「まち むら」70号掲載
ル ポ

「環境」キーワードに元気なまちづくり
東京都新宿区 早稲田いのちのまちづくり
 「環境と共生、今、早稲田から」をテーマに「第1回エコサマー・フェスティバル」が開かれたのは1996年。以来5年でこの活動は「いのちのまちづくり」へと発展し、さらに昨年は2度に渡って「全国リサイクル商店街サミット」が開かれるなど、全国展開しはじめている。
 今年の第5回フェスタは8月27日。


空き缶拾うとトクをする

 早稲田大学の正門前から、大隈講堂を右に見て、書店や、ペナントなどのワセダグッズの店や、飲食店やリサイクルシッスプなどが軒を連ねる大隈通りを行くと、すぐ右に曲がる角のお店の壁に商店街マップが貼ってあった。「空缶はエコステーションでラッキーチケット。それが早稲田ルール」とメッセージがある。メッセージの意味は、じきに分かる。
 新目白通りに出ると、右手が都内唯一残るチンチン電車、都電荒川線の起点の早稲田駅。交差点を渡ると、右手に「早稲田エコステーション」がある。
 ちょうど手さげ袋を下げたお嬢さんが入るところだった。袋の中身は空き缶。空き缶回収機の投入口に入れるとジャジャジャジャーン。音響効果が轟いて、上部のディスプレーでサッカーゲームがはじまる。シュートされる空き缶。シュートが成功すると「GOAL!」の文字が出て、「ラッキーチケット」が出てくる。レシートみたいなチケットで、お店に持っていくといろいろなプレゼントがもらえる。空き缶1個でゲームが遊べて、しかもトクするかもしれないということで、この界隈には空き缶もペットボトルもひとつも落ちていない(ペットボトル回収のゲーム機もある)。


商店街発想の“デポジット”

 デポジット制度は、上乗せ金という経済的インセンティブで回収を促進する仕組みだが、この「早稲田ルール」は、トクするかもしれないが、「ハズレ」でもゲームでドキドキする「楽しみインセンティブ」も乗っかっている。さらにリサイクルに参加する=よいことという「満足インセンティブ」も乗っかっている。二重三重におもしろい仕組みだから、みんな空き缶やペットボトルを持ってくるし、落ちていれば拾ってくるわけだ。
 経費は商店街が出す。プレゼントの提供ばかりでなく、エコステーションの家賃や回収機のリース代、それに回収した空き缶やペットボトルのリサイクル経費がかかる(ご存じのように、いま資源リサイクルは収益にならない)。
 しかし、損するような事業はやらないのが商人道。参加店は販売促進活動の一環として、このシステムを支えている。販促になるわけは、プレゼントの内容を見ると分かる。
 このようなシステムを行政がやると、ゲーム=子供=お勉強という発想で、プレゼントは図書券やエコ文具という話になる。早稲田では参加店の販促だから、手づくり豆腐半額券、ギョウザ1皿無料券、生ビール1杯無料券、カット1割引き券(美容院)などなどが当たる。
 ゲーム=子供ではなくて、学生もお年寄りも、要するに「お客さん」みんなに楽しんでもらい、ウチのお店に来てくださいという顧客誘致式プレゼントなのだ。そして、効果はテキメン。
 子供に豆腐半額券が当たったら、どうするか。お母さんに渡すだろう。親子で買物に出かけて、豆腐だけしか買わない人は、めったにいない。あれこれついでに買物をして、「ボクが当てたんだ、ごほうびにポテトチップス」「ハイハイ」――というわけでお店は繁盛するし、親子の対話も増える。
 子供に生ビール券が当たったら、カット1割引き券が当たったら――。想像するだけで楽しくなる。「家族」に話題を提供し、「家族」に地元商店街を利用してもらう。ラッキーチケットは、当てた人ばかりでなく、当てられたプレゼントを出すお店にとってもラッキーな顧客誘致チケットなのである。
 そして重要なのは、一般のサービス券割引券などより、ラッキーチケットの実際に使用される率が極めて高いことだ。単にトクをするだけでなく、リサイクルに参加する=よいことをして手に入れたチケットだから、大威張りで使える。
 トクするインセンティブ、楽しみインセンティブ、満足インセンティブを上乗せした早稲田ルールは、21世紀・環境の世紀型デポジットシステムだ。


IT(情報技術)を活用

 いま、よそから来た人が早稲田のまちを歩いて見学できるのはエコステーションだけだ。空き缶集めてそれだけでエコかと言う向きもありそうだが、実は電話回線などを使って情報がまちを、そして全国を駆け巡っている。
 商店街のおじさんやおばさんも、みんなパソコンを持っていて、Eメールで情報交換をしている。皆さん商売があるから、寄り合いを持つとなったら夜間になる。行政など関係者も呼ぶとなったら、時間の調整もたいへんだ。メールなら時を選ばないから、好きな時に意見を言ったり聞いたりできる。
 そして、メールなら場所も選ばないから、まちの枠を越えて全国からの情報も集まるようになった。
 ラッキーチケットのプレゼントに、北海道・小樽の海産物や信州・長野の漬物、熊本の地酒などが加わるようになった。昨年2回にわたって開かれた「全国リサイクル商店街サミット」がきっかけで、各地の特産品が早稲田に集まる。
 この特産品の扱いは「有店舗による無店舗販売」と、聞いただけではわけの分からない方向に発展しつつある。インターネット販売をはじめるということだが、無店舗販売の通信販売と違って商店街が品物の受け渡しをするところが特徴。だから「有店舗による――」なのだが、そのミソは、通販のリスクは購入した個人が負う場合が多いのに対して商店街の信用で商品を扱うことと、食品なら調理法、道具なら使い方をコンサルする点だ。
 全国40ほどの商店街が出資して、この夏には「ネット商店街」という名の会社を設立する。IT時代にコンビニエンスストアの情報端末としての機能がいろいろ期待されているが、ネット商店街は情報や商品流通の端末であり、またそれぞれの地域特産品の送り手でもあるという双方向性をウリに全国、さらには世界にネットを広げる考え。


「いのちのまちづくり」

 こうした活動は「早稲田いのちのまちづくり」実行委員会が推進している。
 環境を守るのは人間はじめ、すべての「いのち」のためで、そういう発想は1980年代の中頃から「いのち・自然・くらし」というようなフレーズで多くの市民団体・消費者団体などが掲げるようになっている。
 早稲田でも、生ゴミの堆肥化や「MY豆腐作戦」という原料大豆の契約栽培など、有機農業や食の安全性などに関わる活動もつづけているが、ここでいう「いのち」はもっと身近な問題意識も込められている。「南関東直下型地震が起きても、1人も死者を出さない」。
 行政の防災対策と並行して、もっときめ細かな、障害者作業所支援はA町消防団、B町2丁目○○さんの2階の角部屋の足の不自由なお年寄りの救出は誰と誰、――というような計画づくりを進めている。また、ITを使って、震災が起きたらエコステーションのゲームのディスプレイが情報端末になるようなシステムづくりも研究中。
 商店街は“全日制市民”が大勢住んでいる。商店主は“一国一城”の主で、いろいろな経験・ノウハウも持っている。地域行政や警察・消防との関係も深い。「環境」をキーワードに商店街コミュニティを再構築すると、安心で安全で楽しいまちができる。だから、全部まとめて「いのちのまちづくり」。早稲田大学も連携して、防災対策ばかりでなくゼロエミッションやグリーン購入など「エコキャンパス」づくりに乗り出している。