「まち むら」71号掲載
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ふるさと あったか 鶴が台
神奈川県茅ヶ崎市 鶴が台団地自治会
行政の下請けでなく住民利益を

 鶴が台団地は気候温暖で南には湘南の海、西には富士山や丹沢山塊が遠望できる神奈川県茅ヶ崎市(人口約22万人)の中央部にある公団住宅です。住宅は4階および5階建ての中層で78棟、約2400戸・6000人が住んでいます。
 68年に入居が始まり自治会はその年に誕生して32年目を迎えています。一昨年の30周年記念企画の中では鶴が台団地の目指す姿のキャッチフレーズ「ふるさとあったか鶴が台」を設定しました。これは力を合わせて自らの利益をまもるとともに、花とみどり豊かなふるさとづくり、助け合いと交流による暖かい団地づくりを目指すことをお互いに確認しあったものです。
 自治会・町内会の役割は地域共同問題への対処、地域秩序の維持等と言われ、また行政との関係では、下請け関係・要求達成関係・協働関係の三つがあるとも言われています。
 これと対比すると鶴が台団地自治会はユニークと言えます。自治会発足の時点で「行政の下請けでなく住民の利益を守ること」「どの政党とも分け隔てなく付き合うこと」「みんなの要求をどう実現するかを大事にする」という二つの原則を決めておりそれが伝統となっています。
 特徴点を次の3点にまとめてみました。
@民主的な運営を徹底し、いつも住民参加の場を広げる努力をしている
A会員・住民の利益をどう実現するかを活動の目標としている
B活動の成果を蓄積しながら将来を見据えた計画を持って進めている


役員や委員、活動方針はよく相談

 年が明けると4月の総会に向けて新しい年度の活動と役員を決めるための話し合いが始まります。活動方針・予算案は数回の運営委員会で意見を出し合ってまとめ、他の資料と合わせて約40頁の議案書を作ります。役員は運営委員の互選。運営委員は棟委員から12人を選び、一般会員から28人を公募します。
 専門部参加や行事の協力員など活動の際には積極的に会員参加を呼びかけています。基本的な活動方向はもちろん総会で決めますが、重要問題や住民に密着した課題では住民集会やブロック毎の青空集会、場合によっては住民投票などで意見を求めます。住民投票は10年程前に団地内の芝生を削った駐車場作りの是非を巡って実施しました。
 活動にメリハリをつけるために毎年重点課題を2〜3設けています。今年度は福祉問題検討委員会を作り福祉活動のあり方を探ること。放置自転車一掃の取り組み(6年前には約1200台の自転車を200人以上が参加して処分しました)。それと団地内駐車問題の根本的解決の3点です。


福祉基金と福祉ボランティア

 福祉活動は「あったか鶴が台」の重要テーマです。自治会で一般会計・福祉バザー収益・資源回収の収入などを10年近く積み立てた福祉基金は、今では1000万円近くになりました。この基金の活用方向を考えることが大きなテーマです。
 基金の一部を利用し一昨年から「福祉ボランティア」制度をスタートさせました。これは65歳以上の高齢者や障害者の世帯を対象に家具の移動や天袋など高所作業、水道など器具の小修理、粗大ゴミの搬出などを対象にしています。ボランティアには1時間あたり600円を支給しますが、依頼者の個人負担は100円で差額の500円は福祉基金から支出しています。この制度をどう充実させるかが今後の課題です。
 また地域のニーズを満たしながら高齢者の働きがいにもなる「高齢者事業団」的な活動を求める機運があり、これをどう立ち上げるかも検討します。自治会ではこのほか高齢者や要援護世帯の会費減額も行っています。


花と緑豊かな団地づくり

 花と緑豊かな団地づくりも重要課題として住民参加で進めてきました。鶴が台は30数年前に沼地を埋め立てた団地でそれこそ砂漠の中のようでしたが、その後木を大事に育て花を咲かせて、今では市内でも有数の緑豊かな住宅地となっています。先だって市内の優れた景観選びが行われましたが、茅ヶ崎市の景観十選に選ばれる栄誉を獲得しました。
 10年ほど前には住宅都市整備公団の「総合的団地環境整備事業」が行われました。このとき熊本大学延藤教授(現千葉大学教授)の指導を受け「こんな団地に住みたいな」との夢を語り合いつつ整備の仕方に数多くの提案を行いました。棟の回りを花でかざろう運動や団地内の公園と通りの愛称を決め公園の看板作りも行いました。
 公団の賃貸住宅でのこのような試みは大変注目され、住民参加の街づくりとして建築関係の専門誌に紹介され、大学生の卒論テーマにも取り上げられました。


会員の役に立つ自治会事務所に

 自治会活動をしっかり進めるためには活動の拠点や事務局の体制が欠かせません。賃貸住宅では事務所や倉庫のスペース確保がなかなか難題です。鶴が台では公団の集会所を借りて事務所を運営し、ここには常時2人の事務局員が勤務しています。事務所の隣室は「談話室」でここは宅配給食の拠点にも使われています。団地内には防災倉庫など9か所の倉庫を確保しています。
 自治会では会員との結びつきと情報発信のために月2回B4判の「自治会だより」を発行し、4ページ建ての自治会新聞「鶴が台」を2か月に1回発行しています。
 会員のために割安のバスカードや修繕の斡旋、来訪者のための駐車場も確保して運営しています。
 月額400円の会費のほかに、市の各種補助金、行事の際の住民からのカンパ、商店や団体からのお祝い、バザーや資源回収の収益金、バスカードや修繕斡旋の手数料収入など会費以外の自主的財源を工夫して広げてきました。また会計の支出基準と手続きを細かくきめてオープンにしており、一方議員さんからの寄付辞退も一貫した姿勢です。


今後の重大テーマは建て替え!

 自治会は全員加入を目指していますが自主的参加が原則で、会則には「自治会への入会および脱会は各人の自由意志によります」と明記しています。最近ご多分にもれず他人任せ・組織離れの風潮の中で活動参加をいやがる人や「会費の割にメリットがない」などの理由を付けて自治会をやめる人もいて、会員の組織率低下が続いていました。自治会では会員を増やすために「会員アップ対策委員会」を作って種々の取り組みを行い最近では低落傾向を克服し徐々に向上するようになってきました。
 このような中で会員と非会員との違いをどうするかも議論が続いています。広報紙は暮らしのルールの徹底と活動への理解のため非会員にも配布しています。しかし自治会費で賄われる敬老会やバスカード・修繕・駐車場の斡旋などは会員に限っています。区分をするのは面倒ですが、活動の中では常に「如何に会員利益になる活動をするか」「負担感が少なく参加しやすい自治会にするにはどうするか」など緊張感をもって活動をしています。
 最後に付け加えたい点は自治協活動です。私たちの団地は公団住宅のため家賃や修繕、建て替え問題が基本的な課題です。これらの問題は上部団体の全国公団住宅自治会協議会での取り組みが中心です。当自治会も自治協活動に積極的に参加しながら安心して住み続けられる住宅を目指しています。特に建て替え問題はこれから最大の課題となるでしょう。この課題も含めて今後も新しい街づくりを進めたいと思います。