「まち むら」130号掲載
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地域の夏みかんで作るマーマレードで伝える「もったいない」の気持ち
東京都杉並区 もったいない倶楽部
 杉並区教育委員会の主催で、地域づくりに関する講座やグループワークを行っている「すぎなみ大人塾」。「もったいない倶楽部」は、同塾の2007年度前半の講座「スローフードな地域づくり〜地産地消」で学んだ参加者の中から、農業や食についてもう少し学び、地域に生かしたいと10数人が集まり、「地域」と「人」、「食」をつなげるネットワークを構築していこうと活動を始めた。

「もったいない倶楽部」が活動を始めたきっかけ

 「すぎなみ大人塾」の卒業生たちが、「食をテーマに何かできないか」を話し合っていたとき、「夏みかんが道路に落ちていて“もったいない”。有効活用できないだろうか」という声がつぶやかれた。この一言からグループ名を「もったいない倶楽部」とし、2008年春からマーマレード作りを開始した。
 調理師免許を持つ代表の太田信司さんをはじめ、栄養士の資格を持つメンバーが中心になり、おいしさだけではなく食品管理の知識を生かしながらマーマレード製造の体制を整える。「最初は、自分たちで作ったものを知人や友人たちにお裾分けできればいいと思っていましたが、せっかく作るなら多くの人に杉並産のマーマレードを食べてもらい、マーマレードを通じて“もったいない”の考えを伝えたいという気持ちが生まれました」と、代表の太田さんは言う。
 甘い物が手に入らなかった戦後、区内の家々では庭に夏みかんの木を植えて果実をおやつにしたというが、その木々が今でも残っている。調べてみると、高齢化で夏みかんの扱いが難しく、利用されないまま放置されていることもわかってきた。そこで、夏みかんのある家々にチラシを配って声をかけ、夏みかんをいただくことに。いただいたお宅には出来たてのマーマレードをお礼とし、喜ばれているという。

『杉並もったいないマーマレード』の誕生と販売開始

 同倶楽部では、大人塾祭りなどの区内のイベントで杉並区産マーマレードの紹介・試食等を行いながら、“もったいない”を伝える取り組みをしてきた。2010年には地域の障がい者就労支援に取り組む「NPO法人どんまい福祉工房」の依頼を受け、正式な販売に向けて連携することになった。
 当初は、同工房が製造するパンやシフォンケーキの練り込み用としてマーマレードを提供。翌年春からは、同工房が運営する飲食店LOCAVORE(ロカヴォア)で『杉並 もったいないマーマレード』の販売が始まった。支援員兼店長の中川順子さんは「マーマレードの製造と販売を利用者さんが楽しみにしていて、容器のラベル貼りの担当者は『仕事を任された!』と自信に満ちあふれています。マーマレード販売の収益が利用者さんの工賃に反映されることも、とてもありがたい」と話す。
 マーマレード作りと並行して、児童館の子どもたち向けのおやつ作り教室をはじめ、あすなろ調理研究会と食の大切さを学びながらみんなで作って食べる「土曜みんなで夕ごはん」を月に1度、約2年にわたり開催した。こうした活動は、作って食べる大切さを地域の幅広い年代の人たちに伝えるという、もったいない倶楽部のネットワークづくりの考え方によるものだ。

福井県池田町との食と人の交流会を開催

 同倶楽部メンバーの一人が、福井県今立郡池田町に何度か足を運んでいた。その関係で、人口約56万人の住宅地・杉並区のもったいない倶楽部と人口約3千人の岐阜県との県境に位置する中山間部の町・池田町のファーム・コムニタとのつながりが生まれた。池田町は緑豊かな山々に囲まれ、町全体で循環型農業に取り組んでいる。池田町から購入した米や野菜、味噌や酒のおいしさは、都会の住人である同倶楽部のメンバーたちを魅了した。
 「顔を見せ合える生産者と消費者になりたい」という双方の思いから、2009年12月に池田町のファーム・コムニタのメンバー10人が杉並を訪れ、夕食を一緒に作って食べる交流会を開く。2010年の大人塾祭りには池田町も同倶楽部と共に出展し、米や農産物の展示・試食・即売を行った。また、この年の11月には同倶楽部が池田町を訪問し、再度夕食を一緒に作って食べる交流会を開催している。2011年11月には、西荻窪にある地域のお年寄りが交流できる「まちレストラン・かがやき亭」で、池田町の食材を使った「池田町の秋を食べよう!!」と題したランチを提供した。
 その後は、同倶楽部のメンバーが個人的に池田町を訪れたり、池田町から同倶楽部の定期会合に参加したり。同倶楽部からはマーマレードを、池田町からはフキノトウや銀杏など季節のものを贈り合うなど、親戚づきあいに似た関係を築いている。

「出来る人が、出来ることを出来るだけ」が、長続きの秘訣

 マーマレードを作り始めた当初はメンバーが訪問して夏みかんの収穫をしていたが、最近では夏みかんのある家々が収穫し、メンバーの集荷を待っていてくれるようになっているという。夏みかんをいただけるお宅も年々増え、今年度は夏みかん700個で200キロ、マーマレードは110キロを製造している。
 NPO法人すぎなみ環境ネットワークが「杉並区内の夏みかんでマーマレードを作ろう!」という今年3月に開催した講座では、同倶楽部がマーマレード作りを指導し、参加者からは「味も良く満足」「思ったより簡単にできるのが良かった」という声が寄せられた。「私たちが作れるマーマレードの数は限られている。これからも講習会などで私たちのマーマレード作りをお教えし、賛同者を増やすとともに、マーマレードを通じて“食のもったいない”を伝えていきたい」と、太田さんは話している。
 同倶楽部が発足し、マーマレードを作り始めてから8年が経つ。40代から80代のメンバーが「出来る人が、出来ることを出来るだけ」を心がけて活動してきたことが、継続の要因だろう。営利目的ではないマーマレード作りを軸に、地域や人とのつながりを少しずつ広げてきた取り組みは、地道だが地域活動における基本の姿を示しているように感じられる。