟県上越市 平山町内まちづくり協議会
 新潟県上越市の南西部に位置する平山町内は、上信越自動車道の全線開通、同市の主要南北交通網である通称・山麓線の延伸に伴う開発、新たな土地区画整理事業の計画で今後とも人口の増加が見込まれる新興住宅地にある。
 元来は農業地域であったが、現在は310世帯のうち農業者は数世帯しかない。道路網の整備で急連な発展を遂げる一方、周囲には豊かな自然がそのまま残る。


独自の町づくり構想を策定

 平山町内会と一体になって、同地域の環境整備や活性化、積極的な住民参加による町づくりを行っているのが平山町内まちづくり協議会(佐藤仁会長)である。市中心部から車で5分の至近距離にあるキャンプ場と家庭菜園を運営しているのもユニークだが、ことしは市の指定を受けて環境問題への本格的取り組みを始めるなど、積極的な活動が注目されている。
 町づくりの大きな指針となっているのが、平成9年7月にまとめた独自の町づくり構想である。豊かな自然を生かし、住民参加型の町づくりを行うため、同年3月に平山町内まちづくり協議会を結成。市が費用の2分の1、25万円を限度として街づくり計画に助成する「地域別まちづくり計画支援事業」の指定を受け、先進地視察、タウンウォッチングなどを行って住民の意見を集約、A4判40ページの冊子に計画をまとめ上げた。


独自のキャンプ場を核に

 同構想では、大相撲の心身道場だった施設を譲り受け平成4年から町内で管理運営してきた平山キャンプ場の整備を「リフレッシュ・レクリェーションゾーン」の核とし、ゆるやかな草原が広がる牧草地や、フジの花が美しい用水地「滝寺堤」を連携させる保全整備を打ち出した。近隣の遊休地を家庭菜園として貸し出し、「菜園でとれた野菜をキャンプ場で食べてもらいたい」(当時の石塚貞正会長)と、一般にも開放することにした。世帯数急増で手狭になった町内会館の改築や、「平山町内まちづくり憲章」を制定なども盛り込まれた。
 町づくり計画は地域が一丸となって立派な書類を作れば作るほど、完成時には安ど感が強く出て「計画のための計画」となるおそれがある。同町内の計画はまさに「実現のための計画」で、驚くほど着実に実行されている。


キャンプ場に待望の水洗トイレ

 昨年7月末にはキャンプ場に待望の水洗トイレが完成し、住民や子供たち総出で喜び合った。配水管埋設工事や雨どいの設置を奉仕活動で行ったこともあり、喜びはひとしおだった。
 周囲の景観にマッチする木造ログハウス風の外観で、男女別の和・洋式トイレのほか、身障者用も備わっている。総事業費は570万円かかったが、そのうち市から500万円の補助を受けた。
 キャンプ場の利用者数は平成10年度が340人、11年度は383人だったが、「怖いトイレ」の解消により12年度は10月末現在で620人にはねあがった。
 キャンプ場には広々とした芝生のキャンプサイト、炊事場、かまど、広場、遊具などの設備があり、テントの貸し出し(1張500円)も行っている。杉林に囲まれ、日射しの強い夏も涼風が吹き抜ける。とても市街地のすぐ近くとは思えないほどだ。徐々に施設整備が進められているが、今後も協議会内に設置したキャンプ場周辺整備部会で施設の充実を図る計画。佐藤会長は「テニスが楽しめる場所を作りたい。子供の遊具としてジャングルジムもほしい」と述べる。
 トイレの完成でキャンプ場の維持管理費は増加したが、町外者1人200円の施設別用材は据え置いている。北海道や四国からロードマップを見てやってきた若者もいるそうだ。町内住民は無料で使用でき、子供バーベキュー大会や夏の盆踊り大会などに広く利用されている。


家庭菜園も10区画で整備

 キャンプ場南側に整備した家庭菜園も一昨年から貸し出しを始めた。現在は10区画、450平方メートルの広さに菜園が作られ、町外者にも好評だ。「将来は別の場所に拡張計画もある」と佐藤会長は話す。
 平成8年に準備委員会を作り、全世帯アンケートを行って準備を進めてきた町内会館の建設も現実のものとなった。平成9年3月のまちづくり協議会発足と同時に会館建設部会を発足し、会議を重ねて一戸月額1000円の積み立てを始めた。


町内会館はバリアフリー

 町づくりの拠点となる会館は平成11年4月に着工し、同9月に完成した。木造2階建て、延べ床面積226平方メートル。1階には8畳の和室2部屋と、調理実習もできる調理室、事務室があり、2階には町内総会や各種会議、講習会、踊りの練習、子供の遊び場など多目的に利用できる88平方メートルの大会議室を設けた。車いすでも利用できるよう玄関スロープを付け、1階の段差を無くし、身障者用トイレも備えるなどバリアフリーとした。
 総工費3000万円をかけ完成した会館は「平山ふれあい会館」と名付け、今後は街づくりアンケートを行ってイベントなどのソフト事業にも力を入れる予定だ。将来は常駐の事務職員を置き、夕方子供たちが学校から帰ってきて遊べる場所にしたい計画もある。


環境の街づくりも始動

 着々と進む町づくり事業に今年度から新たに加えたのが環境整備部会。市の「環境のまちづくり事業」の指定を受け、取り組みを始めた。幹線道路沿いに大型花壇の整備をし、美しい花を咲かせてドライバーの目をなごませた。10月には講師を招き、ごみの分別や減量化の学習会を開いた。市が環境意識の向上をねらいに交付している「環境パスポート」の子供服を独自に作成するなど、ユニークなアイデアも盛り込んでいる。


まちづくり憲章の制定ヘ

 町内会長も兼ねている佐藤さんは、現在進めている町内会の法人化と平行して、住民の心のよりどころとなる「まちづくり憲章」の制定を計画している。「町づくりへの皆さんの気持ちをまとめていく精神的なものとして、ぜひとも必要。まずは素案を作りたい」と話す。


豊富な人材が事業を支える

 これら多くの事業を支えている実戦部隊は強力だ。花壇の整備などのボランティアに活躍する老人会「達者クラブ」(牛木達郎会長)のほか、体育行事や除雪、ペンキ塗りなどに活躍する若者たちも積極的で心強い。ことし11月5日に行った町内の自主防災訓練で、人工呼吸を教えたのが病院の事務職。建設会社の社長はロープの結び方を教え、班別に分かれて行うウォークラリー方式のユニークな訓練を導入したのが自衛隊員など、人材バンクといえるほど各方面で経験豊かなスタッフがそろっている。
 今後は「町づくりに子供たちが自主的に参加できる場面を与え、ふるさと意識を育てていきたい」と、さらに住民総参加の街づくりを進めていく考えだ。