「まち むら」130号掲載
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NPO法人を立ち上げ、地域ぐるみで孤独死問題に挑む
千葉県松戸市 常盤平団地自治会/NPO法人孤独死ゼロ研究会
 高齢化が進む千葉県松戸市の常盤平団地では、常盤平団地自治会と常盤平団地地区社会福祉協議会が中心となって孤独死防止活動を展開している。「孤独死ゼロ作戦」を策定し、「住民とともに考え、住民とともに対応する」活動を推進しているのが特徴だ。さらに、特定非営利活動法人(NPO法人)孤独死ゼロ研究会を設立し、孤独死問題を体験的・専門的・学術的に深める取り組みも開始した。

独居男性の孤独死が活動のきっかけ

 常盤平団地は、高度経済成長期に日本住宅公団(現・UR都市機構)が開発した5359戸の大規模賃貸住宅団地で、1960年から入居を開始した。ピーク時は2万人近くが暮らしたが、少子高齢化の急進展に伴って現在約8200人となり、高齢化率は40%を超えている。
 地域活動も活発で、1962年の常盤平団地自治会結成以降、まつりや運動会などのイベントやサロン事業を展開し、団地内の住民交流を深めてきた。1996年には松戸市内第1号となる地区社会福祉協議会として常盤平団地地区社会福祉協議会を結成し、団地自治会とともに住民福祉活動にも力を入れている。
 その常盤平団地が「孤独死問題」に直面したのは2001年の春。60代の独居男性の白骨死体が発見されたのだ。
「口座から落ちていた家賃の支払いが滞ったことが、発見のきっかけでした。それまで誰にも気づかれずに死後3年が経過しており、団地住民は大きな衝撃を受けました」と常盤平団地自治会会長の中沢卓実さんは当時を振り返る。
 翌2002年にも、こたつに伏せたまま死後4か月が経過した独居男性が発見された。相次ぐ孤独死に危機感を強めた団地自治会と団地社協は、孤独死対策に乗り出していった。

「孤独死ゼロ作戦」を推進

 手始めに、「おかしい」と感じたら団地自治会等に連絡してもらう「孤独死110番」体制を2002年4月に構築し、孤独死の予防や早期発見を図っていくことにした。7月には「孤独死を考えるシンポジウム」を開催。以後、毎年行って地域ぐるみで孤独死問題に対する意識を高めている。見守り強化も図り、新聞配達時に新聞がたまっているなど異常を察知した場合に団地自治会に知らせてもらう協定を新聞販売店と締結し、異常時にドア開錠を行ってもらうようにカギ業者と覚書を交わした。
 行政にも働きかけ、松戸市に対して孤独死の実態把握を要請した結果、2003年から市内の孤独死のデータが公表されるようになった。2004年1月には厚生労働大臣に孤独死への対応等を求める陳情書を提出し、これまで計3回の陳情を行って孤独死に対する国の取り組みを促している。
 取り組み3年目を迎えた2004年5月には「孤独死ゼロ作戦」を策定。孤独死の早期発見・早期対応、ひとり暮らしへの対応、地域コミュニティの推進、関係団体との連携、行政との協働と役割分担など八つの対策、とじこもり解消やあいさつ運動など人と人がつながって「いきいき人生」を送るための行動などを打ち出した。このゼロ作戦を受けて、「あんしん登録カード」を導入した。緊急連絡先やかかりつけ医などを記入したカードを団地社協に登録しておき、不測の事態が起こった場合、団地社協が緊急連絡先に連絡する仕組みである。7月には孤独死の対応拠点として常盤平市民センター内の団地社協事務局に「まつど孤独死予防センター」を設置した。
 2007年4月には、団地内の空き店舗を活用し、地域住民の交流と憩いの場として「いきいきサロン」を開設した。団地自治会と団地社協で家賃を折半し、有償ボランティアの世話人2人を配置。年末年始を除く毎日午前11時〜午後5時に開設し、入室料は100円。年間1万人〜1万3000人が利用している。
 また、孤独死予防の力となる人と人のつながりは、あいさつや近所づきあいから始まることから、@あいさつは幸せづくりの第一歩、Aみんなで創る「向こう三軒両隣」、B友は宝なり、という「地域の合い言葉」をつくり、団地内に看板を設置して地域住民に呼びかけている。

NPO法人孤独死ゼロ研究会を設立

 できれば触れたくない「孤独」や「死」の問題に真正面から向き合い、地域ぐるみの運動に広げていったことが、常盤平団地の「孤独死ゼロ作戦」の特徴だ。その取り組みは新聞やテレビなどでもたびたび取り上げられ、注目を集めた。全国から多くの視察者が訪れ、また中沢さんなどが各地で講演を行ったり、本を出版し、孤独死問題を全国に発信している。2009年度には団地自治会の活動が評価され、地域づくり総務大臣表彰に輝いた。
「年間15人〜20人だった団地内での孤独死が10人程度に減るなど、成果は着実に上がっています。しかし、ゼロになっていないのが現状。独居高齢者の状況は概ね把握できているものの、40代、50代の孤独死が発生しており、早期発見できないという新たな課題も生まれています」と中沢さんは話す。
 取り組みから10年目を控えた2010年4月には、NPO法人孤独死ゼロ研究会を設立した。団地自治会と団地社協が母体となって立ち上げた組織で、それまでの孤独死防止の経験を踏まえ、団地自治会や団地社協では取り組めない分野にも乗り出して活動を深めていくのがねらいだ。中沢さんが理事長に就任し、「孤独死ゼロ作戦」の普及・支援をはじめ、講師派遣や研修会等の実施、孤独死データの収集と調査・研究、孤独死防止や終活に関する相談、終活をテーマにした事業の企画や研究などの活動を開始した。
 具体的には「終活ノート」を作成するとともに、2013年4月に「常盤平団地終活フェア」を開催した。孤独死ゼロ研究会が主催し、団地自治会と団地社協などが共催、地元葬儀社などが協賛して実施した催しだ。市民センターホールで家族葬の内覧会を行ったほか、終活相談コーナーや納骨支援コーナーを設置し、全国初となる入棺体験も行って大きな話題を呼んだ。
「葬儀やお墓のことを知らない住民も少なくなかったことから、葬儀のあり方を考えようと企画。200人以上が参加し、テレビや新聞でも報道されて大きな反響を呼びました。入棺体験は死を疑似体験することで生の尊さを実感しようという試みで、当日は25人が体験しました。孤独死問題に取り組む中で『死は生のカガミ』ということを学びました。いい生き方をすれば孤独死は防げる。死に方は選べなくても、生き方は選べます。そのことを多くの人に伝えたい」と中沢さんは抱負を語る。今年12月に第2回の「終活フェア」を開催する予定だという。