「まち むら」72号掲載
ル ポ

モノと心を乗せるリサイクルネットワーク
熊本県熊本市 城見町通り商店街他
 熊本市の中心街の城見町通り商店街、住宅街をバックに頑張る健軍(けんぐん)商店街、そして空き缶のストックヤードのある酒類問屋さんの3ヵ所を訪ねた。この3ヵ所は市電でつながっていて、何度でも乗降できる「1日乗車券」がとても便利だった。全国に19ある路面電車のあるまちのひとつ熊本は、交通の面でも環境や交通弱者にやさしいまちになる可能性がある。そしていま、リサイクルネットワークを軸としながら、元気で楽しいまちづくりがはじまった。


デッキブラシ1本運動から

 市電を市役所前で下車。左に市役所を見ながらJRの駅方向に歩いて2本目が城見町通り商店街の入り口だ。振り向くとその名のとおり、熊本城が見える。
 この通りは飲食店が多く、熊本のまちづくりの司令塔・南良輔さんのお店、南酒店も割烹や居酒屋などが主な顧客だ。だから、不況の影響をまともに受ける。
「業務用がほとんどですから、まち全体が元気にならないと、どうにもなりません」と南さんは話す。
 最初に打った手が「デッキブラシ1本運動」だった。
「商店街は、町内会でもあるわけです。みんなで協力する体制づくりが大事で、まちをみんなできれいにすることからはじめました」
 お店がデッキブラシを用意して、みんなで早起きして通りをゴシゴシ磨く。役所のロードスゥイーパーもときどき来るが、毎朝磨けばまちはきれいになる。
 ユニークなのは、コンポスト用の微生物を利用していることだ。通りは透水性舗装が施されているので、生ごみの汁などが染み込むと腐敗して、まちに悪臭が漂う。これを防ぐために微生物を利用する。生ごみのコンポスト化まで進めるのが理想だが、その前段階といえるだろう。コンポスト用の微生物のこんな活用法を考えた南さんの応用力には、脱帽。
 次の手は、空き缶回収機の導入。
「市のリサイクル情報プラザで見て、さっそく購入しました。売りっ放しはいけません。でも、どうやって容器を回収するかと考えたときに、この機械なら手間をかけていただいたお客さまに楽しみというオマケで応えることができる」
 空き缶回収機は前々号で紹介したが、空き缶を投入するとコンピューターゲームがはじまり、運がよければ商店街のサービスチケットが当たるというもの。これが「楽しみというオマケ」だ。
 もうひとつが「回覧板」の発行。商店街の身近な話題や、回収機を管理する当番表などを掲載している。将来はEメールにしたいとのことだ。
「商店の経営者のなかには、ビルを建ててテナントを入れて悠々自適という方もいましたが、厳しい時代になると安閑としておれない。何かしなくちゃと動きはじめると、もともと土地っ子の幼馴染みが多いですから結束力がよく、パワーになります」
 この8月には、「リサイクル商店街サミット」を開催した。早稲田ではじまったサミットはこれで3回目で、全国42商店街から280人ものまちづくりのリーダーたちが熊本に集まった。
「リサイクルをキーワードに全国をつなぐネット商店街が生まれました。それにも参加しますが、地元にネットワークをつくることはもっと大切です。いま、この城見町に隣接する下通り商店街や、そのまた隣の商店街、少し離れた住宅街の商店街ともネットワークがつながりはじめているんです」


FM局のある商店街

 その「住宅街の商店街」を訪ねようと、市電に乗った。市電は6キロ足らずの距離を15分ほどかけてとことこ走り、終点の健軍に着いた。停車場の所が健軍商店街「ピアクレス」の入り口で、1分も歩くと右手に「ピアクレス・スタジオ」。半径数百メートルのエリアに電波を流すミニFM局のスタジオがあり、休憩コーナーがあり、その壁面はサークル活動やフリーマーケットなどのお知らせに使うメッセージボード。そして、ここにも空き缶回収機が設置してある。
 南さんが「地元にネットワークを」というのは、商店街同士の情報交流や共同事業という意味ももちろんあるが、商店街を利用するお客にとっては空き缶回収機で当たるラッキーチケットの景品の幅が広がる。たとえば健軍で当てたラッキーチケットが中心街の下通り商店街で使えたり、その逆もある。さらに、ネットワークは農村地域にも広がり、地場のナシやミカンなども景品に加わった。
 空き缶回収機は、単なるゲーム機ではない。子供のコンピューターゲーム機がインターネット端末にもなりつつあるのと一緒で、この機械もさまざまな情報発信に使うことが考えられている。たとえば、いまはアジが「旬」とか、今朝はキャベツが大量入荷したから安いよといった市場情報をリアルタイムでインフォメーションする。そうすると、紙の無駄遣いともいわれるチラシは不要になる。
 このように書くと地域の新聞販売店さんに怒られそうだが、折り込みを利用するのは大型店。空き缶回収機をインフォメーション・ツールに使えば、折り込みなどにコストをかけられなかった魚屋さんも八百屋さんもお客にメッセージが送れるようになる。
 FM局の番組はディスクジョッキーが中心で、リスナー参加型で親しまれているが、並行してIT革命も進めようというわけだ。いまITの普及は国策になったが、魚屋さんや八百屋さんも視野に施策を進めていただきたい。


酒パックの回収もスタートヘ

 こうしたまちづくりのキーワードは「空き缶」。環境問題のやっかいものがまちづくりのカギになったのは、大勢の人々が共有できる課題だったからだろう。空き缶に限らず環境問題は、難題というよりも、21世紀にみんながまとまって勤いていくための絶好の課題だ。
 回収機に集まった空き缶の行方を見届けようと、「1日乗車券」で三たび市電に乗った。中心街を通り越して、JRの北熊本駅方面に向かい、新町という停車場で下車。3分も歩くと坂本屋さんという大きな酒類問屋があった。その駐車場の一画に「エコステーション」があって、空き缶が山積みされていた。
 これは回収機からだけでなく、市内の酒屋さんがお客から直接回収したものも含まれている。南さんは商店街活性化の司令塔のほかに、酒屋さんの組合の青年部リーダーとしても空き缶をキーワードに量販店やディスカウンター相手の対抗策を次々と打ち出している。
 近々はじめるのが、清酒や焼酎の紙パックの回収だ。これについてはリターナブルの優等生である一升瓶の敵を利するとの批判もあるが、それは牛乳パックか牛乳瓶かの議論と同じで、大量に出回ってしまったものをごみにしないでリサイクルするのは、悪いことではない。そして、牛乳パックの再利用運動の目的が単なるリサイクルではなく教育や福祉であるのと同様に、酒パックの回収もまちの酒屋さんや商店街全体を元気にしようというのがねらいなのである。
 熊本は牛乳パックの回収が盛んで郵便局にまで回収ボックスが設置されている。べつに対抗する意味ではないが、酒屋さんは市内に540軒もあって、郵便局よりも多い、その酒屋さんが、自分で売ったものの容器は全部回収しよう、そうして、もう一度「地域の酒屋さん」の地位を取り戻そうというのも、当面の南さんの戦略だ。この戦略が成功すれば、市民にとってもこんなに便利なことはない。まちのそこここにリサイクルの受け皿ができるわけだからである。