「まち むら」131号掲載
ル ポ

住民の交流も大きな目的―みんなで「楽しく」防犯パトロール
埼玉県上尾市 陣屋町内会自主防犯ボランティア
宅地開発で住民が急増した地域の「防犯課題」
 
 上尾市は埼玉県の南東部に位置し、約10万世帯が暮らす住宅都市である。
 同市では、町内会・自治会の活動地域を事務区とし、地域の行政区域に位置付け、区長を委嘱している。今回、取材させていただいた「陣屋町内会自主防犯ボランティア(以下、町内会)」は「陣屋事務区」に区分される。町内会の代表である太田崇雄(みつお)さんは、会員から「区長さん」として、親しまれている。
 この地域では、10年ほど前から宅地の造成が盛んに行われるようになり、住民が急増した。そのほとんどは若い子育て世代だ。区画整理をせず、農地や林が住宅地に変わったので、一戸建て住宅や、集合住宅の間を縫うようにして短い道路がジグザグに通っている。そんな中、「夜間の暗さ」を不安視する声が住民から漏れ聞かれるようになる。

大学研究室との偶然の出会いから始まった「住快環プロジェクト」

「どこが、どのくらい、なぜ、暗いのか?」太田区長は、街灯設置を行政に要請するための調査が必要だと考えていたが、町内会にその具体的方策がなかった。
 そんな折、上尾市と近隣である東大宮(さいたま市見沼区)にキャンパスを持つ、芝浦工業大学理工学部の三浦研究室が、街灯の夜間照度調査地域を公募しているのを知る。これは全くの偶然だったが、町内会の抱える課題とピッタリ合致しており、率先して手を挙げた。
 「住快環プロジェクト」と名付けられた取り組みが大学と町内会の共同で始まったのは平成19年の6月。道路や街灯の現況把握、測定方法の指導などといった、下準備を含め、半年間にのべ300人の住民が参加した。
 照度測定は、町内1600か所以上で実施された。町内会では、それと並行して「夜間の明るさ」についてのアンケート調査を行っている。普段は見落としがちな住環境の実態をあらためて住民に意識してもらうきっかけとなっている。
 調査結果を50ページの報告書にまとめ、行政へ提出。結果、地区内には現在までに約90か所の街灯が新設(電球交換含む)されている。だが、町内会の取り組みはこれで終わらなかった。「何事もやりっぱなしはダメ。経過も把握し、住民に報告する必要がある」と太田区長は語る。
 大学と町内会で、5年後の平成24年に再度、照度測定とアンケート調査を実施。街灯の経年劣化と住民の意識変化を把握し、維持管理や、住環境改善の方向性を明らかにしている。アンケートによれば「暗い」「とても暗い」という回答は5年間で8割から5割に減少した。
 60メートルごとに1基という上尾市の基準によれば、町内のほとんどで街灯設置が済んでいる。それでも暗いと感じる所には、各戸の玄関先の門灯を町内会が無償でLED電球に交換する取組みを進めた。対象の世帯には、電気代も節約できるので、終夜点灯をお願いしている。

地域デビューのきっかけとしての「パトロール活動」

 街灯設置の取り組みをきっかけに、町内会のもうひとつの大きな事業である「防犯パトロール」が立ち上がった。これもまた、住民の意識把握から始め、町内会では「防犯意識アンケート」を行っている。
 同アンケートで目を引いたのは、防犯活動に参加できない理由の問いに、「時間の都合がつかない」「特に理由はない」という回答が8割以上を占めたことだ。「負担が大きい」「わずらわしい」という声は2割に満たない。太田区長は「住民が町内会の活動に出てくるきっかけに、防犯パトロールは有効だ」と話す。たしかに、パトロールへの参加には、特別な知識や技術は必要ない。実施する時間帯や回数を調整すれば、多くの住民から協力を得られるはずだ。
 この結果を受け、町内会は警察庁の「現役世代の参加促進を図る環境づくり支援事業」に応募し、県内唯一の団体に指定される。平成23年10月に「青色回転灯パトロールカー(以下、青パト)」の出発式が行われ、同時に毎月の資源リサイク李活動が始まった。天然ガスで動く車両の購入費用ほか、事業に関わる費用は、  その収入で賄っている。パトロールに参加できない高齢者などには「資源供出が防犯に十分役立つと伝えている」と太田区長は言う。
 青パトの巡回は、平日の朝、小学校の通学路で、夜間は1日おきに隣接事務区を含む広域で、それぞれ1時間程度行われている。年間の走行距離は6000キロにのぼる。

おしゃべりしながらパトロール 住民の交流は防犯にもつながる

 一方、住民に広く参加を呼びかけているのが、毎週土曜日の夜間徒歩パトロールである。ほぼ毎年交代する「班長」を7名ずつ11のグループに分け、年に4回徒歩パトロールに参加するよう要請。班長は70名以上いることから、「10年やれば、かなりの人数が参加することになる」(太田区長)。現在では年間にのべ900名が参加している。
 パトロール開始の午後7時、公民館に住民の皆さんが集まってくる。ほとんどが20代から40代の若い方々で、子ども連れの父母が多い。子供会の役員の皆さんも参加しているという。
 30名以上の参加者全員に蛍光ベストと帽子、誘導棒が配られ出発。区長代理の茂木英治さんが拍子木を叩いて先導する。
 パトロール中、何か呼びかけをしたりするわけではない。暗い箇所や危険な箇所を確認している様子も見られなかった。自動車の接近などには注意を払っているが、いい意味で「ダラダラ」と歩いているだけだ。そして何より、子どもも大人も歩きながら、ずっと「おしゃべり」をしていたのが、実に印象的だった。太田区長は「パトロールを堅苦しく思ってほしくない」そうだ。
 参加者の何人かにお話をうかがった。今年は班長だから、子供会の役員だからというのが参加の理由で、地域のため、防犯のためといった気負いは感じられない。「こういうパトロールをどう思いますか?」と聞くと、「区長さんや役員さんがよくやってくれるから」と答えてくれた。
 別のコースを進む青パトと、途中で何度か行き会う。短い道が折れ曲がり、見通しが悪いので、青い光が突然に現れる感じだ。いわゆる「閑静な住宅地」なのだろうが、通勤や通学からの帰途、この一帯が暗いと、かなり危険を感じるに違いない。太田区長が新設された街灯や、LED電球へ交換した門灯、近隣地域との明るさの比較などを説明してくれた。

地道で丁寧な取り組みで次世代に地域を引き継ぐ

「一緒に歩きながら話すことで知り合いになった班長さんがたくさんいる」と、茂木区長代理が言う。筆者も地域に新しくできたマンションの自治会長を数年務めているが、お祭りや運動会などの規模の大きな行事に住民の参加を得るのは難しい。こうしたパトロールなら気軽に参加してもらえそうだ。
 町内会では、年間の分担名簿だけでなく、当番の日が近くなると、班長宅に案内状を出しているという。毎回の参加者人数もきちんと周知する。
「無理のないように、会員同士でコミュニケーションをとってもらうことが一番」と太田区長は言うが、提供していただいた多数の資料を拝見すると、とても丁寧な役員の皆さんの取り組みが町内会の事業を支えていることがわかる。そのご苦労に敬意を表するとともに、今後も地道な取り組みを引き継ぐ、新たな世代が登場することに、大きな希望を寄せたい。