「まち むら」133号掲載
ル ポ

街路灯LED化の「短期」完了を実現した住民の力を活かす「丁寧」な取り組み
千葉県我孫子市 青山台自治会
豊かな水に囲まれた、都内通勤世帯中心の住宅都市

 北は利根川、南は手賀沼に挟まれるように、東西に広がる千葉県我孫子市。人口は約13万人。東京都内から30キロ圏内にあり、通勤の便も良い住宅都市である。昨年開通したJRの「上野・東京ライン」により、我孫子―東京駅間は最短38分で結ばれるようになった。
 今回紹介する青山台自治会(以下、自治会)は、市の中央から、やや北西に位置しており、約1000世帯が加入している。

自治会取材のきっかけは、応募された1本のレポート

 取材のきっかけとなったのは、平成27年度「あしたのまち・くらしづくり活動賞」に応募されたレポートだった。インタビューの当日、レポートの執筆者である大和哲(さとし)さんが、最寄りの天王台駅まで迎えに来てくださった。
 自治会は51のブロックに分かれており、ブロック委員が、通常1年交代の輪番制で選出される。それに会長と会計監事の2名を加えた53名が、自治会の役員である。
 役員会は原則、月に1回、2時間程度行われる。総務、会計、広報、防災、文化、集会所管理、環境衛生、交通防犯の8部に分かれ、年間の事業を進める。夏祭りや球技大会、防災訓練といった各種の行事のほか、防犯パトロール、環境整備、広報誌の発行など、自治会の1年は忙しく過ぎていく。
「自治会の加入世帯は市内で3番目の規模。高齢化は進んでいますが、フェニックスクラブという高齢者のサークルも活躍しています」
 現自治会長の椎谷秀衛さんが自治会のあらましについて説明してくれた。
 筆者が訪れたのは、自治会の月例会日で、ちょうど全体会議が終わり、各部の会議に移る頃だった。集会所の中を慌ただしく行き交う役員の皆さんの様子から、自治会の活気が感じられた。

自治会が長年抱え続け、先送りにされてきた課題

 この集会所は「青山台青年館」という。珍しい名称だと思ったが、千葉県内には多く見られるようだ。昭和40年代から、青少年の健全育成を目的に、教育・娯楽・交流の場として、各地に設置されてきた。「青山台青年館」は、昭和51年、集会所探しに苦労していた当時の自治会員が、資金を出し合い建設された。市内には今も10か所ほど「青年館」が残っているそうだ。
 開館から40年が経った建物の老朽化は、自治会にとって大きな問題となっている。修繕費用が積み立てられているが、毎年改選される役員の話し合いでは、なかなか結論を得ることができず、特別会計として繰越金が増え続けているという。
 本稿で取り上げる街路灯のLED化にも、5年間、費用の積み立てが行われていたが、同じような理由で実施が見送られてきており、課題のひとつであった。
「LED化は、自治会の総会で、何度か話題になったが、補助金の仕組みや照度など、知識が乏しいままの議論になり、まとまらなかった」
 以前、自治会の総務部長を務めていた中川弘さんは、こう振り返る。中川さんは後述するプロジェクトチームで、事務局も担当している。
 平成25年7月。自治会は「プロジェクトチームの編成に会員の皆様のご協力とご参加へのお願い」という呼びかけを会報に掲載する。「自治会の在り方の検討」、「青年館の老朽化対応」、「街路灯のLED化」の3チームを編成し、複数年にわたる継続的な議論で、現状の改善と問題の解決を目指す。メンバーには、自治会事業に忙殺されない、役員以外の会員を募った。

プロジェクトチームの発足―住民の積極的な力が集まる

 会報の呼びかけに16名(男性12名、女性4名)が手を挙げた。自治会が発足した頃からの住民、中村公陽(こうよう)さん、大野恒雄さんも協力を申し出たメンバーだ。
「私がここに引っ越してきたのは、天王台の駅ができた昭和46年。当時はまだ、駅までの道も整備されておらず、田んぼの中を歩いて通勤電車に向かいました」
 そう語る中村さんは、現在も防犯パトロールの世話人を務め、大野さんらとともに、週2回、徒歩で巡視活動を続けている。街路灯の整備にも10年以上前から関心があったという。
 募集に応じた住民に、自治会役員6名が事務局として加わり、平成25年の9月から、プロジェクトチームは、月2回のペースで会合を持った。メンバーの中には電気工事の専門家もいて、「街路灯のLED化」の議論が先行する形となる。

