「まち むら」140号掲載
ル ポ

自治会×若者の多世代交流「成木地区大盆踊り大会」
東京都青梅市 ゆめなりき
はじめに

「ここは本当に東京都?」
 初めてこの場所を訪れる人の多くは、このような感想を口にする。東京都青梅市成木(なりき)―人口2000人に満たない、小さな山あいの集落である。2016年、この地域を舞台に、若者が主体となった盆踊り復活プロジェクトが動き出した。本稿では、地域を盛り上げようと動き出した若者団体と、地域を巻き込んだ盆踊り復活までの道のりを紹介したい。

盆踊りの消滅

 成木地区は八つの丁目に分かれており、かつてはそれぞれで独立した盆踊りが行われていた。しかし、少子高齢化に伴う担い手の減少、お祝い金をはじめとした費用の負担増等の理由から、夏の風物詩は一つひとつ消えていった。
 そもそも盆踊りとは、死者を供養するための踊り(念仏踊り)で、時代と共にその内容は変化してきた。私も小さなころから、毎年の恒例行事として、盆踊りを楽しみにしていた記憶がある。もちろん子どものころは踊ることよりも、その場所に行けば友だちに会える、おいしいものを食べることができる、そんな期待が大きかったのだろう。
 いつのまにか無くなっていた自分の地域の盆踊り。今思えば、あのわくわくする雰囲気をもう一度味わいたいと、成木のみんなも心のどこかで思っていたのかもしれない。

ゆめなりき

 2015年の春、自分たちが生まれ育った成木という場所を、もっとたくさんの人に知ってもらいたい、この地域が将来もずっと続いていってほしい、そんな願い(夢)から、成木出身の若者を中心とした任意団体『ゆめなりき』は結成された。メンバーはみんな、それぞれが仕事や家庭を持ち、市外に出てしまっている人もいる。そんな若者たちの共通するところは、成木という地域が好きだということ。まさに、現代版の青年団である。
 結成のきっかけは、成木外に移住してしまった成木の元住民が、年に一度でも成木に帰ってくるきっかけになるような何かができないか、といういちメンバーの想いからだった。その想いに引き寄せられるように、一人、また一人と、かつて一緒に遊んでいた幼なじみが集まり、自分自身が楽しみつつ、これからの成木のために何ができるのかを考えていった。
 成木の地域資源は豊富な自然と住民の温かさ。その魅力を活かさない手はないと、成木の野山を舞台にした宝探しゲームや魚釣り、成木内外の人を招待しての交流会などを開催し、だんだんと『ゆめなりき』が地元住民に認識されるようになってきた矢先、前述した盆踊り消滅の話が飛び込んできた。ちょうど結成から1年ほど経った2016年のことである。
 その話を聞いたゆめなりきは、「じゃあ成木地区全体の盆踊り大会を開催しよう!」と一致団結し、盆踊り復活プロジェクトがスタートした。

盆踊り復活ヘ―自治会へのアプローチ

 盆踊りをやろうといっても、その道のりは単純ではない。なにしろ、これまで自治会が主体となって継続してきた盆踊りを、一旦は打ち切りにしているわけで、そこに若者が割って入り、自分たちに続けさせてくれというのである。
 まずは自治会長たちに会って、直接今回の企画案を話してみることにした。すると、返ってきたのは意外にも、若者からの提案を、自治会としてもサポートしていきたいという返事だった。私が感じるに、これまでの自治会の中では、いわゆる地域の重鎮のような人と、これから地元を担っていく若者が交流する機会が少なく、様々な地域行事の継承が薄かったのではないかと思う。つまり、大人たちはだんだんと負担になっていく行事をなんとか若者に担ってほしい、若者も自分たちが主体になって地域を盛り上げていけるなら何かをやってみたい、そんな両者の想いはありながらも、うまく交わる場がなかっただけなのではないだろうか。
 こうして、自治会の協力も得られ、若者が主体ではありつつも、地域住民が一体となって、盆踊りの復活へと動き始めた。

子どもたちの笑顔

 地域全体の盆踊りを実施するにあたり、せっかく復活させた盆踊りが再び消滅しないよう、どうにか工夫しようと、夜遅くまで打ち合わせを重ねた。まずヒントになったのは、我々が子どものころに感じていた『盆踊りって楽しい!』という気持ちである。子どもたちが盆踊りに参加し、まずは楽しさを感じてもらい、ゆくゆくは運営側にまわる、そんな持続性を持たせるため、子どもたちが盆踊りに参加しやすい企画を練ることにした。
 成木にある保育園では、もともと独自の盆踊り会を実施している。園児のかわいらしい踊りを一目見ようと、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんが多く集まる夏のイベントである。しかし、ちょうどこの年、この保育園では園舎の改修工事が重なり、盆踊り会を実施できないという話を聞いた。そこで、盆踊り冒頭に保育園児の踊りタイムを設け、小さな子どもが主役になる時間を組み込むことにした。結果、この時間には家族連れが多く訪れ、盛大な盆踊りのスタートを切ることができた。
 また、運営側の楽しみを知ってもらうため、中学校を通じて、出店の店員体験ボランティアも募ることにした。いずれは一緒に活動するかもしれない、未来のゆめなりきメンバー候補の地元中学生たちである。募集の結果、興味のある中学生が十数名参加してくれて、飲み物やかき氷の販売、縁日コーナーを笑顔で手伝ってくれた。
 一方、小学生については来年以降への課題が残った。何人かの子は遊びに来てくれたものの、全体からみると少なく、踊りを踊っている子はほぼ皆無であった。成木の小学校は、小規模特別認定校として、通学区域に関係なく、市内全域から児童が集まっている。来年は、地区外から子どもたちが来てくれる工夫も考える必要があると感じた。

ゆめなりきが大切にしたもの

 こうして、様々な課題や反省点はあったものの、ゆめなりきの盆踊り復活プロジェクトは無事に成し遂げられ、高齢者や若者、子どもたちの笑顔が揃う貴重な場を創ることができた。
 盆踊りが終わって、ある自治会長の言葉が印象的だったので紹介したい。
「これまでいろいろな行事に追われて、自分自身がイベントを楽しめなかった。自分が楽しめないがために、どうしても行事を廃止する方向へ考えがちだったが、今回のように若者に引き継いでいくことは、とても大事だと感じた。来年は自治会長も卒業するので、もっと盆踊りを楽しみたい」
 この言葉はゆめなりきが最も期待していたことそのものである。PTAや自治会などでは、役を持たされないようにと、行事への参加を敬遠する人が多くいる。そのため、一部の人に負担が偏り、様々な取り組みの衰退につながってしまう。今回はこのような負の連鎖に対し、がむしゃらな若者たちが、少しだけブレーキをかけることができた。
 ゆめなりきのメンバーも、『自分たちが誰より一番楽しむ!』というコンセプトを忘れてはいない。来年もまた試行錯誤を重ね、新しい地域の輪が拡がるよう、そしてなにより住民全員が楽しめる盆踊りを開催していきたい。