「まち むら」130号掲載
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“次世代の子どもたちのために”大人としての使命としての活動
熊本県八代市 次世代のためにがんばろ会
 八代市は熊本県の南部に位置し、県下で第二の人口を有する田園工業都市である。日本三大急流の一つである球磨川など恵まれた水環境の中、農業、工業、生活用水に地下水を利用している。しかし、近年の生活様式の変化などの要因により、自然環境の汚染が進んできている。そのような中、河川浄化を始めとした環境問題に取り組む活動が市民の意識を動かしてきている。

八代市内のごみの現状と河川の水質悪化に気付いたとき

「次世代の子どもたちが健康で安全な生活を送れるように」との思いから、〈Think globally, Act locally〉(考えは地球規模であるが、まずは身近なところから行動!)をコンセプトに、地元河川の水質浄化や、環境問題の啓発活動に取り組んでいるのが「次世代のためにがんばろ会」(代表・松浦ゆかりさん)だ。この会は、河川の不法投棄など大人の意識の低さの現状を改善するには子どもたちから大人への教育が重要≠セと考え行動している。

かき殻による河川の浄化活動

 松浦さんの八代に対する熱い思いにまず賛同したのは、地元八代高専(現熊本高専)に勤務されていた生物工学科の森田洋先生(現北九州市立大学教授)である。そして、市民環境研究委員有志13人と森田先生、市役所職員とでこの会を立ち上げた。発足当時、話し合いや理想論ばかり出る中、“動かなければ何も始まらない”と、顧問の森田先生に相談を持ちかけた。そこで、当時は全国数か所の行政でしか行われていなかった「かき殻」を使った河川浄化活動を、「市民団体として初めてしてみましょう」との森田先生の提案で乗り出した。 
 第1回は平成14年、会員と地域の子どもたちや市の職員だけで市内の小さな水路に地元の漁協許可の元、浜辺で採取したかき殻を沈めた。その後は、毎月河川の状況・水質調査や清掃を行った。水質が改善され、水生生物が増えていく様子に感動する小学生の姿を見た松浦さんは、「自然環境の尊さについて、次世代を担う子どもたちに伝え“身近な川や自然を守る人づくり”をしていこう」と思ったという。現在では、地元の小学生やPTA、地域住民も巻き込み、規模も参加人数も増え、「官・民・学・産」の共同活動となり市内九つの高校・高専生など1000人を超え、全国的にも有名になった。現在は、熊本県の依頼を受け、ダム湖などでも実施しており、この活動は環境学習の場だけにとどまらず、世代や地域を超えた交流の場となってきている。松浦さんは今後、ホタルの再育成なども含めて、球磨川支流の河川全体に広げていき「ホタルまつり」の開催を目指している。

河川から海岸の環境に

 河川の浄化と並行して行われているのが、「こどもごみパトロール隊」である。国土交通省や保健所と共催で、子どもたちと川岸のごみ拾いを行い、ごみの現状を実際に見せる。そして、そのごみは大人が捨てたものか、子どもが捨てたものかなど真剣に考えさせる。さらに市廃棄物対策課の指導のもと、ごみの分別や野鳥観察会なども併せて行っている。「五感体験で実際に現地に足を運び、触れて、見て、考えて、何かを感じてほしい」と松浦さんは話す。河川の活動は、海へと広がり、市内の児童や保護者などによる浜辺の大掃除大会も開催されている。同期日同時間に複数の八代海の浜辺でごみ拾いを行い、種類や内容などを観察、分別、水質調査まで行うことで、川や海にごみを捨てない人づくりと身近な水環境が私たち地域住民の生活に与える恩恵を学んでいる。これらの活動から、「ふるさとエコすごろくカルタ」や「希少生物カルタ」を市内の高校・高専と共同制作することなどにより、生きた学習が行われ、健全な自然生態系の保持に対する意識はもちろんだが、自然界の変化や自分たちの行動が与える影響を自ら考える力を養うことで次世代の指導者になることが期待されている。

資源循環型社会を目指した活動へ

 年々、増えていく家庭ごみに焼却炉も悲鳴をあげ「八代市ごみ非常事態宣言」も活動の中、発令された。そしていよいよ危機的な状況になりつつあり、現在もその宣言は続いている。そこで、市内の幼稚園や小学校に市廃棄物対策課の派遣により「ごみ問題の出前授業」を行っている。授業内容は、@紙芝居を独自で作り実演 A実際に生活している中で出るごみを細かく22種類に分別 B会員が配役になり劇を演じる C会で作成した「ごみ問題の現状」の映像を見せる。など、子どもたちに意識を持ってもらうことにより、家庭(保護者)への啓発を目的とするものである。「子どもたちの反応は生き生きとして、活気のある授業になっている」と、依頼した学校の先生方は手ごたえを感じている。八代市のごみの中でも、水分を含んだ生ごみの比率はとても高いという。その生ごみを堆肥化することにより、およそ40パーセントのごみの減量に繋がるという調査結果を元に、生ごみ処理箱「もったいなか箱」(※注)を八代市としての取り組みにして欲しいと、市長へ「提言書」提出も行った。
 ここに至るまでモニター調査やワークショップを多く行い、現在の形にたどり着いている。「もったいなかキャラバン隊」という会員制度を「次世代のためにがんばろ会」から立ち上げ、堆肥化開始時の説明だけでなく訪問指導やメンテナンスなどのフォローも定期的に行い、継続型の活動を行っている。また利用者間での交流として、出来た堆肥を使った実験畑での野菜の栽培やその野菜を使った料理教室などもあり、意見交換だけではなく楽しんで続けられる仲間作りにも役立っている。さらに、ごみ問題のワークショップの開催、情報誌の作成・配布などの啓発活動も資源循環型社会を目指し積極的に行っている。また、実際にごみを出さない活動として、『リユース食器を無料貸出し』システムを市民に提供し、ごみと焼却時に発生する二酸化炭素の二つを減量できる仕組みをも構築している。
「子どもたちは世代間・地域間交流の体験学習活動の中で、様々なことを学びます。そのためには、大人である私たちがしっかりと学び、考え、伝えられる人にならなければなりません。子どもたちは自ら体験したことを、また、その次の世代へと引き継がれていくことを期待しています」と松浦さんは笑顔で力強く話す。そこには、地域と子どもたちを愛する大きな愛が満ち溢れていた。

(※注)「もったいなか箱」とは、黒土・もみ殻・おがくずを入れた箱(基材)を日当たりと風通しがよい場所に設置し、太陽と風とバクテリアで生ごみを分解するというものであり、この箱の利点は、毎日混ぜる必要もなく、いつでも土に埋め込むだけでいいという手軽さ、ランニングコストもかからないなどがあげられる。