「まち むら」137号掲載
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地域おこし協力隊―飛渡地区での取り組み
新潟県十日町市 NPO法人十日町市地域おこし実行委員会理事・事務局長 多田朋孔
まずはひたすら地域に溶け込む

 私は2010年の2月から地域おこし協力隊として新潟県十日町市の飛渡地区を担当しました。飛渡地区には14集落あり、当時は全部で176世帯618名の地区でした。地区内には飛渡第一小学校があります。私が来た時は飛渡第一小学校は全校生徒で9名という少人数の学校でした。
 地域おこし協力隊として移住した頃は、私の住む池谷集落では地域おこし協力隊を受け入れて地域おこしを頑張っていこうという流れができていましたが、他の集落は地域おこし協力隊のことはよく分かっていない状態でした。
 当時、地域住民で飛渡公民館主事の大津さんという方がとても協力的で、飛渡地区で行事やイベントがあったり、依頼事があった時には色々と情報提供してくださり、私が地域になじみやすいように働きかけてくださったので、私も頼まれたことやお誘いは予定が重なっていて物理的に無理な時を除いて全て断らないようにし、まずはひたすら地域に溶け込むことを最重要視していました。
 そうしていると、徐々に地域おこし協力隊に対する認知度も上がっていき、池谷集落の他の集落で熱心な方が「うちの集落にも地域おこし協力隊を受け入れたい」というふうに言ってくるようになりました。
 私は最初のうちから地域おこし協力隊は同じ地域内に複数いて役割分担しながら活動できた方がいいと考えていたので、市役所に対して「地域からさらにもう1人受け入れたいという声がある」というふうに話を持って行き、結果的に2011年10月に新しく高木さんが飛渡地区に加わりました。地域の方々からも「地域おこし協力隊が来てから雰囲気が明るくなってきた」という声も頂くようになってきていました。

小さな取り組みが生まれる

 私が移住してから3年目になるころに、飛渡公民館の主事の大津さんから「集落またがって何か取り組みができるようにしたい。まずはめぼしい人を誘って飲み会をやってもらいたい」というお話を頂きました。
 そこで、10数名の方に集まって頂いて飛渡公民館で飲み会を開きました。これがきっかけとなって、「食と農を考える飛渡の会」という会ができました。
 この会では飛渡地区の農産物を扱っています。最初は地域のお年寄りが畑で作っている野菜を臨時の直売所を営業して販売するところから始まりました。やっているうちに地域内に構えていた臨時の直売所だけでなく、中心市街地のお店の前に無人直売所を置かせてもらったり、飲食店に野菜を販売するようにもなってきました。初年度の売上は年間で115万8862円でした。
 この年、私は地域おこし協力隊の3年の任期を終了しました。任期終了後は地元の活動団体を法人化させる計画を「農村六起ビジネスプランコンペ」に応募して合格し、「ふるさと起業家」の認定を受け、当団体をNPO法人化し、理事・事務局長として団体運営をしています。

外部人材を継続的に受け入れる流れができる

 私が地域おこし協力隊の任期を終えた後、後任の地域おこし協力隊が2名受け入れられました。高橋さんと勝倉君です。飛渡地区の地域おこし協力隊は3人体制になりました。「食と農を考える飛渡の会」の活動は地域おこし協力隊の人たちが事務局の役割を担うようになり、山菜やお米も取り扱うようになり、年々売上も生産者登録数も増えてきました。(2013年度:202万8752円、2014年度:768万3689円、2015年度:773万77円)高木さんが地域おこし協力隊を退任して飲食店を起業すると、その後任として横深君が任用されました。さらに、もう1名追加で協力隊を募集し、小林さんが任用されました。これで4人体制となりました。その後、高橋さんと勝倉君も地域おこし協力隊を退任し、後任として安藤君と本間さんが任用されました。高橋さんは農家民宿を開業し、勝倉君は飲食店を開業しています。
 飛渡地区の地域おこし協力隊員は2017年1月時点で累計8名任用され、これまでに4名が退任し、4名とも十日町市内に定住しています。2016年度終了時点で横澤君と小林さんも退任しますが、横澤君は市役所職員、小林さんは新しくオープンする農家レストランヘの就職と2名とも十日町市内に残ることが決まっており、6人中6人が定住、4人が起業しています。
 十日町市は地域おこし協力隊の受け入れを積極的に行っており、受け入れ体制も良く、これまで累計52名を受け入れ、37人が退任しましたが、そのうち25人が定住しており、定住率68パーセントと全国平均を大きく上回っていることを評価されて総務省の「ふるさとづくり大賞」の地方自治体部門で表彰されました。その十日町市内でも飛渡地区は最も地域おこし協力隊の受け入れ実績が良い地区と言えます。
 十日町市では地域おこし協力隊のサポートをOBが行う仕組みがあり、私が理事・事務局長を務める「NPO法人十日町市地域おこし実行委員会」はそのサポートの仕組み作りをしています。
 飛渡地区では月に2回の定例会議を行い、そのうち1回は地域の世話役の方、公民館の職員、地域おこし協力隊員と三者の関係者が一堂に会する場を設定しており、地域・行政・協力隊員の意識合わせが逐一できる仕組みを作っています。
 飛渡地区では地域おこし協力隊員以外にもインターン生の受け入れも積極的に行われており、地域に浸透してきています。80歳を超えるおじいちゃんも「今度のインターンはあの子かい?」というふうにインターンという横文字を当たり前のように使うまでになりました。

地域の未来へ向かって

 地域おこし協力隊やインターン生といったよそ者をオープンに受け入れながら前向きな雰囲気になってきたので、2015年度に飛渡地区の有志を募って飛渡地区の将来ビジョンを皆で考えるワークショップを行いました。この話をしている中で地域に沖縄から婿に来た常角さんが沖縄にお米を1000俵出荷できるという話をもってきました。そして、2016年度産のお米を1000俵集めて取引をするという大きな商談が成立しました。
 また、十日町市役所は飛渡地区に予算をつけて移住者受け入れのためのシェアハウスの整備を行っています。これもこれまでの外部人材の受け入れ実績を認められてのことだと思います。
 飛渡第一小学校も現在では生徒数が16名に増え、小学校入学前の子どもも多くなってきており、これからの将来が明るい要素がいくつか見えてきています。
 飛渡地区での取り組みを通じて感じることは、地域おこしというのは行政が予算ありきで押し付けるのではなく、地域の人たちが徐々に前向きな気持ちになっていくという雰囲気づくりがとても大切であると思います。それは一朝一夕にできることではなく、地域おこし協力隊の3年間ではほんの芽が出るぐらいのところまでしかできないものでしょう。ですが、これを粘り強く続けていくことで一歩一歩着実に前に進んでいるという実感を持っています。
 「地域おこし」とは一体何をすることでしょうか?
 私は、自分の住む地域をこの先も住みやすく楽しい場所にしながら子どもや孫の代につないでいくことだと思います。
 長期的な展望を持って「急がば回れ」「継続は力なり」この言葉を胸にこれからも飛渡地区の未来を創る取り組みを一つずつ形にしていきたいと思います。