「まち むら」132号掲載
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あなたが大切 だから、あなたの子育てが大切
埼玉県上尾市 NPO法人 彩の子ネットワーク
 「NPO法人 彩の子ネットワーク」は、1999年、「彩の国さいたま子育てネットワーク」として発足。2002年からNPO法人として埼玉県域をベースに活動を展開している。
 現在、上尾市つどいの広場「あそぼうよ」(上尾市二ツ宮)を拠点に、さいたま市子育て支援センター「みぬま」(さいたま市見沼区)の2か所を運営するほか、埼玉トヨペット鰍フ地域活動「はあとねっと輪っふる」に参画し、毎月2回、「赤ちゃんのための赤ちゃんサロン『ベビコミ』」を開設。いずれの活動も、子育て中の母親たちが中心となって運営している。
 「あなたが大切 だから、あなたの子育てが大切」をキャッチコピーに、赤ちゃんや幼い子どもを中心に、子ども同士、母親同士、さらに若者や高齢者へと“人と人との関係づくり”を地域全体に広げていくことで、育つときも老いるときも安心なまちづくりを目指している。

小さな声を大切に、母親たちの思いを発信

 核家族化が進み、少子高齢化に拍車がかかる現代社会の中で、子育ての重責は母親の両肩にのしかかる。見過ごされがちな子育ての労力、情報が氾濫する中で澱のように溜まっていく不安と孤独感。「自分だけが、うまく子育てできないのではないか」と自己嫌悪し、イライラが募って子どもたちに当たってしまう・・・。ごく普通の日常の中で、児童虐待に陥ってしまうケースも少なくない。
「活動始まりは、母親たちの“小さな声”でした」と話すのは、代表理事・みぬま施設長を務める関昌美さん。
「『子育てって、大変!』という母親の本音を声に出して発信したのです。悩んでいるのは自分だけじゃない―母親たちが互いに語り合い、共感・共鳴することで、子育ての『孤立・不安』を『喜び・楽しみ』に変えていく子育てネットワークが生まれたのです」
 上尾市つどいの広場「あそぼうよ」の運営スタッフ・山口直(なお)さんは、5歳の双子男児の母親。「利用者として初めて来館したとき、お弁当を持ってくれば昼ごはんを一緒に食べられることが嬉しかったですね。自分たち親子だけで食べるより、何倍も美味しくて(笑)」と振り返る。
「『あそぼうよ』に通い続けるうちに、“自分の子”としてだけではなく、“地域社会の子”でもあるんだという意識が芽生えてきました。自分にも何かできることがあるのではないかと思い、3年前から運営スタッフとして参加しています」
 自分の子が小さかったときには気づかなかった発見もたくさんある。
「子どもたち自身も、さまざまなことを発信しています。2歳のあろ男の子が初めて『山口さん』と呼んでくれたときは感動しました。○○ちゃんのママでもオバチャンでもなく、自分と関わってくれる大人の一人として、私のことをちゃんと認識してくれたのです。子どもたちも、母親たちも、いろいろな人たちと知り合うことが“生きる力”になっていくのだと思います」

