「まち むら」140号掲載
ル ポ

子どもの声が聞こえるむらづくり
京都府南丹市 中世木区
集落存続の危機「なんとかせねば」
棚田ひな祭りを開催


 京都府の「へそ」に位置する南丹市日吉町中世木区は急速に高齢化が進行し、65歳以上の方が49%と限界集落直前で、あきらめと閉塞感が漂い、「なんもないところ」や「いいところなんかあらへん」と言われていました。平成24年に就任した新区長が住民の間に沈滞感が漂う中で「このままではいかん。なんとかせねば」という危機感から、集落に元気と明るさを取り戻し、「子どもの声が聞こえる村づくり」を呼びかけました。これを受けて40代、50代を中心にした壮年会有志が未耕作地の棚田を壇に見立ててお雛さんを飾る「棚田ひな祭り」を実施。また、集落に30〜40代の独身男性も多いことから同時に、婚活も実施しました。祭りには多くの都市住民はじめ、集落外の人々が訪れ、また婚活では集落の独身男性とのカップルも誕生(平成27年度には入籍、中世木区に居住)するなど大いに盛り上がりました。

せつぶん草まつりで大賑わい
集落全員で楽しむように


 その成功を受け、集落のみんなで「集落のいいとこ探し」の発表会を開催。そこで集落の山野草愛好家が絶滅危惧種に指定されている山野草「セツブンソウ」の群生地を発見したことを発表され、「これを公開して集落の活性化に役立てよう」と、「せつぶん草まつり」と称して平成25年3月に公開しました。都市の山野草愛好家を中心に4日間で集落の人口の4倍以上の600人近くの方々が観賞されました。それらによって集落には団結が生まれ、自信が湧き、新しい活動が始まりました。
 当初「棚田ひな祭り」に疑問を抱いていた住民もおられましたが、翌年からは、老人会が焼き芋スタッフとして参加、奥さん方はうどんやお弁当作り、さらに3年目は都会に出ている息子さんや娘さんも帰省して応援、人口130人の集落で稼働できる方の大半が参加、過去の村の盆踊りのようになり、集落全体が楽しむお祭りになり、今年は第6回を開催することができました。
 集落外からも多くの参加者があり日吉町のイベントに育ちつつあります。「せつぶん草まつり」は、同志社大学の准教授や京都府の環境保護課、京都府立植物園の園長さん、京都府立林業大学校の助教授などたくさんの支援、指導を受けて開催しています。

ウエルカム精神が芽吹く

 山あいの集落である中世木は厳しい自然環境の中で住民助け合いによって暮らしてこられました。これらに培われた人々の優しさと団結心が最大の資源です。逆に閉鎖性もありましたが、これらの取り組みで集落外の人々、都市住民との交流も生まれました。様々な取り組みは新聞にも掲載され、集落の人々に自信と誇りが芽生え、それに本来の優しさが加わり、「ウエルカム」「オープン」精神が湧きあがってきました。昨年には、集落の空き家に3組の家族が移住され、5人の子どもも加わって「子どもの声がきこえるむら」となり、限界集落から脱することができました。集落の人たちが面白そう、楽しそう、里山や棚田がきれい、春になるとセツブンソウが咲くというこの里で暮らしてみたいというのが動機だったと聞いています。
 これら事業を継続的に実施していくため、「棚田ひな祭り」は区の事業として実施し、お祭り当日には地元の野菜や米等を販売し、運営資金を捻出することとしました。また「せつぶん草まつり」は山野草を愛好する地元住民で結成した「中世木せつぶん草を守る会」が運営、公開日には来訪者から保存維持協力金を頂き、運営資金の一部とすることにしました。

未耕作地を活用して特産品の丹波黒大豆の枝豆をグループで生産・販売

 また、集落では高齢化に伴い、未耕作地が増え、鳥獣被害や景観悪化など問題となっています。この未耕作地を活用して、集落の郵便局員や大工さん、京都府の職員などが集合し、「中世木七人の侍」を結成、特産品の丹波黒大豆枝豆を共同生産、直販を始めました。集荷作業などを通じ、参加者の絆も強くなり、作業場は井戸端会議の場所となっています。

ビジョン委員会立ち上げ将来構想を提言

 一旦は、限界集落から脱しましたが、急激な高齢化は避けられないのが現状です。これらを認識し、今後もこの美しい里山環境を守り、みんなが楽しく過ごせる集落を創っていくため、集落の将来構想を提言する「中世木ビジョン委員会」をこれからの集落を担う壮年層や奥さん、Iターン者夫婦を中心に立ち上げました。すでにその打ち合わせから、いろいろなアイデアや実践活動が出ています。
 例えば、集落の背後の急峻な岩山から流れ出す清流で栽培したお米は京都市内などで「中世木産」として直売、好評を得ています。また、鳥獣が食べず地元でもあまり食べなかった「鬼ひかげわらび」を京都市内で珍味として販売できました。また、山に群生している「ひげのかづら」もお茶花としてお花の先生に販売できました。京都府の林業大学校の先生が集落の山で見つけられた「糸掛け石」は盆栽用として需要があるようでこれから販路を見つけたいと思っています。
 また、「半農半X」で有名な福知山公立大学の塩見直紀准教授の指導によってみんなで中世木の良いところを紹介した「AtoZ」誌を作成しました。なにもないところから、動けば形になることがみんなに実感できるようになりました。
 いろいろな方々の支援もあり、少しずつですが希望の光が灯りだしました。今後ともどうぞ、応援をお願いします。