「まち むら」131号掲載
ル ポ

海辺の町浦安 ふるさとの海を子どもたちにつなぐ
千葉県浦安市 浦安三番瀬を大切にする会
 三番瀬(さんばんぜ)、かつての浦安の海は江戸前の魚貝・海苔が採れる豊かな漁場でした。1958年製紙工場の汚染水が流入した本州製紙事件は、産業構造の発展の中、水質汚濁防止法制定の発端となりました。そして、その後の高度経済成長期に行われた海面埋立てなどにより、浦安は「漁業の町」から「都心に近い人気の住宅地」へ変遷してきました。現在も三方を水辺に囲まれる浦安は、新住民のほとんどが市外からの移住者であり、立入りに制限のあった水辺が市民から遠い存在になっていました。この変化の中で、東京湾に残る生命を育みながら、きれいな海に甦えらせる力も持つ浅瀬・干潟が三番瀬です。浦安三番瀬を大切にする会は、この海を観察会や清掃活動を通して故郷の海を身近に知ってもらう活動をしています。

浦安三番瀬クリーンアップ大作戦

 新街のインフラ整備のため、三番瀬に面する通路は工事用道路でアクセスすることができず、海岸には多くの漂着ミゴが見られました。こんなに身近な海にもかかわらず海に親しむことができない状況に、当時PTAや自治会などで活動する上野菊良さんと環境活動家の横山清美さんが、海岸の清掃を通してこの身近な海を知ってもらう機会をつくることは出来ないか、と1999年に「浦安三番瀬クリーンアップ大作戦」の開催を浦安市民発で企画します。市民・行政、その他市内の多くの関係者を巻き込みこのイベントは実現していきます。現在までに全17回開催し、地元のラジオ局や野球団の協力を得るなどして、延べ6701名が参加するイベントになっていきました。当時の浦安市・環境保全課の大野さんは「ごみの減量を如何に市民に考えてもらうかという時に、市民活動がキーになると思っていたところでした。環境の問題は市民・行政にそれぞれの役割があると考えていましたので、市民が主体となって始まったクリーンアップでは、市は主体的に後援する立場で関わりました。部署が代わってしまうとそののち関わらない行政マンもいますが、浦安に居る限りこの活動に関わっていきたいと思っています」と当時からの想いを伺いました。
 会では、大作戦開催の間も毎月、小規模なミニクリーンアップを行ったり、「ひがたハンドブック」の発行、市施設への三番瀬水槽の設置、観察会や生物調査、企業や市外からの環境団体の視察・案内などにより環境学習を実施していきます。これらの活動の中で「浦安水辺の会」や「浦安自然まるごと探検隊」と共同しながら三番瀬を知ってもらう活動を続けていました。

東日本大震災の発生

 2011年東日本大震災は、三番瀬の日の出干潟にも影響を及ぼしました。2011年4月には干潟の干出域が小さくなるといった地盤沈下の影響が確認され、護岸の一部が破損した三番瀬は再び立ち入りが禁止されるようになります。これにより、観察会やクリーンアップの開催ができなくなってしまいました。三番瀬に面する通路は、安全性が確保されないとの理由で、目の前にある海にアクセスすることが許されないという状況が続きました。三番瀬へ至るまでのわずか数十メートルの土地は、国・県・市がそれぞれ管轄していることからそれぞれの観点から安全性の確保がされないと通行が許されないという状況が4年、続きました。2014年10月12日、行政を動かします。「三番瀬に親しむみなさんへ」看板設置の除幕式と共に念願のクリーンアップ大作戦を再開、私たちのふるさとの海を身近に触れることができるようになりました。体験イベントのカニ釣りは、子どもたちに大好評。大人も子どもも自然とのふれあい方、ただ、遊び方を知らなかっただけで夢中で取り組んでいました。

みんなで海辺の町浦安をつなぐ

 浦安市民にとって触れ合うことのできる水辺は生活にとってかけがえのない浦安の資源です。「仕事をして家に帰る日々を送っていましたが、子どもを持って『地元』ってなんだろうと思っていたときに、日の出干潟観察会に参加しました。遠くに行かなくても、こんなに楽しめる場所が身近にあると気づき、その体験が、浦安って楽しいところだと実感できました。子どもたちが楽しめる場所が制限された結果が、ゲームなどをするようになっています。そんなことを感じる中で、観察会に来た子どもたちが、このリアルな自然体験を楽しむ姿に接していると、この体験をしていないことがもったいないのではないかと思うようになりました。私はその時、子どもたちにとってこの原体験が浦安をふるさとだと感じるものになると確信しました」と現会長の今井さん。現在、浦安の三番瀬に面する場所では、行政による緑道の整備と環境学習施設の新設が計画されています。水辺に触れることができるようになり、さらに身近になる三番瀬。私たちの街・浦安にとって自然を体感できるかけがえのない大切な環境です。今後、浦安三番瀬を大切にする会では、三番瀬で採れたものを食べることができる「三番瀬まつり」などを企画し、子どもたちの世代に海辺の町浦安、ふるさとの海を子どもにつないでいくための活動を行っていきたいという想いがあります。併せて多くの市民が接することで三番瀬の自然と水辺の危険に対する利用者の安全を守るためのルールづくりも考えていく必要があると考えています。
 私は、行政と市民の役割分担の中で三番瀬を次の世代に繋ぐ役割を担っていくことが三番瀬を大切にする会に求められているのではないかと思います。
 2016年のクリーンアップ大作戦は、緑道のオープンに合わせて開催される予定であり、より多くの市民が浦安にあるこの魅力的な海に接することができる機会となっていきそうです。