高齢化が進む団地で新たな試み「出張あそぼうよ@かわらぶき」

 尾山台団地(上尾市瓦葺)は、市内有数の大型団地の一つ。高齢化率42.7%(上尾市平均24.5%)を憂慮した自治会長・尾上道雄さんがけん引役となり、2006年1月に「たすけあい友の会」を発足。活動の場を周辺地域へと広げるために、2010年9月、「NPO法人ふれあいねっと」を設立した。事務局のある団地内の「尾山台みんなのひろば」を会場に、今年5月からスタートしたのが、「出張あそぼうよ@かわらぶき」だ。
 毎週月曜日(祝祭日を除く)、10時から15時まで開館。幼い子どもを連れた母親たちが思い思いに訪れ、手遊びをしたり絵本を読み聞かせする「ハッピータイム」などを一緒に楽しんでいる。「出張あそぼうよ」が開催される月曜日に事務局当番を務めるのは、自治会副会長・伊藤昌人さんと鈴木みち子さん。楽しげに笑う母子たちの姿をいつも温かく見守っている。
「毎回、20組・40人前後の利用者が集います。開始から5か月経ち、ハイハイしていた子が歩けるようになったり、子どもたちの成長の早さには驚くばかりです。お母さん同士のつながりも深まり、表情も明るくなりました。『出張あそぼうよ』の取り組みは、利用者だけでなく、団地内および周辺地域にとってもプラスになっていると思います」(伊藤さん)
「私たちの世代は、孫も大きくなり、小さな子どもたちとふれあう機会は滅多にないこと。自治会や団地内の高齢者の方にも赤ちゃんたちにぜひ会いにきてほしい。『尾山台みんなのひろば』は郵便局と併設し、スーパーや商店街もある人通りの多い場所にあります。一般の方々にも気軽に立ち寄って参加していただける“ふれあいの場”にしたいですね」(鈴木さん)

毎年3月に「こども☆夢☆未来フェスティバル」を開催!

 「彩の子ネットワーク」の一大イベントとして、毎年3月、埼玉県県民活動総合センター(伊奈町)で開催される「こども☆夢☆未来フェスティバル」は、活動の輪を地域社会へと広げる大切な情報発信の場でもある。実行委員会を主体に、100以上の団体・企業が参加する大規模な交流イベントで、毎年8000〜1万人の来場者でにぎわう。主役は、子どもたち。高校生を中心とする学生ボランティアも約200人参加し、マン・ツー・マンで幼児たちと関わり合う「保育ボランティア」などを務めている。
「子どもも、若者も、大人も、幅広い世代の人が参加して、やりたいこと、夢を叶える場。『どうしたらできるかな?』をみんなで考えてつくる催しです。現在、3月20日に開催される『こども☆夢☆未来フェスティバル2016』に向けて実行委員会も開かれ、準備を進めている最中です。今回は、タレント・女優・モデルとして活躍するサヘル・ローズさんをゲストに迎えてトークセッションを企画。孤児院で暮らしていたサヘルさんは、現在の養母に引き取られ、8歳のときに養母と共に日本へ移住。生活自体が立ち行かない状況も経験した中で、『生きる』ということをとても大事にされています。サヘルさんのお話から、子どもたちの未来に何ができるのか、来場者のみなさんと一緒に考える日にしたいと思います」(関代表)

赤ちゃんや子どもたちから教えてもらうこと

「きっかけが見つからないだけで、子どもたちとふれあいたい人、関わりたい人はたくさんいるはずです」と関代表。忘れられないエピソードを語ってくれた。
「私が施設長を務める『さいたま市子育て支援センター みぬま』に、近くにある高齢者向け施設の利用者の方が興味を持たれて訪ねていらしたことがあります。手を引いて館内へ案内して、子どもたちと話したり、一緒に遊んだりしていただいたのですが、帰るときには杖なしで歩いて行かれたんですよ。子どもたちとのやりとりを通して、気持ちが“動くこと”はとても大切なことだと実感しました。赤ちゃんや子どもたちから教えてもらうことはたくさんあります。子どもたちがまっすぐに伝えようとしていることを、子育て中の人たちだけでなく、幅広い年齢層の方にも知ってほしい。それが私たちの願いです」(関代表)
 「彩の子ネットワーク」が活動開始して16年。年間利用者は全体で4万人にも及ぶ。仕事を持つ親、学生など、だれもが参加できる機会を少しでも増やそうと、「日曜サロン」も10月から開始された。利用者の子どもたちや、ボランティア体験した学生たちも、学生や社会人、親世代となり、活動を支えてくれている。
 未来への可能性を無限に秘めた子どもたちを「核」とする活動は、地域社会の絆を育む源流となって、着実にその流域を広げている。