「まち むら」137号掲載
ル ポ

自治会集会所を拠点とした新しい自治会創造
千葉県松戸市 岩瀬自治会
 2016年2月28日、最後の重たい荷物を持って2階へ向かう。今日からはじまる新しい生活への期待と不安を胸に新しい住まいの前に立つ。「千葉県松戸市岩瀬自治会集会所‐管理人室」そう、今日からここが私の住まいなのだ。松戸駅から徒歩5分、630世帯1500人が暮らす、よくあるベッドタウンでのチャレンジがはじまる。大学院で「子どもとまちづくり」をテーマに研究する私はパートナーであるロシア人大学院生のマリアと部屋に入ると、窓を開け、自治会館に新しい風を吹き込む。

世界初?…大学生、自治会館に住む

 居住して間もなくすると、岩瀬の子どもたちが私に「チャーリーはどこに住んでるの?」と問いかける。「ここの2階だよ」と私が笑いながら答えると、子どもたちは首を傾げ「なんで?」と続け、思わず私は口をつぐんでしまう。実は「管理人」という名称ではなく「ニュープロジェクトコーディネーター」という、ひときわ怪しい役割をいただいたからである。というのもこれまで学生が管理人になるという前例がなかったことに加えて、海外の女性も居住する。どう考えても摩詞不思議な状況である。そこでビッグダディな鈴木自治会長から「旧来の管理人のような存在ではなく、新しい化学反応を起こす存在」として期待をいただき、ニュープロジェクトコーディネーターとして地域の活動を支援することとなった。それではこの1年間の岩瀬自治会の様子をみていこう。

趣味から広がる新しい自治会の創造

 毎朝9時、集会所のドアが開く。「おはよう」今日もパワフルな神田副会長がやってくる。小話を交わし作業が終わると、今日もオレンジ色の自転車にまたがり地域を駆け回る。こうした結果、近年空白の目立つ自治会の掲示板も、岩瀬自治会では時期を問わず常に賑やかとなる。
 現在岩瀬自治会は「明るく楽しいみんなの岩瀬」をモットーに掲げ、豊かな日常生活と緊急時に備え、顔の見える関係づくりを行っている。活動は大きく三つに分かれ、@四季折々の年間行事を通した世代間交流、Aこれまでの自治会活動を引き継いだ「子ども会」・「岩瀬ときめきクラブ(老人会)」などの世代活動、B趣味に応じたサークル活動「倶楽部in岩瀬自治会」を展開している。
 B「倶楽部in岩瀬自治会」はカラオケ、麻雀、絵画クラブ、庭作りなど活動は多様だが、中でも好評なのは「ワインの会」。3か月に一度開かれる活動には多くの人が足を運ぶ。2年前に10数名で始めた取り組みも、2016年7月には97名の参加者、平均でも60名以上が訪れる人気活動に発展。毎度異なるワイン原産国について学習した後でワインを嗜み、手作り料理をいただくのだが、この手料理が大人気だ。ダンディーな両角さん、松本さん、神田さんが振る舞う男料理は、品数が多いだけではなく味も抜群だ。このように、今まで負のイメージでとらえられていた飲み会を、新たな要素を加えて刷新し、新たな自治会イメージづくりに寄与している。

子どもを核にしながら広がるニュープロジェクト

 集会所に住み、生活が落ち着いてきた頃ひときわ元気なお母さん、遠藤さんに出会う。私の母と同年齢なお母さんは子どもの頃から岩瀬自治会で育ってきて地域をよく知る人物だ。そんな遠藤さんは「卓球台いいよね」と役員さんに笑顔で訴える。気づけば私も巻き込まれながら、卓球台設置計画が始まった。若者世代が来るようになることや多世代の交流の可能性を訴えた結果、クールな副会長塚本さんに体制づくりをしていただき、見事卓球台の設置が実現することになった。その設置記念として、地域の中学生5人と私がピンポン大会とパーティーを実施し、50名の子ども・親・祖父母世代が集まるイベントに発展。子どもたちは友だちの親や、他世代の地域住民と共に卓球バトルするなど、奇妙な組み合わせに様々な化学反応が起こり、大盛況の取り組みとなった。
 さらにこの勢いが拡大し、小学生からも自ずと「逃走中を千葉大学でやりたい!」という提案に。(「逃走中」とはテレビ番組で施設等を使ってやる鬼ごっこのようなもの)この提案も富田さんをはじめとする子ども会の役員さんが迅速に準備を進め、近隣自治会と合同開催することになった。打ち合わせを計3回、子どもたちも参加しながらルール決めを行い、千葉大学松戸キャンパスで逃走中を実施。当日は、計60人(子ども約45名と大人15名)が参加する大イベントとなった。
 しかし明るい話ばかりでもない。少子化と加入率の低下に伴い、子ども会の存続が課題となっていた。そこで現在の子ども会役員と経験者のお母さん方が集結し、数回のミーティングを重ねた結果、アス研(アフタースクール研究会)という自治会内組織を作ることとなった。対象を小学生やその保護者にかぎらず、中学生や若者や地域のお年寄りまで幅広い世代に広げ、子ども会を支援しながら独自の活動を展開する予定だ。現在は話し合いを続けつつ、活動の走りとして1月に地域にハーブを植えるプロジェクトを実施。4日前の告知にもかかわらず40名が足を運ぶ大盛況の取り組みになり、アス研も軌道に乗りつつある。
 このように子どもを核としながら人がつながり、新しい自治会活動の流れができつつある。

「管理人部屋から地域を支える」

 そんなこんなで早1年。1年前にはイメージできなかった「ニュープロジェクトコーディネーター」の役割も自然と見えてきた。今では子どもたちにも日常の風景と化した私は「遊んでくれるお兄さん・お姉さん」として認識されている。また地域の大人の方々とは、道端で挨拶を交わし井戸端会議することも増えてきた。今後はこの延長から自然と活動を支援できる存在になれればと思っている。さて次はどんな展開が待っているのだろうか。毎日が楽しみである。