合意形成のための丁寧な調査と説明の取り組み―新たな発見も

 既にLED化を終えた近隣自治会への視察や、照度調査、補助金の確認、自治会内の街路灯をあらためて把握し直すなど、準備作業は様々にあったが、自ら進んで協力を申し出たメンバーであり、目的意識も共有されていた。プロジェクトチームの議論や活動内容は、事務局から自治会役員と住民に向けて、報告・説明が行われた。
「説明会で、他にも補助金があるのではないか、という声があれば、徹底的に調べました。LED化の効果に疑問がある住民には、交換を終えた近隣地区の視察へ同行するよう声をかけ、実際に見てもらうことで、理解を求めました」(中川さん)
 自治会住民の合意形成を図るための丁寧な取り組みによって、プロジェクトチーム側でも、いくつか新たなことに気づかされたという。例えば、電球の仕様が同じでもメーカーによって明るさの感じ方が違うことや、電力会社への申請費用の節約方法などは、計画を再検討するための良いきっかけとなった。

わずか6ヶ月で着手決定 10ヶ月でLED化完了

 プロジェクトチーム発足から6ヶ月後の平成26年3月、自治会の定期総会でLED化の計画実施が決議され、5月から工事を開始。新設19を含む240の街路灯が7月までにすべてLED化された。
 電気料金は従前の3分の1となり、電球の寿命も大幅に延びたことから、自治会経費の削減に大きく貢献している。
「工事終了後に、私が聞いたクレームはたった1件だけ。明るすぎて困るというものでした」(中川さん)
「市が管理する街灯は、まだLEDになっていないところがある。比べると一目瞭然なので、市も早く交換してほしいと役所に電話した」(中村さん)
「自治会の取り組みが7割くらいまで済んでます。市もこれから交換すると言っていましたよ」(大和さん)
―皆さんが話す笑顔に、長年の課題を短期間で解決できた自信と喜びがあふれているように見えた。

プロジェクトチームのその後―課題解決に必要なのは、人の力とタイミング

 プロジェクトチームは、平成26年度から特別委員会に改組され、発足当初の課題として残された「自治会の在り方の検討」、「青年館の老朽化対応」などについて議論を続けることになったが、まだ成案は得られていない。
「LED化について、専門的に取り組むメンバーを募ったことは、本当に良かったと思う。積極的な議論ができたし、自治会の役員をやりながらでは難しかった。他の課題も同じような方法で解決できるはず。そのためには、住民が、本当に解決の必要性を感じるまで待つ必要がある。LEDがうまくいったのは、そのタイミングだったからだろう」(中村さん)
 この発言に、大和さんが続く。
「やっぱりメンバーの力、人の力がカギになるということがわかりました。」

住民の多様な知識と経験が集まる〈三つの「い」場所〉づくり

 大和さんは、前出のレポートの中で、〈三つの「い」場所〉というキーワードを挙げている。「い」る場所、「い」く場所、「い」かす場所というのがそれで、当時、仕事をリタイヤする時期にあり、プロジェクトチームに参加した自身の経験から気づいたことだそうだ。
『「い」る場所は家庭です。「い」く場所と「い」かす場所は、最も身近な自治会活動(地域活動)にありました』(レポートより引用)
 住民の多様な意見や考えをまとめることに、全国どこの地域組織でも、頭を悩ませていることだろう。しかし同時に、住民の多様な知識や経験は、地域にとって、かけがえのない財産でもある。
 前者の困難さにひるまず、後者の活用に集中できたこと―これが今回の自治会の取り組みを成功に導いたのだと思う。課題を「速く」解決したことよりも、「丁寧に」取り組んだことに心から敬服する。自身の地域活動においても肝に銘じたい。